2011年
文學の森
柿本多映『季の時空へ』は京都新聞に連載されていたエッセイを中心にまとめたもの。
各章が2,3ページで、「きさらぎ」「椿」等の章題が並ぶが、戦争への連想、記憶が要所要所に顔を出す。文芸評論家の小田切秀雄が著者の昭和14年に亡くなった兄と同級と判明する件りなどもある。
当時のことが詳しく再現されるわけではなく、ほとんど詠嘆として出てくるのみだが、以前は単に教科書的に知っていただけの戦災も、3月11日以降の「戦時下」の暮らしを経ると、受け取り方の深度が違ってくる。
同じ造本で同時に出た『ステップ・アップ 柿本多映の俳句入門』も『季の時空へ』と同じく120ページ足らずの瀟洒な本。こちらは産経新聞文化欄の連載。
巻末に師・橋閒石についての短文が入っていて、和田悟朗がアメリカ留学中、トイレで見た落書きの猥詩の韻や対句に感心し、書きとどめてきたところ、それに興味を示した英文学者の閒石が喫茶店でをわざわざ全部筆写したというエピソードが面白い。これは和田悟朗の「白燕」336号掲載のエッセイを引いての話だが。
《それにしてもユニークな科学者と英文学者とのこの喫茶店での生真面目な行為は、その内容を考えると思わず可笑しみがこみあげてくる。多分閒石先生の俳諧性はこの西洋文学があってこそと改めて思うのだ。》
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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