2014年
青磁社
『風とマルス』は花山周子(1980 - )の第2歌集。2007年から2010年までの482首を収録。東日本大震災を挟んでそれ以前の自作を遠く感じ、まとめるのに苦しんだという。
花山周子は塔短歌会、同人誌「豊作」「sai」所属。2008年に第16回ながらみ書房出版文化賞。
石膏像マルスを奪え 思い出が消え去る前に抱えて走れ
なめらかに砂は海へと続きおり日に黄ばみいる砂丘の終わり
脇道に母と私は吸い込まれ父ひとりゆく白山通り
空っぽのエレベーターがわが喉を上下している白い冬の日
消すときの勢いのまましばらくは頭上に揺れる電灯の影
安全ピンに留められている地図一枚の太平洋の広さが弛(たる)む
ミッキーマウスの顔の無気味な構造に描こうとしつつ驚いている
渡された草をすぐには捨てかねて心もとなき歩みとなりぬ
全体が傾いている家なりしが写真に写せば傾いていず
遠い町に雑音はなく君の声だけがきちんとわれに聞こえる
満天星(どうだん)が火のように立つ遊歩道、枯葉の群れが跳ねつつ進む
西陽がちょうど壁の時計に差していて時計の針が見えない時間
夏休みは子らに訪れ来たるらしプールの匂い纏(まと)う子が行く
巨大なるタンクの影は膨らんで誰からもわれは発見されず
振り向きざまにパブロ・ピカソは佇めり性犯罪者の眼光をして
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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