「らん」第51号(2010年秋号)から。
この前の50号で同人全員が50句をまとめて出すというボリュームのある試みをやったので、今回の特集はその検証と鑑賞となる「『らん50号』総ざらい」。
以下は今号の句から。
荒魂や別れの蛸の三杯酢 高野射手男
なめくじのなめくじ色のやさしけれ 鳴戸奈菜
ものの名に「~色」をつける手法はたまに見るが、「やさしけれ」が面白い働きをしていて、「なめくじ」から生存するもの自体の充足感を引きだし、陶然たる無尽感を湧き出させている。
耕衣笑ひて我の手を揺すりけり 矢田 鏃
地球村(グローバルビレッジ)の村長語れ、☆●○●●○(ガギグググエ) 伊東宇宙卵
インターネットの普及で地球全体がひとつの村の距離感のうちに収まってしまったとしても、それを統べ、動かすのは個人個人の心の動きの集積となる。
無意識イコール他者の言語ということで、仮構された「村長」は理解不能の化け物の語を発する。ITの進化は新たな分断と情報格差を複雑に微細に展開するだけでなく、人類に改めておのが欲動の怪物性を突きつけてくる。
ゑじのたくひのえでんにともるえぴろうぐ 丑丸敬史
ひらがな書きの中に溶融され、「ゑ・え」の頭韻から浮き出てきたものは、日本文化と旧約聖書を横断的にコラージュし、「衛士のたく火」(百人一首に入っている大中臣能宣朝臣の和歌の一部)に隠喩化された満たされない恋情が楽園にともっているという終結部。
人も文明も滅んだ後、無人となって久しいエデン自身が、恋情に振り回されるヒトという奇妙で愚かしい生き物がいたという記憶のみを反芻しているようなあわれが寓話的な軽さで描く句となった。
蘭鋳が小型爆弾に見えし夜 M・M
眉剃って秋の螢となりにけり 金子彩
「眉剃って」の細部と動作の具体性から「秋の蛍」の象徴性への転調があざやか。自己愛に閉じこもった変身幻想譚の類には陥らず、誰のことともしれない無人称の世界にただ凄艶さのみを冷やかに迸らせることに成功した。《ちち居るかははも居るかと鱏剖(ひら)く》のなまなましさも面白い。
ひとところ声のおほきな金魚玉 嵯峨根鈴子
遊ばせてあるダンベルと糸瓜蔓 西谷裕子
昔モデルルームだったね真葛原 皆川燈
皮ソファー死んだ一人がすわり秋 もてきまり
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