2004年
愛媛県文化振興財団(非売品)
第1回芝不器男俳句新人賞受賞の100句を主催者の愛媛県文化振興財団が句集として刊行したもの。
市販はされていないが上のリンクからpdfファイルで全句読むことが出来る。
結社への所属歴などはないらしい。
「結社で修行しなかった」というよりも、従来のシステムの枠が捉えきれなかった若手というべきで、不器男賞の一回目としては理想的な受賞者だった。
塚本邦雄のような人工性の勝った美意識と、求道性ゆえにときに凶暴の域に踏み込むほどの清新な叙情が特長。「火事」「殺気」「逆鱗」等、緊張が高まりきった瞬間に走る亀裂と、そこに一瞬閃く異界の現出が鮮やか。
黒蝶を風が拾ひぬ火事明かり
赫灼(かくしゃく)と虹の真下に彳(た)つ刺客
退路ともならぬ旅路や寒茜
葡萄捥(も)ぐ聖痕戻らざる日々を
火事あはれ柱の中に蟻遊び
冬枯れや記憶を辿り尽くしては
月光に抗ふ蟻の骸(むくろ)かな
温室を出づれば冥き薔薇(さうび)かな
オリオンに殺気漲り旅了る
光あれかし棺に残る春の雪
みどり子に蟻の行列近づきぬ
遠雷や死は気紛れに齎(もたら)され
何事も無きてのひらに雪苦しむ
魂匣(たまばこ)の流れ着くなり実朝忌
柩形の夜汽車や白き顔ばかり
逆鱗に触れては開く花火かな
幾千の罅(ひび)より洩るる夕焼(ゆや)けかな
天涯の花狂暴に咲き初むる
開かずの間開きて吹き込む野分かな
騒(ざわ)めくは筐底に秘す薄原
雁啼くや夜目にも見ゆる針の山
気絶して千年氷る鯨かな
朝顔に雨のはらわた蒼かりき
いまはひたすら破戒の蓮を間引きをり
犬痩せて真つ赤な火事に彩らる
ただならぬ闇にあやめの群がれり
暗がりに金魚閃く死を賭せと
恍惚と蟻に食はれて家斃(たふ)る
天の川ここには何もなかりけり
石鹸玉蜘蛛の巣撓め破裂せり
まず、句集の題名そのものが凄くステキですよね。
装丁も綺麗です。(本物は見ていないけれど)
天の川ここには何もなかりけり
天の川は美しく見えるけれど、何もないのか。
天の川が美しくて他に何も目に入らないほどであるのか。
ここにはなにもなくて、天の川のなかにとんでいきたいほどなのか。
いろいろ鑑賞の仕方があるんでしょうけれど、私はこの句が素直に心にスッと入ってきます。
オリオンに殺気漲り旅了る
これもいいなぁ。
高山れおなさまが、「いい句集ですよ」とお褒めになるだけのことはありますね。
とても綺麗でいい雰囲気を持った句集だと感じ入りました。
遠雷や死は気紛れに齎(もたら)され
魂匣(たまばこ)の流れ着くなり実朝忌
がこのなかでは私の一番ですo(^-^)o
投稿情報: 野村麻実 | 2008年11 月12日 (水) 13:54
あ、ごめんなさい。
なんだか睡眠不足と過労のせいか(と言い訳)非常に
語彙力不足のコメントになってしまいました。
投稿情報: 野村麻実 | 2008年11 月12日 (水) 13:56
>野村麻実さま
句集の題名自体が五七五になっているというのは珍しいですね(実質101句目?)。
天の川の句は一読した際、この世界では求めているものは手に入らないという、象徴化された無念さのようなものを感じましたね。
オリオンの張り詰めた形を殺気と見るのはちょっと意表をつかれた感じですが、これもスッと納得できます。
ご多忙中のところをコメントありがとうございます。
睡眠はなるべくとってくださいね。
投稿情報: 関悦史 | 2008年11 月12日 (水) 15:12