3月後半は歯科治療後に激痛に見舞われ、点滴で抑えられたものの以後、歯痛、熱、食欲不振で本を読むどころではなかった。
装幀として殊に懐かしいのは半村良『うわさ帖』(装幀・金井久美子)、笹沢左保『ふり向くな』(装幀・篠田昌三)、A・モラヴィア『倦怠』(装幀・三尾公三)等。
半村良『うわさ帖』講談社文庫・1982年
《山本周五郎の「さぶ」が好きなのは、そこに自分の顔を見つけるからだ。さぶはすなわちサブ、わき役に通じる。この世の人間なんて大半がサブなのだ。サブっていい奴ばかりで……。多彩な人生遍歴で出合った男と女の裸かの姿や自らのほろにがい体験などを、独得のあたたかい目としっとりした話術で綴る卓抜エッセイ。》
クライヴ・バーカー『ミッドナイト・ミートトレイン』集英社文庫・1987年
《血を抜かれ、毛をそられ、逆さ吊りにされた全裸の死体が四つ、地下鉄の震動に合わせて揺れている。カウフマンは恐怖におののいた。肉切り包丁を手に、死体を処理している男こそ、《地下鉄内連続惨殺事件》の真犯人だ! この殺人鬼マホガニーは、人肉を食う奇妙な集団に、人間の体を提供する役目を担っていた。屍肉と血の海のなかで、カウフマンとマホガニーの死闘が始まる。
極彩色のスプラッタ・ストーリーを通して、大都会の底なしの恐怖と神秘を描く表題作ほか、四編を収録。》
収録作品=ミッドナイト・ミートトレイン/下級悪魔とジャック/豚の血のブルース/セックスと死と星あかり/丘に、町が
半村良『戦国自衛隊』ハヤカワ文庫・1975年
《新潟・富山県境に演習を展開していた自衛隊一個中隊が、ヘリコプター、装甲車、哨戒艇もろとも突如、戦国時代にタイムスリップした!彼らの前に現れたのは長尾景虎と名乗る武将、すなわち後の上杉謙信であった。景虎の越後平定に力を貸すことを決意した伊庭三尉率いる中隊は、現代の兵器を駆使して次々と諸将を征圧していくのだが……。果たして歴史は塗りかえられるのか? 異色SFの傑作。》(「BOOK」データベースよりハルキ文庫内容)
モーパッサン『モーパッサン怪奇傑作集』福武文庫・1989年
《外国で殺した男の形見として持ち帰った1本の手に復讐される話(「手」)、雪深い山小屋に一冬閉じこめられ、遂に発狂してしまう男(「山の宿」)、眠っている間に無意識のうちにテーブルの上の水を飲んだりする一種の「人格遊離〈ドッペルゲンガー〉」をテーマにした「オルラ」など、11篇の怪奇短篇を厳選して新訳。》
収録作品=手/水の上/山の宿/恐怖/オルラ/髪の毛/幽霊/だれが知ろう?/墓/痙攣
シビル・モホリ=ナギ『モホリ=ナギ―総合への実験』ダヴィッド社・1973年
《1920年代にドイツの美術・工芸・建築学校「バウハウス」で教鞭をとったタイポグラファー、ラッスロ・モホリ=ナギの活動と芸術的実験の軌跡を、妻であるシビル・モホリ=ナギが語る。》
中村元『東洋のこころ』講談社学術文庫・2005年
《現代人を心の荒廃から救うには、拠って立つ精神生活の基盤を省みることこそが肝要である。それはすなわち、東洋の伝統的思想に立ち返ることである。神観、理法、倫理、宗教、国家、人間関係等の主題のもと、インドを中心に中国、朝鮮、日本等の思想を渉猟し、西洋との比較思想的観点を踏まえつつ、碩学が平易な語り口で縦横に説く「東洋のこころ」。》
片岡義男『ドライ・マティーニが口をきく』角川文庫・1983年
《三日見ぬまの桜かな、と言います。日本の季節感は三日ごとに変わる、と俳人は度胸で言いきるのです。たしかに、日本には、じつにさまざまな季節感があります。それぞれの季節にからめて、いろんな女性の素敵なところや悪い癖をさりげなく描くとこうなるという、これは国語の教科書なのです。》
収録作品=D7のワルツ/煙が目にしみる/ドライ・マティーニが口をきく/ホテル・ルーム1/ホテル・ルーム2/501 W28 L34
片岡義男『ふたとおりの終点』角川文庫・1985年
《その年の夏は、暑い日がつづきました。主として高原のプールで青い空を仰ぎ白く輝く雲を見ながら、著者がその指さきにつまみとったいくつものアイディアのなかから、本書のなかの八つのストーリーは生まれてきたのです。プールの水や、吹く風の感触と、どこかでつながっているのです。》
収録作品=別れて以後の妻/ふたとおりの終点/紅茶にお砂糖/きみを忘れるための彼女/オートバイに乗る人/400+400/一日の仕事が終わる/ハートのなかのさまざまな場所
片岡義男『湾岸道路』角川文庫・1984年
《「元気でいろよ」のひと言を残して、彼はあの年の夏の彼方へ消えてしまった。あとにひとり残された彼女としては、生まれつきの才能を努力で鋭くみがきあげ、自分もどこかへいってしまうほかに、充実した生き方はなかった。だから彼女は、そうした。ふたりともいなくなり、陽が射して風が吹き、これ以上のハッピー・エンドはどこにもない。》
片岡義男『吹いていく風のバラッド』角川文庫・1981年
《四〇〇字詰の原稿用紙、というものがあります。この原稿用紙で、みじかくて3枚、多くて20枚足らずのスペースにおさめた興味深く美しいシーンを、無作為に連続させてできたのが、この本です。文庫本による、楽しいゲームのひとつです。》
アルマ・マーラー『グスタフ・マーラー―愛と苦悩の回想』中公文庫・1987年
《21歳で結婚し、31歳で死別された妻が、大作曲家である夫マーラーの人と芸術とその時代を、苦悩と愛惜をこめて描く。》
小西甚一『中世の文藝―「道」という理念』講談社学術文庫・1997年
《幽玄・優艶・有心など、日本的美意識の多くは、変転つねなき動乱のさなかに和歌・能・笛・琴などの「道」に精進を重ねた中世人によって生み出された。風流の極地に我が身を解放することにより、有限の生のなかで永遠を求めんとした「道」の理念を説き、宗祗の連歌と世阿弥の能を楕円の両焦点とした中世文藝の深遠豊饒な世界を明確に論述する。全五巻の大著「日本文藝史」に先行して執筆された珠玉作。》
船戸与一『群狼の島』角川文庫・1985年
《1975年、日本の公安やセクトから追われていた鷲沢剛介は、マグロ冷凍運搬船から姿を消した。5年後、おれはマダガスカルの秘密の賭場で、警官殺しに巻き込まれ、独航船船長吹石隆、親の仇を討った黒髪の若者エドモンド・パルナスと共に警察に追われ、正体不明の大金持の華僑、蒙中虎大人の屋敷に逃げこんだが……。そこで彼に依頼されたソ連基地のレーダーサイト爆破計画とは何か? 再び姿を現わした鷲沢の正体は?
青春冒険小説の傑作。》
片岡義男『ハロー・グッドバイ』集英社文庫コバルト・シリーズ・1978年
《清水治夫、川崎吉蔵、野原正彦、丹野信太郎、小倉秀明。明日、札幌を去る美しい決定的な思い出として、今晩処女ともさよならしようときめてしまった十六歳の由理子。「そんなばかな」と、姉の美夜子はびっくり、なんとしても由理子の決心を変えなくては……。美夜子がさしむけた騎士は、自分の恋人、北大生の圭介……? 青春の意外性と冒険を、軽快なタッチでつづる『ハロー・グッドバイ』》
収録作品=ハロー・グッドバイ/砂に書いたラブレター/箱根ターンパイクおいてけぼり
片岡義男『愛してるなんて とても言えない』集英社文庫コバルト・シリーズ・1979年
《青空がとてもまぶしい日、東北自動車道のサービス・エリアのいちばん奥の片隅に、六五〇CC二気筒のオートバイが一台とまっていた。その横に、吸い寄せられるように、まっ赤なシヴォレーのカマロがとまった。ヨースケとエミーの初めての出会いだった。約束された運命のように、孤独なふたりにひとつの愛が芽ばえた。そしてまた、その愛には、哀しい結末が約束されているように見えたが…。》
収録作品=愛してるなんて とても言えない/ワン・キッス/コバルト・ブルー/まっ赤に燃えるゴリラ
三根生久大『記録写真 終戦直後―日本人が、ひたすらに生きた日々(上)』カッパ・ブックス・1974年
《未公開写真250枚で綴る激動の日々。あの苦しみを体験した人へ…幼な心に飢えと混乱に耐えた人へ…戦争を知らない青年へ、子どもたちへ…忘れ去られたものを呼びかえし今日から明日への道を探るためにここに荒廃から新生への歩みを再現。》
三根生久大『記録写真 終戦直後―日本人が、ひたすらに生きた日々(下)』カッパ・ブックス・1974年
《未公開写真250枚で綴る激変の時代。明日の糧を求めて歩いたあのとき…教科書に黒々と墨をぬったあの日…乳のでない母にすがったあのころ…今また、大きな転換の岐路に立ってあらためてあなたに問いかける
戦後日本の原点はどこにあったのかと。》
中山茂『近世日本の科学思想』講談社学術文庫・1993年
《江戸時代の天文暦学・医学・和算学を通観し、わが国の科学思想の特質が空間的法則よりも時間的変化を重視するものであることを著者は具体的に説く。すなわち幕府天文方・渋川春海は西洋流の永久的天体法則は幻想であり、万物は流転すると観じたし、『解体新書』以前の医者は解剖による局所の分析を排して動態的・全体的な治療を旨とした。功利主義に傾きがちな日本人の科学観に歴史的反省を促す好著。》
トウベ・ヤンソン『彫刻家の娘』講談社文庫・1973年
《一連のムーミン童話でいまや「現代の神話の創造者」とその天才を評価されるトウベ・ヤンソン。彼女の遠い幼い日の想い、魂の叫びと幻想のアラベスク――静かな森と湖と入江、雪と氷の静寂、バラライカの音色、サウナ焚、ロウソクの煌き……。
彫刻家の父、画家の母に類い稀な才能を受継き、時に奔放に激しく、時に優しく海の波に、嵐に、バラになる。まさにムーミンの世界の凝縮であり、待望の初訳。》
収録作品=金の子牛/暗闇/銀の石/パーティ/アンナ/流氷/五つの入江/海の上の法律/アルベルト/高潮/ジェルマイア/劇場/ペットたちと女性達/独りもののアイディア小母さん/チュールのスカート/雪/風疹/飛翔/クリスマス
土屋隆夫他『軽井沢ミステリー傑作選』河出文庫・1986年
《緑の風が吹き抜ける白樺の林を散策する避暑客、テニス・コートに響く若い男女の歓声、爽やかなサイクリングの少女達、そして懐しい教会の尖塔、浅間山の雄姿……見知らぬ人々で賑わう高原の夏に、密かに蒔かれた犯罪の種子が、いつしか芽生えて行く――土屋隆夫・大坪砂男・鮎川哲也・戸川昌子・梶龍雄・内田康夫・大沢在昌・栗本薫の避暑地からの便り。魅力のミステリー紀行シリーズ第6弾!》
収録作品=異説・軽井沢心中(土屋隆夫)/天狗(大坪砂男)/白い盲点(鮎川哲也)/嬬恋木乃伊(戸川昌子)/色慾の迷彩(梶竜雄)/シゴキは人のためならず(内田康夫)/冬の保安官(大沢在昌)/軽井沢心中(栗本薫)
笹沢左保『暴行』徳間文庫・1983年
《敏腕刑事といわれた上条昌彦が職を失ったのは、合意のはずの女から強姦と騒ぎたてられ、告訴されたからだ。そんな上条が小野里家から娘マキの警護を頼まれる。玉の輿の結婚を控えている彼女に、最近不審な電話がかかってくるというのだ。
上条が小野里家に赴いた夜、近くで女性が暴行のはて絞殺される。これがおぞましい事件の発端だった。――暴行という極限状況を主題に、男女の愛欲を描く長篇推理。》
笹沢左保『女は月曜日に泣く』徳間文庫・1986年
《美容院を経営する若き未亡人の大倉真由子が自宅のマンションに帰ってみると、見知らぬ男が待っていた。十日前にグァムへ旅行した時に知り合い、辛うじて一線は越えなかったものの、泥酔した果てに、部屋の鍵を渡して再会を約したではないか、というのだ。しかも男は、二年ほど前、真由子の夫が妊娠五カ月の愛人と共に惨殺された事件に関心を持っているようなのだ。女の業の深淵を描く長篇ミステリー。》
笹沢左保『ふり向くな』角川文庫・1983年
《法務局人権擁護部に籍をおく古谷は、夜の街で、愚連隊を相手に喧嘩をしてしまった。そして失職……。
そうした彼の前に、一人の中国服の美女が現われた。大電機メーカーで行なわれている、いわれのない差別を告発してくれというのだ。
ヒマをもてあました彼は、謎の美貌に興味を持ち、依頼を引受けた。
だが、調査を進める彼の前に、次々と得体のしれぬ妨害がおこってきた。しかもその背後には、巨大な宗教組織の影が見えはじめた。
サスペンスあふれるミステリーの傑作。》
A・モラヴィア『倦怠』河出文庫・1983年(ヴィアレッジョ賞)
《空虚な毎日を送っている画学生ディーノは十七歳のモデルと知り合う。素晴しい肉体と性欲の持主である彼女は、いつでもものにできる都合のよい相手である。だが彼女を完全に所有したわけではなかった。彼女のとらえどころのない奔放さによる裏切りに気づいたとき、倦怠感が消えさり、初めて彼女を愛しはじめる。とめどない嫉妬心に駆られて否応なく狂乱へと身をゆだねていくディーノ……。》
古畑種基『法医学ノート』中公文庫・1959年
《古畑博士の「法医学」に関するこれまでの数著は、権威ある学術書だが、この厳めしさを脱ぎ、浴衣がけでビールを呑みながら寛いだ話をきくような思いをするのが本書である。血液型については世界的な学説を打ち樹てた著者だけに、その学識を基にした、永年の鑑定経験による事件例は、犯罪実話として読んでも底知れぬ興味がある。平凡な推理小説よりも何十倍か面白い。推理作家は今後、本書をテキストにするだろうし、読者は話の面白さに引きずられて読んでゆくうちに、法医学の興味も思わず覚えさせられるであろう。 松本清張》
ハーン『〈完訳〉怪談』講談社文庫・1976年
《日本の美と静けさを愛し、小泉八雲の和名をもつラフカディオ・ハーンの傑作。柔軟な精神と詩的想像力そして澄明な文体が、日本古来の文献や民間伝承に取材して創作した、実在感溢れる霊妙不可思議な世界。「虫の研究」三編も収録。他本に見られぬ著者の注釈もすべて訳出し、さらに訳者の注も付した完全新訳。》
杉本苑子『マダム貞奴』集英社文庫・1980年
《宰相伊藤博文の寵愛を一身に受けながら、福沢諭吉の養子桃介への失恋は、貞奴の運命を大きくかえた。我儘な日本橋芳町の美人芸者から、オッペケペー節で名高い川工音二郎の妻の座へ、さらには女優として次第に変身してゆく。黎明期明治新劇界をバックに、恋に生き、芸に生き、愛に燃えた数奇な女性の生涯を赤裸々に描く長編力作。 解説・武蔵野次郎》
片岡義男『トウキョウベイ・ブルース』集英社文庫コバルト・シリーズ・1980年
《アメリカに憧れる八人の若者たち。サンダーバードに乗り化粧の濃い公美。オールズモービルに乗っている美沙子。三十日も四国、九州をオートバイで回ってきた正博。裕子、玲子、慎平、兵吉。そしてタカオは、高校の卒業を目前にした日曜日、オートバイで走っていて乗用車と衝突、“ユリコ、また会おう”と一言いって息をひきとっていった。だが、誰もユリコという名に心当たりはなかった!?》
片岡義男『どうぞお入り 外は雨』集英社文庫コバルト・シリーズ・1982年
《理津子が雨宿りをしながら、バスを待っていると、ポンティアックが止まった。理津子のアルバイト先の店で働く邦彦だった。理津子の両親は、もうすぐ離婚する。理津子は迷った末、どちらにも従わず、ひとりこの町で生きていくことにした。両親が思い思いの場所へ旅立つ日、理津子は邦彦のポンテイアックを借りて父を駅へ送った。車内で父に自作の歌をきかせた。――『どうぞお入り、外は雨』より》
収録作品=マイ・ダーリン・ハンバーガー/どうぞお入り 外は雨/九月の雨/100%コットン/サマータイム・ブルー/タイトル・バック/ホワイト・アルバム
生島治郎『黄土の奔流』講談社文庫・1977年
《第一次大戦後の上海。折りからの大不況で破産し、無一文となった紅真吾は、大陸浪人をかき集め、重慶へ向け、揚子江二千数キロを遡る旅に出る。高価な豚の白毛を求めての冒険行である。しかし行手には土匪、軍閥が跋扈し、岩を砕く激流の航行は幾多の危険を孕む。快男子の活躍を痛快に描く大冒険小説。》
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