蒸気機関車やってきそうな寒日和 高野ムツオ
いつまで見えて行く赤マントもしや我 平松彌榮子
「赤マント」は戦前戦中に流布した都市伝説で、赤いマントの怪人物が子供をさらうといわれた。「マント」は一応冬の季語だが、それを過去の特定の時期の世相と追想に転じた格好。
乾びたる刷毛と糊皿寒波来る 阿部菁女
私事だがまさにこういう状態のものが家にある。亡くなった祖母が晩年よく紙工作キットを取り寄せ、ボール紙に千代紙を貼った小さい箪笥のようなものを組み立てていたためである。見ると思い出すので捨てにくく、未だに棚の中に放置してある。
古墳より見渡す耕土葱育つ 千田稲人
本抜きし棚のくらがり雪催 上野まさい
枯園に渦状星雲来て重なる 増田陽一
シベリアの氷の匂い遺骨還る 相沢ふさ
貸出しのならぬ本なり日脚伸ぶ 大澤保子
泣く子居るかやなまはげあまはげ兜太はげ 田中 滿
おとうとは聖書を売りに銀河まで 山野井朝香
消し去れぬ怒りの重さ氷柱伸ぶ 佐竹伸一
以下は「特別作品」から。
黒猫の巨体で甘え三ヶ日 古山のぼる
咳をこらえて巡る爬虫館 永野シン
麦を踏む背後に暗き雲みえて 宇井十間
最近のコメント