また今月読んだ俳句関係以外の本だが、『現代タイのポストモダン短編集』というのが予想外に面白かった。デーンアラン・セーントーン「毒蛇」は、いわゆるポストモダン文学ではないが、緊迫感とラストの鮮やかさが抜きんでている。食いついてきた大蛇の頭をかろうじて掴んだまま全身を締め上げられる少年、最後に村人たちに発見はされるのだが……。
解説と前半の収録作品を読むと、タイの生活様式がもうすっかり先進国であるとわかり、従来の漠然とした印象がかなり違ってくる。ちょっと、昔のサンリオ文庫でも読んでいる気分。
西村京太郎『日本ダービー殺人事件』徳間文庫・1981年
《中央競馬に八百長はないという神話は果してくつがえるか? 12連勝を飾り、ついに日本ダービーに挑む怪物タマキホープ。そのオーナーとジョッキーのもとに、ダーピー出走を取り消せという脅迫状が舞い込んだ。その文面に、十津川警部は奇妙な苛だちを覚える。
続々おこる怪事件の中に、競馬界内部の不正を徹底的に追及する、競馬ファン必読のミステリー・ビッグ・ロマン!》
ミシェル・フーコー『わたしは花火師です─フーコーは語る』ちくま学芸文庫・2008年
《『狂気の歴史』から『知の考古学』『監獄の誕生』と中期の作品を書き継いで脂ののりきったフーコーの初訳対話・講演集。自らの軌跡についてはあまり語らなかったフーコーが、学生時代、若手教授時代の雰囲気などにもふれ、率直にその仕事を語る2編の対話、カントの「啓蒙」と「批判」というテーマを正面から展開し、18世紀における知と権力の関係の画期的な転回を明らかにする白熱の講演、中世以来の施療院的医療体制が17‐19世紀初頭にかけて近代的な病院=医学的知の体制に転換する過程をていねいに解明する講義2編を収める。70年代後半のフーコー自身による、格好の著作案内である。》(「BOOK」データベースより)
菊地秀行『妖神グルメ』ソノラマ文庫・1984年
《青黒い闇の中に巨大な石柱が林立し、その雨間を奇怪な歪みをみせて城壁がうねる海底部市ルルイエの街路は、幾百万もの白い骨で埋めつくされていた。そのすべてが、都市の主・妖神クトゥルーの食欲の証である。槍烏賊の頭と竜の胴と四肢を持つクトゥルーは、今またイトマキエイの大群をむさぽり食らいながらも、なお餓えていた。餓えはクトゥルーを蝕み、星辰の位置が定まっても復活が果たして可能かどうか危ぶまれるほどだった。腹が減っては戦が出来ぬ。この究極の餓えを満たすものは何か? 復活の時の到来を目前に、この狂える神の下僕は焦った。そして目をつけたのが若き天才料理人、内原富手夫のイカモノ料理だったのだ。
ラヴクラフトの神話体系に作品がまた一一つ。俊英がおくるとびっきりの異色痛快作!!》
斎藤栄『新・殺人の棋譜』講談社文庫・1988年
《将棋の河辺名人は、定山渓で新鋭の山本八段と最高位戦をたたかう。そこは十七年前、対局中に愛娘の誘拐を知らされた因縁の場所だった。
名人の不吉な予感は当った。美しく成長した娘万里が、行方不明になったというのだ。またしても……。
江戸川乱歩賞受賞の名作「殺人の棋譜」の続編ともいうべき迫真の長編推理作。》
広瀬仁紀『銀行緊急役員会』徳間文庫・1981年
《都市銀行上位を狙う参駿銀行が突然中堅企業18社に対し融資返済期間の短縮をいい渡した裏には、田原頭取の大いなる野望が秘められていた。大手商社の主力銀行の座を獲得することと、反頭取勢力を一掃することだった。財務省銀行局長、財務大臣をも巻きこみ、゛現代の王城″を舞台にした戦いは熾烈かつ苛酷に展開する。
いわゆる゛銀行小説ブーム″の先駆作で、銀行首脳の姿を生々しく描いた話題作。》
都筑道夫『キリオン・スレイの再訪と直感』角川文庫・1978年
《草花に水をかける、何の変哲もない“ジョウロ”を買ってきた男が、その晩自殺してしまった。男は園芸趣味があるわけでもなく、マンション住いでベランダには植木鉢も置いていない。勿論、自殺する理由もみあたらない。
犯罪事件の話となると目の色を変える、アメリカからやってきた、詩人キリオン・スレイは、この事件を聞きつけると、もちまえの好奇心を発揮して調査をはじめた。――その後、奇妙な事件は続いて起こった。結婚したばかりで、まだ子供のいない男が、子供用の絵本を買ってきた晩に、やはり自殺してしまったのだ。そして、またしても別の男が……。
連続して起こる不思議な事件に、キリオン・スレイの推理が冴える。》
阿佐田哲也『麻雀狂時代』角川文庫・1981年
《博打打ちは例外なく、皆、臆病である。何千万、何億あろうと、スッカラカンになるかもしれず、明日、また復活して倍になるかもしれない。博打で生きている限り、現金以外は武器にならない。彼らにとっての恐怖は、負け続けることではなく、負けて現金が尽きることである。――
絶対ガン札は出来ないといわれているヴァイスクルの封切版カードを使って、日本ギャンブラーを手玉にとるメリケンお玉。韓国のカジノで15分で1500万稼ぎ、勝ち役の名が鳴り響いている空野とノミ屋ゴロシのプロ車券師、通称関プロの壮絶な闘い。ギャンブルを通して、人間の切なさ、哀しさ、凄まじさを描いた阿佐田哲也の傑作小説。》
西村京太郎『ミステリー列車が消えた』新潮文庫・1985年
《行き先不明のブルートレイン「ミステリー号」が東京駅を出発したまま消息を絶ってしまった。ほどなく犯人から身代金10億円を変求する連絡が入る。速かに応じない場合は乗客の生命は保証できないという。全長250メートルに及ぶ列車を400名の乗客ごと誘拐するという前代未聞の犯罪に、国鉄当局・警察は翻弄される。十津川警部の活躍は? 奇想天外なトリックの傑作鉄道ミステリー。》
アガサ・クリスティー『青列車の秘密』ハヤカワ文庫・1982年
《リヴィエラ行き豪華列車〈青列車〉で陰惨な事件が起った。大富豪令嬢ルスが、客室内で顔面を殴られ絞殺されたうえ、高価なルビーを盗まれたのだ。ロシア女帝の冠を飾ったといういわくつきの代物だ。警察は列車に乗り合せたポアロに調査を依頼する一方、恋人と青列車に乗っていたルスの夫を逮捕した。彼は必死の弁明に努めるが、妻の客室にはいるのを目撃された事実はいかんともしがたい。再び忌わしき青列車に乗り込んだポアロが指摘した意外な犯人とは? 『オリエント急行の殺人』と並び、ポアロが列車内の純粋推理を展開する初期の意欲作!》
菊地秀行『インベーダー・サマー』ソノラマ文庫・1983年
《かげろうのたちのぽるグラウンドのちょうど真ん中に、少女は立っていた。白い服の背にたゆとう黒髪を、青空と雲を映すまばゆい瞳を無数の眼がとらえ、声にならぬ驚愕のどよめきが夕笛高を包んだ。やがて身をひるがえし立ち去った少女への熱い想いは男子生徒全員の胸を満たし、それはささやかな異変を形づくって街に流れていった。美術教師に提出された風景画には、半透明のビル街と虹色の光をひいて飛ぶ蝶が描かれていた。語り合う若者の声は時折、奇妙な笛の音に似た言葉となり、開いた本のあるページは意味不明の記号で埋められていた。白い少女の訪れとともに異世界の影が忍びより、青い山脈に囲まれた信州の街・夕笛市は特別な夏を迎えようとしていた。
――気鋭の新進がおくる傑作SF、第4弾!》
ルネ・ドーマル『大いなる酒宴』風涛社・2013年
《いやしがたい強烈な喉の渇き―言葉の力をめぐる破天荒で朦朧とした酩酊状態の大演説。ラブレー、ジャリの衣鉢を継ぐ、ユーモアと寓意に満ちた通過儀礼の書、現代に甦る風刺小説、自伝的実験小説の傑作! 》(「BOOK」データベースより)
佐々木中『踊れわれわれの夜を、そして世界に朝を迎えよ』河出書房新社・2013年
《思考は踊る。雄弁が舞う。2012年から2013年に至る最新論考、講演および対談を集成。》(「BOOK」データベースより)
元永定正『ちんろろきしし』福音館書店・2006年
《『ちんろろきしし』って一体どういう意味でしょう?実は、何も意味がないのです。では、この本は、どんな本なのでしょうか?楽しくて、面白くて、奇妙で、美しい、とにかくこれまでに誰も見たことのないような本なのです。意味のないことばと楽しい抽象画のゆかいで不思議な組み合わせが、なんと100組!どこから読み始めても、どこで終わっても、読み方は自由です。》(「BOOK」データベースより)
東海林さだお『レバ刺しの丸かじり』朝日新聞出版・2012年
《もう一度、レバ刺しに逢いたい。追憶の中の“ヌラヌラ”を懐かしみ、思わず「贋作」偲び食い…抱腹絶倒の食エッセイ。》(「BOOK」データベースより)
和合亮一『廃炉詩篇』思潮社・2013年
《修羅のごとく詩を書きたいのだ――震災後に一度は言葉を失った詩人が、礫の先にある光を目指して、いまこの世界を這い上がろうとする。自らと、そして世界に突きつける言葉の刃。希望はあるのか、絶望しかないのか。詩の言葉の絶対を疑いながら、素手で掴みとった真実の詩。「現代詩手帖」好評連載詩に加え、震災前に書かれた予言的作品ほかを収録する。表紙写真=吉増剛造、装幀=中島浩
*既刊の『廃炉詩篇[single]』は本書のなかから一章分(「廃炉詩篇」連作部分、80頁分)のみをアマゾンのオンデマンド出版で刊行しているものです。本書には、[single]版に収録の「廃炉詩篇」連作に加えて、震災前に書かれた6篇、和合氏が震災後福島第一原発の20キロ圏内にはじめて入ったときに書かれた長篇詩「震災ノート」、合唱曲でも知られている「誰もいない福島」が収録され、全154頁の詩集として構成されています。 》
『廃炉詩篇』 和合亮一著 : 書評 : 本よみうり堂 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
ホセ・ドノソ『境界なき土地』水声社・2013年
《大農園主ドン・アレホに支配され、文明から取り残され消えゆく小村を舞台に、性的「異常者」たちの繰り広げる奇行を猟奇的に描き出す唯一無二の“グロテスク・リアリズム”。バルガス・ジョサに「最も完成度の高い作品」といわしめたチリの知られざる傑作。》(「BOOK」データベースより)
草野厚『歴代首相の経済政策 全データ 増補版』角川oneテーマ21・2012年
《吉田、岸、佐藤、田中、中曽根から、民主党政権の鳩山、菅、野田内閣まで、仁政の総理、失政の宰相、前内閣の経済政策を問う。好評に応え7年ぶりに大幅増補!》
東海林さだお『いかめしの丸かじり』朝日新聞出版・2010年
《いまや“国民駅弁”となった人気者。ゴハンにイカか、イカにゴハンか?恍惚と絶句を誘う味の往来!シリーズ最新刊抱腹絶倒の食エッセイ第32弾》(「BOOK」データベースより)
東海林さだお『ゆで卵の丸かじり』朝日新聞出版・2011年
《最初にかぶりつくのは丸い方から?尖った方から?抱腹絶倒の食エッセイ第33弾》(「BOOK」データベースより)
宇戸清治編訳『現代タイのポストモダン短編集』大同生命国際文化基金・2012年
《本作品集は、現代タイを代表する作家6人(ウィン・リョウワーリン、カノックポン・ソンソムパン、プラープダー・ユン、ウティット・ヘーマムーン、ビンラー・サンカーラーキーリー、デーンアラン・セーントーン)の短編を収録しています。
経済発展が続き、都市化が進む現代のタイでは、文学界にも大きな地殻変動が起こりつつあります。
従来タイでは、社会や政治との関わりの中で個人の生き方を追求するリアリズム文学が主流でしたが、高度情報・消費社会へと急激に変化する中で、個人のアイデンティティや人間の内面世界を模索する作品が次々と生まれつつあります。
歴史・文化・民族等を理解するために味わうといった今までのような捉え方ではなく、タイ文学を同時代の世界の文学として味わっていただければ幸いです。》
ジャック・デリダ『名を救う―否定神学をめぐる複数の声』未来社・2005年
《『パッション』『コーラ』とともに「名についての三篇の試論」を構成する本書で、デリダは「否定神学」と呼ばれる論法を語り得ないものについて語る否定的言説としてでなく論法自体の可能性と根拠を再審に付す。ドイツ・バロック期の神秘主義的宗教詩人アンゲルス・シレジウスの代表作『ケルビムのごとき旅人』の否定神学的な美しく難解な詩句を引用しライプニッツやハイデガーの言説を踏まえそこに秘められた論法の根源性と複数性を明るみに出す。デリダ的論理の根幹に触れる臨場感あふれる言説のパフォーマンス。》(「BOOK」データベースより)
神林長平『狐と踊れ』ハヤカワ文庫・1981年
《「フォックストロットはいかが?」若く、美しい美沙が綺にさそいかける。それを快く思わないのは綺の妻麗子。優雅に、そして陰気に繰り広げられる人間模様。
しかし、その模様の基調をなすのは奇怪な現象だった。5Uと呼ばれる薬を飲みつづけないと、人間は胃を失ってしまうのだ。この奇現象はなにを意味するのか――そして、どちらにしろ人々は5Uの 圧倒的な力にひれ伏しているのだが……
新人とも思われぬ筆の冴えをみせる神林長平が、異様にメタモルフォシスした未来社会をえがいてみせた処女作「狐と踊れ」をはじめ、意欲的短篇六篇を収録。》
収録作品=ビートルズが好き/返して!/狐と踊れ/ダイアショック/敵は海賊/忙殺
森万紀子『運河のある町』講談社・1985年
収録作品=道づれ/運河のある町/私の華燭/虚鳥が孵る/死んだ男
ジル・ドゥルーズ『カントの批判哲学』ちくま学芸文庫・2008年
《独自の視点で哲学史に取り組んできたドゥルーズは、本書で、カントの3つの主著、『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』の読み直しをはかる。カントの批判哲学が、理性・悟性・構想力という諸能力の組み合わせの変化によって作動する一つの置換体系として描き出され、諸能力の一致=共通感覚に、その体系の基礎が見いだされる。カントを、乗り越えるべき「敵」ととらえていたドゥルーズが、自らの思想を形成するために書き上げたモノグラフィー。平明な解説と用語解説を付す。新訳。》(「BOOK」データベースより)
金井美恵子『目白雑録5 小さいもの、大きいこと』朝日新聞出版・2013年
《「芸術は爆発だ!」から「原発はバクハツだ!」へ。アーティストから日本国首相へ言葉はバトンタッチされた。「非常時のことば」は液状化する。都知事も副知事も作家も詩人も歌人もマンガ家も批評家もジャーナリストも社会学者も科学者も精神科医もアーティストも、誰もが「ことばの戒厳令」下、誰も言葉を失ったりしなかった。》(「BOOK」データベースより)
唐澤耕司『世界ラン紀行―辺境秘境の自生地を歩く』家の光協会・2006年
《植物は自然のなかで花開く姿がもっとも美しい。約150点の貴重な写真で見るランの生態。》(「BOOK」データベースより)
保坂和志『考える練習』大和書房・2013年
《頭の中の「使っていないソフト」を動かす。「自分の命が何より大事」というのは本当だろうか?「論理的」イコール「正しい」とは言えないのではないか?「人は死なない」と考えることもできるのではないか?論理に縛られて「テンプレート化した発想」から抜け出すための12講。》(「BOOK」データベースより)
WEB限定連載 考える練習 第1回b <保坂和志>
ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン『哲学探究』岩波書店・2013年
《「私たちは歩きたい。そのためには摩擦が必要だ。ざらざらした地面に戻ろう!」―自らの哲学を、日常言語の働きの理解に向かって大きく転換させたヴィトゲンシュタインの主著『哲学探究』が、清新な訳文によって格段に近づきやすいものとなった。遺稿にさかのぼって新たなテクスト整備がほどこされた新校訂のエディションにもとづく待望の新訳。》(「BOOK」データベースより)
倉阪鬼一郎『騙し絵の館』東京創元社・2007年
《過去に怯えながら瀟洒な館でひっそりと暮らす少女。過剰なまでに彼女を守ろうとする執事。そして頑なに作品の刊行を拒むミステリー作家。連続少女誘拐殺人事件が勃発するなか、謎めいた彼らの秘密が少しずつ明かされる 》(「BOOK」データベースより)
チャールズ・ローゼン『音楽と感情』みすず書房・2011年
《バッハからベルクまで、クラシックの作曲家はどのように聴き手の感情を波立たせる名曲を作ったか。音楽を知りつくした『ピアノ・ノート』の著者が語る奥義。》(「BOOK」データベースより)
チャールズ・ローゼン『音楽と感情』 | トピックス : みすず書房
クリス・ブレイジャ『世界史の瞬間』青土社・2004年
《世界史を揺るがした決定的な出来事を鍵に、歴史のダイナミズムを大胆に解読。フェミニズムやアジア・アフリカ史にも注目しながら、グローバリズム時代の新しい歴史理解へと誘う。》(「BOOK」データベースより)
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Art of Noise - In Visible Silence - Live at Hammersmith Odeon 1986 - HQ
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