毎年1回資料性の高い分厚い特集を組む「澤」、だんだん後ろへずれ込んでいるらしくて今年は8月号にその特集が回ってきた。
今回は主宰小澤實とも交誼の深かった永田耕衣の特集だが、およそ耕衣に関心を持つものにとっては必携の大冊となっている。
《田荷軒書斎で耕衣と向き合っていて、耕衣に問われたことがある。「小澤君の俳句は珠か瓦礫か、どちらを目指すのか」。ぼくはしばらく考えて「珠を目指すつもりです」と答えた。耕衣は「瓦礫を目指す」と続けられた。どうしてこういう話になったのか、わからない。
(中略)
読者はそういう名句(引用者註・「天心にして脇見せり春の雁」が例示されている)の出現を耕衣最晩年にも期待してきたが、耕衣は別なところ、瓦礫、つまりは非名句の世界へと突き進んでいった。それが意識的であったことを確認しておきたい。「瓦礫を目指す」と言った耕衣は、誇らかで自信に満ちていた。「珠を目指す」と答えたぼくは退嬰的な感じがして、ちょっとうしろめたかった。ぼくは今も「珠を目指す」と答えられるだろうか。》(小澤實「珠か瓦礫か 永田耕衣の思い出」p.137)
巻頭はカラーで、小澤實に宛てられた耕衣の絵入りハガキ数十枚と短冊、色紙、扁額類がずらっと並べられ、中身は高橋睦郎・小澤實対談に続いて、安井浩司から藤田哲史に至るまでの執筆陣が多角的に耕衣に迫る。
往復書簡を起こしたものとか一句鑑賞、年譜のほか、土肥あき子編による「「鹿火屋」石鼎選耕衣俳句一覧」などというのもあり、昭和2年から11年までに「鹿火屋」で原石鼎の選(または同人共選や月評)に入った351句が並べられているのも面白い。
詳細はこちらの目次(pdfファイル)を見てもらいたい。
ツイッターで最近「澤」絶賛のツイートをしばしば見かけて、何かと思ったら同名の女子サッカー選手のことだったのだが、こちらの「澤」も相応の注目を浴びてしかるべきではないか。
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