放置してあった7月分。『虚航船団』は東逸子の装画による単行本で久々の再読。
角川文庫のネズビット『若草の祈り』やジンデル『高校生』は、新刊として流通していた頃に見た記憶も思い入れもないのだが、外見的な当時のテイストだけで買ってしまった。
筒井康隆『虚航船団』新潮社・1984年
《鬼才・筒井康隆が放つ世紀末へのメッセージ
爆笑の純文学
現実と危うく紙一重の超虚構小説――
笑いに満ちた黙示録的世界が現出する。
現代小説の諸問題にかかわる文壇用語SF用語36種の問題群は浅薄にも通俗にも軽薄にもグロテスクにもこの一篇にすべて含まれているのだパロディでも茶化す気でもない現代文学関係流行語展示見本市行ってみようか♪ゴー・都市・ドタバタ・私小説・革命・タイポグラフィ・歴史・宇宙・パフォーマンス・純文学・超能力・経済・SF・記号・スラプスティック・時間・政治・精神分析・エンターテインメント・未来・言語・戦争・ギャグ・文化・神話・パロディ・国家・物語・ナンセンス・世界・仕掛け・バブリング・狂気・スカトロジイ・隠喩・異化》
スーポー『流れのままに』白水社・1975年
《第一次大戦後の青年の心理を描いたスーポーの初期の小説群は、いまなおシュルレアリスムとの関連において再評価に値する。本書はそのなかでも代表作とみなされるもので、今日にも通じる危機意識と不安を、簡潔で詩的な文体によって鮮やかに定着させている。》
アラゴン『アニセまたはパノラマ』白水社・1975年
《その奔放自在な言葉の才、雄弁術と綺想の表現において、アラゴンほど傑出した存在はなかった。彼の最初の散文である本書は、アニセなる青年のあてどない放浪の過程を描きつつ、時間‐空間の脈絡や従来の小説の約束事を無視した文字通り驚異の「パノラマ」を構成する快作である。》
アンドレ・ジイド『贋金つくり(上)』岩波文庫・1962年
《ジイド(一八六九-一九五一)が贋金使用事件と少年のピストル自殺という二つの新聞記事に着想を得て、実験的手法で描いた作品。私生児の生れに劣等感を抱く青年や作者の分身とも思われる作家、少年を使って贋金を流す男、級友のいじめにより強いられて自殺する少年など、無数の人物が登場して錯綜した事件の網目模様を繰り広げる。(全二冊)》
アンドレ・ジイド『贋金つくり(下)』岩波文庫・1963年
《作者がみすがら《小説》と名づけることをはじめて認めた自信作で、同一事件を何人もの口から語らせ、多角的な照明をあてることによって読者のみがその事件の全貌を知るように仕組む。作者の一面的な主観が投影された、特定の主人公を中心に筋が展開する従来の小説の概念を破壊し、二十世紀の文学の流れを方向づけた記念碑的作品。(全二冊)》
山中恒『おれがあいつであいつがおれで』旺文社文庫・1982年
《おれの名前は斉藤一夫。つらも、スタイルも、頭のできも、あまり上等とはいえないが、れっきとしたオスガキだ。ここんとこをよくおぼえておいてほしい。そのれが、転校生の斉藤一美に体当たりをくらわしたとたん、なんと、おれと一美は、身体ごとそっくり入れかわってしまったのだ。》
つかこうへい『小説熱海殺人事件』角川文庫・1976年
《上司には慇懃、部下には横柄なくわえ煙草伝兵衛刑事。捜査に凄腕を見せる彼は、すこぶる評判がいい。だが、軽率にも、民百姓の悩める心を救うのが天命だと信じこんでいる。
ブス殺しの容疑者大山金太郎は、彼にとっては手強いやつだ。なにしろ、立派な犯人になるための“自白道”をしこまれているから。伝兵衛も〈ブス一人殺すのに、いちいち動機なんていらねえナ!?〉とゴマ塩頭をかきむしり、取り調べも荒っぽい。出もどりで、色気のない婦人警官のハナ子と新米刑事の留吉の助けをかりて、珍妙無類な捜査室での丁々発止。金太郎の“醜女殺しの汚名”は晴れるだろうか? 著者初めての書下ろし長編ユーモア小説。》
森敦『わが風土記』福武書店・1982年
《森敦初の全紀行集!
酒田、庄内平野、奈良、尾鷲、長崎など40年にわたる漂泊の地を再訪し、自然のたたずまい、古寺や仏像、残された伝説を求めて巡歴した雅趣ゆたかな全紀行28篇!》
エルザ・トリオレ『ルナ=パーク』河出書房新社・2011年
《残された7人の男との手紙の束。失踪した女主人ブランシュの謎に映画監督ジュスタンは次第に魅了されていく。彼女の月への夢とは何か……ルイ・アラゴンの妻トリオレの代表作。》
神吉拓郎『明日という日』文春文庫・1989年
《明日という日に仄かな期待を抱いて、誰もが今日という日を送りすごす。明日吹く風は吉か凶か――。さりげない会話の妙、簡潔でふかい叙述。人生半ば、さまざまの曲折をへた男と女たちの、ちいさな生の断片、歓喜・悲哀を、細部へゆきわたる静かな視線で捉え、この作家ならではの、独特の色調で仕上げた名品十七篇。解説・向井敏》
収録作品=鍵/病気/涅槃西風/めがね/蝙蝠/ボランティア/三次会/北海道空知郡美里/トラブル/露の街/剃刀の刃/海のいろ/癖/日曜日/セメントの花/日ざかり/巣立ち
イプセン『人形の家』新潮文庫・1953年
《小鳥のように愛され、平和な生活を送っている弁護士の妻ノラには秘密があった。夫が病気の時、父親の署名を偽造して借金をしたのだ。秘密を知った夫は社会的に葬られることを恐れ、ノラをののしる。事件は解決し、夫は再びノラの意を迎えようとするが、人形のように生きるより人間としていきたいと願うノラは三人の子供も捨てて家を出る。近代劇確立の礎石といわれる社会劇の傑作。》
ケッセル『昼顔』新潮文庫・1952年
《医者の妻として夫を深く愛しながら、昼下りの売春宿で男たちに荒々しく抱かれることに喜びを覚えるセヴリーヌ――。貞淑な妻と、「昼顔」という名の売春婦とに自己を引き裂かれ、恐怖と倒錯した快感との間で揺れ動く女性の心理を克明に描いて、恐るべき破局に至る。精神と肉体の離反の悲劇を浮彫りにし、発表当時、その描写が轟々たる論争を巻き起したケッセルの代表作。》
中村哲『アフガニスタンの診療所から』ちくま文庫・2005年
《幾度も戦乱の地となり、貧困、内乱、難民、人口・環境問題、宗教対立等に悩むアフガニスタンとパキスタンで、ハンセン病治療に全力を尽くす中村医師。氏と支援団体による現地に根ざした実践から、真の国際協力のあり方が見えてくる。 解説 阿部謹也》
増田義郎『インカ帝国探検記』中公文庫・1975年
《わずか百数十人のスペイン人に滅ぼされた太陽と黄金の国・インカ! 膨大なスペイン語資料と実地踏査によってその壮麗きわまる悲劇を躍動的に再構成した異色のインカ帝国史。》
火浦功『ニワトリはいつもハダシ』角川文庫・1988年
《超がつくほど遅筆の作家・壬生マコトは、本日も原稿書かずにファミコンで遊んでいます。それを見た逆上編集者・沖田裕二は、マコトをホテルに缶詰めにしちゃいました。
どっこい、ホテルで仕事をするほど壬生マコトはまっとうではない。
脱出! 窓辺に立てば、こぶこぶのロープが垂れてくる。ところが、身をのりだしたマコトの顔を踏みつけるヤツがいた。窓からの侵入者! なりは黒づくめ。そいでもって、金ピカのリボルバー。そして、なっ、なんと肩にはニワトリが――。
いよいよ始まる、笑いと涙の大迫力小説。》
スコット・フィッツジェラルド『マイ・ロスト・シティー』中公文庫・1984年
《二〇年代アメリカの栄光と悲惨をその一身に浴びて生き、そして死んだ華麗なる作家S・フィッツジェラルドのきらびやかな宝石にも似た名作がいま最も注目の作家・村上春樹によって僕らの時代の言葉となった。》
収録作品=残り火/氷の宮殿/哀しみの孔雀/失われた三時間/アルコールの中で/マイ・ロスト・シティー
池澤夏樹『ハワイイ紀行【完全版】』新潮文庫・2000年
《通常、ハワイと呼ばれる太平洋上の島々。しかし島本来の言葉では、ハワイイと発音される。「南国の楽園」として知られる島々の、本当の素顔とは? キラウエア火口を覗き、タロ芋畑を見に行き、ポイを食べる。サーフィンやフラの由来を探り、航海技術の謎を探る……綿密な取材で綴る、旅の詳細なレポート。文庫化にあたり、新たに2章を追加した。ハワイイを深く知りたい人必読!》
堤清二『堤清二=辻井喬対談集』トレヴィル・1988年
《混乱と激動の今、来たるべき21世紀に向けて私達は何を為すべきなのか
今や国際的規模において、斬新で意欲的なマネジメントを展開する企業家にして詩人、作家である堤清二=辻井喬が、文学、政治、哲学、建築など、多岐にわたる各分野の第一人者と未来社会を点検する、現代人必読の最新対談集。》
渡辺淳一『ふたりの余白』中公文庫・1981年
《男と女の間には、永遠に理解しえない空白があるのだろうか――冷徹な作家の眼で日常の底にひそむ男女の心の襞を抉り底知れぬ愛の魅惑と魔性を明かす現代の男と女の神話》
辻真先『迷犬ルパンの挑戦』カッパ・ノベルス・1986年
《警視庁捜査一課のドジ刑事・朝日正義とGFの川澄ラン、迷大ルパンらの一行は、今回はカーフェリーで南九州観光とシャレこんだ。朝日の従姉妹の結婚式に招待されたのだ。
1万3000トンの日向行フェリーに乗った一行は、船旅を楽しむ暇もなく、シージャックに遭遇! ランの機転とルパンの実力(?)で、犯人は取り押えたが……日向港に上陸すると、次々に怪事件に巻き込まれ……!?
ご存じ、朝日刑事とルパンの珍コンビが、南九州の観光地を舞台に大騒動をひき起こし、難事件に挑む!
大好評ユーモア・ミステリー「迷大ルパン」シリーズ書下ろし第六弾!》
紀田順一郎『神保町の怪人』創元推理文庫・2023年
《空前の古書ブームが到来する中、百貨店の古書販売催事で知り合った詩集の収集家・大沢について、不穏な噂を耳にした古書愛好家の喜多。その後大沢が現れた入札会で、稀覯書が消えるという怪事件が起き……。古書収集の極意は「殺意」と豪語するコレクターの闇を描く「展覧会の客」ほか、古書の交換会やパソコンによる文献整理など、昔と今が交錯する神保町を活写した三話を収録。》
E・ネズビット『若草の祈り』角川文庫・1971年
《蒸気機関車の走るむかし、電気のない田舎家のようす、石板でお勉強する子供たち、ペチコートや編み上げぐつをはいている女の子たちの喜びと悲しみは、年代を越えて私たちの心をうつものがあります。ネズビットは、ときどき物語をはなれて、直接読者によびかけることばをつかいますが、それがまたこの作品の特色でもあり、魅力でもありましょう。》(訳者あとがきより)
ポール・ジンデル『高校生』角川文庫・1974年
《リズとショーンは学校中の誰もが認める仲だった。マギーはリズの美貌と活発な性格とにいつも圧倒されていた。そのマギーにもボーイフレンドができた。ショーンほどかっこよくはないけれど、誠実そうなデニスという少年だ。二組のカップルはそれぞれうまくいっていた。何回目かのダブルデイトの日、マギーとデニスは夜の渚で不器用な初めてのキスを交した。リズとショーンはもっと進んでいたが、リズはどうしてもすべてを許すことができなかった。ショーンはいらだち、罵倒した。リズの心は引き裂かれた。そして恐ろしい予感におびえるのだった――死、セックス、友情。二組の高校生カップルの体験を通して鮮やかに描く青春の苦悩と喜び。》
亀田俊和『観応の擾乱―室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』中公新書・2017年
《観応の擾乱は、征夷大将軍・足利尊氏と、幕政を主導していた弟の直義との対立から起きた全国規模の内乱である。室町幕府中枢が分裂したため、諸将の立場も真っ二つに分かれた。さらに権力奪取を目論む南朝も蠢き、情勢は二転三転する。本書は、戦乱前夜の動きも踏まえて一三五〇年から五二年にかけての内乱を読み解く。一族、執事をも巻き込んだ争いは、日本の中世に何をもたらしたのか。その全貌を描き出す。》
フィリップ・キュルヴァル『愛しき人類』サンリオSF文庫・1980年(アポロ賞)
《20年前、マルコム(旧ヨーロッパ共同体)は突然国境を閉鎖した。そして通過不可能な防護柵をめぐらした。政治亡命者、スパイ、密貿易商人、逃亡犯など、国境を犯す者は全て殺されるか発狂した。夢を空間に投影する能力をもった夢現数の司祭レオ・ドリームは、その裏をかいて奇計を成功させた。救出を訴える謎めいたメッセージをガラス壜に入れて海中に投じたのである。ペイヴォイド(旧発展途上国運盟)の人々は15年後にそれを受け取った。そして、かつてマルコムで働いて、恋人がみごもっていたにもかかわらず追放されたベルガセンを密使として潜入させることにした。こうして彼は雪のアルプスを越えて一度も犯されたことのない国境を突破しようとしていた。そこには何があるのか? そして彼はスパイとして捕えられることになるのか? それとも救世主として迎えられることになるのだろうか?
アポロ賞に輝く、フランスSFが誇る衝撃作。》
森村誠一『凶水系』角川文庫・1977年
《川遊びに夢中の腕白な少年たちの一人が浅瀬に漂着した異物に気がついた。恐る恐る皆でその物体を確かめに近づいた瞬間、彼等は悲鳴をあげて逃げだした。
熊谷市内を流れる荒川の河原で男の変死体が発見された。被害者は、上流にかかる八高線の鉄橋で、通過中の列車から何者かに突き落とされたことが判明。数日後、今度は高崎のマンションで、中年の不動産業者が謎の墜落死を遂げた。やがて、この二つの事件に関連のある有力な容疑者が捜査線上に浮かび上がった。だがその時すでに遅く、容疑者は忽然と姿を消してしまっていた……。
著者が久ぴさに放つ最新の本格長編推理小説!》
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