6月分。相変わらず不調で何も読めない日が多い。
魚住陽子『五月の迷子』は版元から寄贈を受けました。記して感謝します。
宮本輝『螢川』角川文庫・1980年(芥川賞)
《堂島川と土佐堀川が合流し、安治川と名を変えていく一角、また焼跡の名残りを伝えていた、昭和三十年の大阪の街を舞台に、河畔に住む少年と、川に浮かぶ廓舟で育つ姉弟のつかの間の交友を、不思議な静寂のうちに描く、太宰治賞受賞作「泥の河」。
立山連峰を望む北陸の富山市を舞台に、熱を秘めた思春期汐少年の心の動きと、いたち川のはるか上流に降るという螢の大群の絢爛たる乱舞を、妖かに、抒情的に描き、芥川賞を受賞した「螢川」。
鮮烈な抒情がみなぎる、代表作二篇を収録。》
魚住陽子『五月の迷子』駒草出版・2024年
《俳句に閉じていく日々の物語
自身の創作への迷いのなかで作家は、俳句と小説のあわいに立ち上る詩情を紡いだ――
「小説の書けない時」と名付けられたパソコンのフォルダに残された物語。
月刊俳誌『つぐみ』に2001年から2006年まで書き綴った作品を中心に、掌編小説63編と俳句をまとめた一冊。》
二葉亭四迷『浮雲』岩波文庫・2004年
《真面目で優秀だが内気な文三と、教育ある美しいお勢は周囲も認める仲。しかし文三の免職によって事態は急変、お勢の心も世知に長けた昇へと傾いてゆく。明治文明社会に生きる人々の心理と生態を言文一致体によって細緻に描写し、近代文学に計りしれない影響を与えた二葉亭四迷(1864-1909)の記念碑的作品。(解説=中村光夫、十川信介)》
小川国夫『西方の誘惑―対話』朝日出版社・1981年
《不安もなく、希望すら必要ない充足》
尾辻克彦『ライカ同盟』講談社・1994年
《尾辻克彦またの名を赤瀬川原平
中古カメラ中毒の著者が描くオタク私小説
ぼくがこのウィルスに感染したのは、まだ三年ほど前のことだ。それまではふつう一般の人間だった。“買わないと治らない”中古カメラ病。安いレンズなどで治っているうちはいいが……。》
遠藤周作『影に対して―母をめぐる物語』新潮文庫・2023年
《なぜ父と母は別れたのか。なぜあのとき、自分は母と一緒に住むと勇気を持って言えなかったのか。理由は何であれ、私が母を見捨てた事実には変わりはない――。完成しながらも手元に残され、2020年に発見された表題作「影に対して」。破戒した神父と、人々に踏まれながらも、その足の下から人間をみつめている踏絵の基督を重ねる「影法師」など遠藤文学の鍵となる「母」を描いた傑作六編を収録》
収録作品=影に対して/雑種の犬/六日間の旅行/影法師/初恋/還りなん
ポーリーヌ・レアージュ『O嬢の物語』角川文庫・1973年(ドゥ・マゴ賞)
《フランスの前衛的な文学賞「ドウー・マゴ賞」を受賞した本作品は、古くてしかも新しい、人間性の奥底にひそむ非合理な衝動をえぐり出した、真に恐るべき恋愛小説の傑作である。女主人公Oは恋人ルネに導ぴかれて、自由を放棄し、男たちに強いられた屈従と涙と拷問のさなかで訓練を積み、奴隷の境遇を受けいれ、ついには晴れやかな精神状態に達するという、それはある女の情熱的な魂の告白であり、フランス伝統文学を受けつぎながら、さらに新しい文学を目ざした真の名作と言って過言ではあるまい。》
諸井誠『名曲の条件』中公新書・1982年
《名曲には「すぐれてよい有名な楽曲」といった辞書的説明を超えた条件がいくつかある。たとえば、一度耳にしたら絶対忘れられないメロディ、心をとらえて離さないリズム、魅惑的な音色……。歴史上で名高い傑作の中には、破天荒な試みを大胆に行ない、同時代者から理解されなかった楽曲も多い。やがて名曲として愛好され、今日でも演奏される古今の傑作を取り上げ、「名曲の条件」を多面的に探る、作曲家によるユニークな名曲案内。》
スタンダール『エゴチスムの回想』冨山房百科文庫・1977年
《三一年一月六日、気晴しに近くのフィウーメ(現ユーゴスラヴィア領リエカ)を訪れた日、スタンダールはこんなノートを書き遺している。「私は何人かの偉人、モーツァルト、ロッシーニ、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチらの伝記を書いた。この種の仕事は私を最も楽しませてくれたものだ。今では資料を渉猟したり、相矛盾する証言を秤にかけて吟味するだけの根気がもうない。そこで生れたのが、その生涯の全事件を熟知しているある人物の伝記を書くという考えだ。不幸にして、この人物はまったく無名にひとしい。すなわち私である」》(解題より)
梅原猛『日本学事始』集英社文庫・1985年
《日本人とはいったい何なのか? 従来の日本文化研究の反省から、あらためて日本人の心性と文化の基層を問い直す上山春平氏との対談「日本学事始」。古代日本人の魂の深さを解き明かす「怨霊と鎮魂の思想」など、古代への独創的な視点と世界学をふまえた大胆な構想力で日本文化論に衝撃的な新風を送った七篇を収録。 解説・芳賀徹》
山口昌男『モーツァルト好きを怒らせよう―祝祭音楽のすすめ』第三文明社・1988年
《カーニヴァル的祝祭感覚が蘇る
祝祭世界に霊感の源泉を持つモーツァルト・オッフェンバッハ・サティなどの軽妙な遊戯精神を通して、音楽のもう一つの楽しみ方を展開する。》
モーリス・ブランショ『死の宣告』河出書房新社・1978年
《死と虚無に直面した人間の魂の苦悩をアレゴリックに描いた鬼才ブランショの死と愛!
異色の短篇/牧歌/窮極の言葉/を併録。》
ジャック・ヒギンズ『狐たちの夜』ハヤカワ文庫・1993年
《ノルマンディ上陸作戦前夜、Dデイの最高機密を握る連合軍将校が演習中に行方不明となった。やがて、彼がナチ占領下のジヤージイ島に漂着したことが判明した。機密漏洩を恐れる連合軍首脳部は、英国陸軍大佐マーティノゥと島出身の女性セアラを救出に差し向ける。だが、身分を偽装して島へ潜入した二人を待っていたのは、驚くべき謀略を心に秘めた“砂漠の狐”ロンメル元帥との出会いだった! 著者会心の戦争冒険小説。》
松本清張『殺人行おくのほそ道(上)』講談社文庫・1984年
《銀座で洋装店を経営する美しい叔母は、倉田麻佐子の自慢だった。ある時、麻佐子は、叔母が叔父の山林を、無断で売ったことを知り愕然とする。叔母は何故お金に困っているのか? 秘かに謎を探る彼女は、山林売買の仲介をした海野が交通事故で死んだことを知る。その死は、連続殺人事件の第1弾だったのだ!》
松本清張『殺人行おくのほそ道(下)』講談社文庫・1984年
《叔母の周りの人々が次々と殺されていく……しかも、その土地が松尾芭蕉の『おくのほそ道』に由来している。麻佐子は、五年前、叔父と二人で旅した“おくのほそ道”と連続殺人の謎を解こうとして、やがて犯人と覚しき男を知る。しかし、その男もまた、殺されてしまうのだった。それでは真犯人はいったい……。》
ヘミングウェイ『海流のなかの島々(上)』新潮文庫・1977年
《美しくも凶暴な南海の自然、風と波にさらわれた白い流木、巨魚と闘う少年、不毛の愛を酒と官能に溺れさせる男女――ここにはヘミングウェイ最高の自然描写があり、我々の知る作者のすべてに加えて、生前さまざまな伝説に覆われていた作者自身の心の秘密がさらけだされている。激烈な生を生き、激烈な死を選んだアメリカ文学の巨星が、自らの悲劇の軌跡を鮮明にしるす凄絶な遺著。》
ヘミングウェイ『海流のなかの島々(下)』新潮文庫・1977年
《幸福な画家であり、良い父だった男が、絵筆をなげうって、メキシコ湾流の黒い潮に船を駆り、死を賭して見えざる敵を追う。マングローヴの茂みをぬって展開される激しい銃撃戦。「真実の瞬間」、すなわち死を目前にして主人公が見上げる空の色。――死と隣接する生命の輝きを、雄大な海の叙事詩として描いた自伝的大作。『老人と海』は実はこの大作の副産物だった……。》
永井路子『雲と風と―伝教大師最澄の生涯』中公文庫・1990年(吉川英治文学賞)
《けわしい求法の道をたどり、苦悩する桓武帝を支えた最澄の生涯を、遠い歳月をこえて追跡する。北叡山開創一千二百余年、不滅の光芒を放つ宗祖伝教大師の人間と思想を、雲走り風騒ぐ激動の時代の中に描く歴史大作。》
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