今月も引き続き装幀辰巳四郎率高め(角川文庫の大藪春彦と梶山季之の古本)。
高齋正『透け透けカメラ』講談社文庫・1984年
《服を着たままの女性を撮影しても、ヌードの写真ができる! そんな画期的なフィルターが発明されたが、その試作品を巡り、色と欲にかられた男たちが虚々実々の駆け引きを展開。果してそのメカの秘密は?(表題作) メカ・ノヴェルの鬼才による、世界初!? のおもしろくて役にも立つ、カメラ小説の傑作群。》
収録作品=円盤写真の写し方/SF作家見るべからず/円盤がいっぱい/新型車の写真/デーライト・シンクロ/若さをステレオで/ソフトフォーカス/自動遠隔撮影装置/ライカの効用/ウエストレベル・ファインダー/写真機屋さんごめんなさい/NVDフィルター/大元帥の望遠カメラ/透け透けカメラ
豊田有恒『暴走狩り』集英社文庫・1982年
《暴走族に惨殺された恋人・由美の復讐を誓って、緑の117クーペを追う若き原子物理学者・三上雄一郎――。幻の名車スカイラインGTRを駆って夜の闇を疾走する男の屈折した青春を描く表題作。他白亜末期の恐竜ドロマエオサウルスの生態にせまるハードSF「過去の翳」などバラエティー豊かな異色SF傑作集。 解説・高千穂遙》
収録作品=あるSF作家の一日/秘境/過去の翳/ゲットー/最後の列車/ソウル支社二十四時/暴走狩り
夢枕獏・真城昭・在沢伸・斉藤英一朗・嬉野泉/柴野拓美編『無限のささやき―新「宇宙塵」SF傑作選Ⅱ』河出文庫・1987年
《星新一以来、SF作家のほとんどが参加、日本SF文学の源泉であり続ける同人詰「宇宙塵」は、創刊30周年を迎えました。『新「宇宙塵」SF傑作選』Ⅰ・Ⅱは同誌主宰者・柴野拓美が、ここ10年間の掲載作から代表的傑作を精選・集成した、SF文学の新時代到来を告げる記念碑です。『無限のささやき』では、夢枕獏のほかに斉藤英一朗・真城昭・嬉野泉・在沢伸らがSFの未来を示す新風をおくります!》
収録作品=蒼い旅籠で(夢枕獏)/太陽ダイビング(斉藤英一朗)/兎とりの罠(真城昭)/天震(嬉野泉)/飛跡(在沢伸)
都筑道夫『目と耳と舌の冒険』晶文社・1974年
《娯しめるだけ娯しもう!
目は映画や軽演劇、耳に落語に講談、舌は食道楽五十三次――もちろんミステリーの話題も加えて、江戸趣味とモダーンさが一つになった好エッセイ集》
大藪春彦『謀略空路』角川文庫・1974年
《迫撃砲とバズーカの砲撃が終った。水野は落し穴から飛び出した。彼の死を確信し、油断して近づいて来る5、6人の男たちめがけて、猛然と火を吹くシュマイザー短機関銃!
内閣情報室秘密工作員の水野洋治は、ローメニア航空スチュワーデス殺人事件から、国際的スパイ合戦にまき込まれた。彼の行手にしかけられた敵の黒い罠。降りかかる身の危険を物ともせず不敵な笑いを浮べる水野。傷だらけになって彼が摑んだ真相は……?
息もつかせぬアクションの連続。大藪春彦のハードボイルド巨編!》
梶山季之『教主さまの好きな血』角川文庫・1983年
《その年は梅雨が長く続き働きにでられないから、“ドヤ街”もなんとなく殺気だっていた。オレは、安ベッドでひっくり返り古新聞を読んでいると、チンチロリンという渾名の片眼の50男が近づいてきて、“いい仕事”があるという。連中のいい仕事とは、ヤバイ仕事に決まっている。オレは、一瞬ためらったがとにかく金がほしい。思わず承知してしまった。
その翌日、“チンチロリン”に連れられて、浅草田原町の地下鉄入口に立っていると、一台の黒塗りの外車がやってきて、すーっと横づけになった……。
あとで考えると、この決断が、オレをどん底から這い上がらせてくれるキッカケになったのだ。痛快傑作小説。》
収録作品=教主さまの好きな血/さっく一代/ほいほいほい/奇妙な女傑
佐木隆三『日本漂民物語』徳間文庫・1984年
《サーカスで空中ブランコの花形となった旅役者、人生最良の日々をすごす下町キャバレーの子持ちホステス、筑豊の藤四郎焼で陶工になった元全共闘と自衛官、姉は戦跡巡拝ガイド、妹はフーテン娼婦になった沖縄の姉妹――われらが日本列島の片隅で懸命に生きる人たちの悲劇と喜劇と活劇を、直木賞作家が笑いと涙と、ひたぷるな共感で見事に描きあげた、生活感あふるる“漂民派小説”、珠玉の六篇。》
収録作品=下町キャバレーで子持ちホステスが人生最良の日々を過すこと/大日本製鉄で重市と伍平がケンカして嘉助がトクしたこと/旅役者銀之介がサーカスで空中ブランコの花形になること/閉山の軍艦島で栄光の産業戦士鶴吉が引越しを躊躇うこと/元全共闘と脱柵自衛官が筑豊の藤四郎焼で陶工になること/沖縄で姉は戦跡巡拝ガイドに妹はフーテン娼婦になること
瀬戸内晴美『冬の樹』中公文庫・1979年
《葉の落ちつくした冬の樹々は生命の終焉と同時にその新たな再生の姿を予感させる。夥しい死の周辺で、避けえない愛の死、生命の死を凝視した著者が、出離後の澄明な心境を託して描く連作十五篇。》
収録作品=形代/耳/かわはぎ/横川/秘密/味方/うららかな日/口紅/菜種梅雨/いつか朝に――/同窓会/嵐/消えた針/木犀
栗本薫『青の時代―伊集院大介の薔薇』講談社文庫・2003年
《学園紛争が吹き荒れたあとの西北大では、カリスマ演出家率いる劇団「ペガサス」が人気を集めていた。大抜擢された新人女優花村恵麻をめぐって、不可解な連続殺人が起きた。疑いをかけられた恵麻は、早くもその才能を発揮しはじめていた上級生伊集院大介に相談する。伝説の名探偵“青の時代” 24歳の事件簿!》
ジャック・ヒギンズ『真夜中の復讐者』ハヤカワ文庫・1990年
《エジプトの収容所で服役中の元傭兵ワイアットは、半死半生のところを昔の戦友たちに救出された。だが、かつての上官バークから新たな仕事を持ちかけられたとき、ワイアットの心は揺れる。山賊に誘拐された大富豪の娘をシチリアの山中から救い出すというのだ。シチリアはワイアットがかつて捨てた島、彼の祖父がマフィアの首領として君臨する場所だった。宿命に引き寄せられるように島に赴いたワイアットは、峻険な山中にパラシュート降下を試みるが、そこで待っていたものは非情な裏切りの罠だった。復讐の地に展開するヒギンズの冒険ロマン。》
辻井喬『茜色の空 哲人政治家・大平正芳』文春文庫・2013年
《スマートとはいえない風貌に「鈍牛」「アーウー」と渾名された訥弁。だが遺した言葉は「環太平洋連帯」「文化の時代」「地域の自主性」等、21世紀の日本を見通していた。青年期から、大蔵官僚として戦後日本の復興に尽くした壮年期、総理大臣の座につくも権力闘争の波に翻弄され壮絶な最期を遂げるまでを描いた長篇小説。解説・川村湊》
梶山季之『夢の超特急―新幹線汚職事件』角川文庫・1975年
《小さな事件の背後に、とてつもない大がかりな犯罪が隠されていることがある。
――ひんぱんに料亭に出入りし、芸者と昵懇になった〈新幹線公団〉の一課長補佐が逮捕された。官公吏にありがちな、実直そうな顔だちの小柄な五十男で、わずか三万円の収賄罪の疑いだった。厳しい追及に耐えかね、この男がうめきながらもらしたことが、実は、用地買収にからむ大汚職事件発覚の糸口となった……。
政界の実力者がからんだ“現代の黒い疑惑”を鋭くついた会心の長編推理。》
梶山季之『青いサファイヤ』角川文庫・1976年
《悪女ほど魅力があるというが、井戸美子は希代の悪だ。男の本能の弱みにつけこみ、〈一番大切にしているものをあげるわ〉というのが、強力な武器だった。金儲け一筋に、法網をかいくぐって財をなした長尾脩造もイチコロだった。ニセ札造りの共犯になるのを恐れた吝嗇家の彼から、出資金だと思いこませて手切れ金をまんまと騙しとった。彼女が狙う獲物は、多額の離婚料をしぼり取れる男性に決まっている。
危い橋を渡りながらも、新手のアイデアで勝負する魅力ある悪女、著者最高の痛快長編小説!》
小林信彦『大統領の晩餐』角川文庫・1974年
《猫がエビのシッポを食べる時、大統領の陰謀はくずれる。――
大企業に加担して、公害対策事務所の猫に盗聴器を仕掛けた、お馴染みオヨヨ大統領、その猫が食あたりで腰を抜かしたと知った時、急きょ誘拐を決意した。
ミナトヨコハマの中華街・ホテル等を舞台に、大統領の間抜けな配下、猫解放運動の女史、鬼警部ら入り乱れての、猫探し珍騒動!
大統領に悪の心得を説く老二十面相、料理道を求める若者を登場させた、求道者小説のパロディ、ウンチクを傾けた中華料理の紹介など趣向も十分な、〈オヨヨ大統領シリーズ〉第5作。》
島田清次郎『地上』季節社・1983年
《青春の憧憬と疼痛、野心と叛逆とこれほどまでに唄いあげた作品があったであろうか。
地上の人間界の生態をかくまでに透徹した眼でみつめた若者がかつて居たであろうか。
近代日本文学史の上に閃光を放ったこの《果敢なる青春の文学》は、しかし《破滅と狂気への序章》でもあった……。》
高杉良『虚構の城』講談社文庫・1981年
《大手石油会社に勤める青年エンジニア田崎健治は、世界に先んじて反公害のプロセス・排煙脱硫装置の開発に成功、喝采の嵐のなかでエリートの道が約束されたかに見えたが……。妬み、女、引き抜き工作、そして立ちはだかる家族的経営の壁。企業の非情がもたらす人生の無惨と製油業界の暗闘を描いた長篇企業小説。》
眉村卓『ぬばたまの…』講談社文庫・1980年
《ハードSFの旗手・眉村卓が新分野に挑戦し、見事に書きあげた異色の長編力作。晩秋の遊園地でふと迷いこんだ不気味な「ぬばたま」の世界……ドラマが展開するこの薄明の世界は何を意味するのか? 突如あらわれる主人公の分身はいったい何者なのだろうか? 不思議な魅力で読者に迫る力作。》
柳田邦男『ガン回廊の朝(上)』講談社文庫・1981年(講談社ノンフィクション賞)
《昭和三十七年、国立がんセンター設立。学閥・年齢を問わず、全国から集められた人材が、ガン撲滅の闘いを始める。患者の苦しみを自らの苦しみとして研究治療に没頭、情熱が苦難を克服して、早期発見・治療の成果を挙げていく。ガンと闘う臨床医や研究者たちの苦闘と不屈の姿を描く感動のノンフィクション大作。》
柳田邦男『ガン回廊の朝(下)』講談社文庫・1981年(講談社ノンフィクション賞)
《ガンとの闘いには休みはない。気の遠くなるような闘いだが、気管支ファイバースコープの完成、発ガン物質の究明、肝臓ガン手術の連続成功など、その研究と診断治療法は着実に前進している。国立ガンセンターで、日夜、治療と研究にとりくむ人びとの苦闘と成果を描いた傑作。講談社ノンフィクション賞受賞。》
三島由紀夫『純白の夜』角川文庫・1956年
《著者のはじめての連載小説として昭和24年に発表されたこの作品は、あまり注目されていないようであるが、フランスの心理小説の伝統をついだものとして、その卓抜な頭脳の生んだ知的な小説であり、代表作の一つとも言えよう。戦後文壇の逸材たる三島の才気はおどり、天才作家レイモン・ラディゲを思わせる。》
木村伊兵衛『木村伊兵衛の昭和』ちくまライブラリー・1990年
《焼跡から立ち上る庶民のエネルギー、子供たちの明るい笑顔、変貌する都市、失われていく路地裏の風景。なつかしい街の貌が、人々の姿が、ここにある。》
井上靖『故里の鏡』中公文庫・1982年
《――「初心集」とでも名付けたいような随筆業である。三十代、四十代、五十代、六十代、それぞれの初心がここには集められている。 (著者あとがきより)
ふるさとの山や河、忘れえぬ人々、文章修業のこと、酒との出逢い、言葉と詩歌の心、芸術論、中国旅行など、折々の心に沁みる日常を澄明に刻む掌篇随想業。》
日高敏隆『利己としての死』弘文堂・1989年
《「動物の世界」の驚くべき大転換─動物たちの生と死
動物の死を、自らの遺伝子を残すための利己的な行為と捉え直すことによって、種族維持のための自己犠牲と解釈してきた従来の「ローレンツ的動物世界」観に180度の転換をもたらした、スリリングな現代動物行動学の最前線へと誘う。》
吉行淳之介『麻雀好日』角川文庫・1980年
《最近の吉行淳之介年譜を見ると、ちょっとした粋な計らいに気づかされる。九連宝燈と天和をやった日付が、ゴシック体で記載されているのである。
雀聖・阿佐田哲也氏によれば、著者の雀風は“宮廷人”のごとく典雅である。著者自身の分類では、麻雀のやり方に「デス・マッチ派」(D派)と「ストレス解消派」(S派)の二つがあり、著者はS派の典型で、仕事疲れを癒しながら楽しむ原点マージャンのタイプだという。
この本は、雀歴30年の著者が、役満を流したりチョンボした時の失敗談から、愛人が麻雀にウツツをぬかして頭にきたH・ミラーの話など、麻雀をめぐるいろいろなエピソードを交えながら語る、絶妙のユーモア・エッセイである。同時に、親しい作家やマンガ家たちとの、愉快な麻雀交遊記でもある。》
カミュ『反抗の論理―カミュの手帖2』新潮文庫・1975年
《重苦しい絶望惑、ふと訪れる死への誘惑――ここには「太陽の讃歌」にみられた、無垢な生の悦びや多感な青春の歓喜はもうない。ナチスの進駐から撤退という多難の時代に、カミュは代表作「ペスト」やサルトルとの間に激しい論争を呼んだ「反抗的人間」などを完成した。不条理の哲学から反抗の思想へ……本書は、カミュの根本理念が形成された円熟期の、論理と感情の裏面を探る創作ノートである。》
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