5月分。
立原正秋は昔、家に親戚が置いていった本が何かあった。『はましぎ』の単行本か何か。
今日泊亜蘭『縹渺譚』(ハヤカワ文庫)は引越しのときに売ってしまったのを見つけて買い戻した。ちくま文庫から復刊はされているようだが。
渡辺淳一『みずうみ紀行』光文社文庫・1988年
《「わたしは一瞬、この世のすべてが止ったような錯覚を覚えて息をとめた。湖水も舟も老婆も、すべてが止っているなかで、ただ一つ動いているのは落日の早さで、つい少し前、黄金色に彩られていた西の湖面は、鮮紅色に変り、さらに濃い赤に変り、やがて黒い闇にうずめられていく。」(本文より)
湖を通して描く渡辺文学の世界!》
松谷みよ子『オバケちゃん』講談社文庫・1980年
《オバケちゃんは、森の中のほらあなにパパおばけとママおばけと静かに暮らしていました。オバケちゃん一家が森を荒らしにくる人間たちを、得意の術を使って追い払う、童話の傑作「オバケちゃん」。ほかにオバケちゃんが白ねこホワイとともに、鉄道事故をめぐって人命救助の大活躍をする続編「ねこによろしく」収録。》
佐藤さとる『星からおちた小さな人』講談社文庫・1975年
《大空をつんつんと飛ぶものがあった。コロボックルが発明した空飛ぶ機械の試験飛行だ。ところがモズに襲われ、乗っていた少年は地上へまっさかさま。さあ大変。街にマメイヌ隊も参加した一大捜索網が繰りひろげられるが、少年の姿はどこにもない……。ストーリーの変化に富むコロボックル物語第三作。》
立原正秋『春のいそぎ』講談社文庫・1985年
《昭和二十年八月、わずか六歳のとき、不破数馬は“滅亡”を見た。屏風に張る金箔の美のみであるか。数馬を中心に、不毛の恋に生きる長姉と虚妄の愛欲に溺れる次姉を置き、数馬から去りながらアル中となって訪れる人妻との関わりを通し、滅びの主題を現代に追求した長編小説。》
立原正秋『雪の朝』角川文庫・1981年
《安政の大獄とよばれた大量の志士の処断を終えた頃から、大老井伊直弼は自分の死をはっきりと視ていた。その胸裡を、埋木舎でたか女と共に楽焼に興じた日の出来事がふと横切る。……直弼が、桜田門外で水戸浪士等18名の襲撃に倒されたのは、万延元年3月3日、雪の朝であった。
立原作品にはめずらしい歴史小説である表題作の他、「行く川」「錆鮎」「山椒の木のある家」「埋れ水」の佳篇を収録。
凛冽流麗な文体、古典的な対位法に支えられた様式美と登場人物の魅力。独自の端正な美学を具現した作品集。》
収録作品=行く川/錆鮎/山椒の木のある家/雪の朝/埋れ水
立原正秋『果樹園への道』文春文庫・1977年
《文学趣味をもつ女主人公・塩見姚は、広大な果樹園のなかにある屋敷の一室をサロンとして、町の文化人に開放した。このサロンに集う人々の交流を描いて人生の哀歓を感じさせる表題作のほかに青春の日々の記憶を胸に、つつましく家庭の幸福を守る“女ざかり”のヒロインたちの倦怠と危機を描破した三篇を収録。 解説・入江隆則》
収録作品=果樹園への道/乾いた十月/荻野村にて/のちのおもいに
保坂和志『朝露通信』中央公論新社・2014年
《毎日外で遊んだ、たまに木の上で物思いにふけった。子どもだった日々が人生の後ろ半分を支える。》(「BOOK」データベースより)
阿川弘之・北杜夫『乗物万歳』中公文庫・1981年
《文壇随一の乗物通といわれる阿川弘之と、旅のベテラン北杜夫との痛快対談。
「世界の乗物」をめぐって硬軟自在、秘術を尽して繰り拡げる舌戦の全録音。一読、議論に負けない技術を習得する大漫才――》
高柳芳夫『日本大使館殺人事件簿』徳間文庫・1987年
《西ドイツの首府ボンで日本人女性の変死体が発見された。女性は元オペラ歌手・両角佐枝子。ボン警察は自殺と断定するが、身許調査に立会った日本大使館二等書記官草葉宗平は不審を抱く。彼女が訪ねた音大の講師ハウザーも、1カ月前謎の死をとげているのだ。佐枝子の娘も5年前、留学先のミュンヘンで自殺。草葉は単身事件解明に乗りだした。「浴室の告発」ほか、海外を舞台にした本格サスペンス連作。》
斎藤栄『《悪の華》殺人事件』徳間文庫・1986年
《新婚旅行で訪れた大阪・箕面のホテルで、新婦・二宮かおるがパラパラ死体で発見された。東京からの車中、かおるのバッグには不吉なメモが投げこまれ、またホテルでも奇妙な事が続いた矢先のことだった。
一方、偶然ホテルまで二宮夫妻と一緒だった大学生・高田保は、事件の夜、ホテルで知り合った葉子という妖艶な女に誘惑された。保は事件と葉子との関わりに不審を抱くのだが……(表題作)。本格ミステリー。》
収録作品=《悪の華》殺人事件/狂気の壺/二十秒の盲点/優しい脅迫/青い蜜
栗本薫『木蓮荘綺譚―伊集院大介の不思議な旅』講談社文庫・2012年
《木蓮の匂う屋敷の品のいい老婦人と、伊集院大介は知り合う。彼女がピアノ教師をしていた二十年前、神隠しに遭ったように帰り道に消えた幼い女の子。瀟洒な住宅街では、三件の幼児失踪・殺害事件が今なお暗い影を落としていた。閉ざされた館の人形が心優しき名探偵を誘う。伊集院大介シリーズ、最後の長編。》
和久峻三『悪魔のパスワード』角川文庫・1988年
《城南市は人口五十数万、京阪神方面に通勤する人たちのベッドタウンとして発展した新興都市である。新しがりやの市長が、庁内の事務をコンピューター管理に切り替え、事務の簡略化に成功、最新式情報管理システムを誇っていた。その自慢の情報管理システムに狂いが生じた。始めは住民票や戸籍謄本の発行業務がおかしくなり、その為に自殺者が出た。次々にプログラムが破壊されるに致り、市役所はパニックに落ち入った。誰かが大型汎用コンピューターのデータバンクに侵入したのだ。やがて、ハッカーから五億円の要求が入り、奇抜な方法でそれをせしめた。ハッカーの姿は依然見えてこなかった。》
収録作品=完璧な侵略/次に来るもの/博士の粉砕機/地球は赤かった/ケンの行った昏い国/無限延命長寿法/素晴らしい二十世紀/「おゝ、大宇宙!」/スパイ戦線異状あり/恐竜はなぜ死んだか?/完全作家ピュウ太/最後に笑う者/秋夜長SF百物語/宇宙最大のやくざ者/「オイ水をくれ」/何もしない機械/古時機ものがたり/溟天の客/幻兵団/カシオペヤの女/最終戦争/天気予報/ミコちゃんのギュギュ/怪物/パンタ・レイ
佐野洋『宝石とその殺意』集英社文庫・1984年
《下条町子は、喫茶店のウェイトレスをしながら、宝石教室に通っていた。ある日たった一人の弟で、大学生の安之が大金を失い、困っていたところ、宝石商の大隈と名乗る男が声をかけてきた。どこか秘密めいた臭いがあったが、町子は恋人の滝田治彦にない大人の魅力を大隈に感じて……。 解説・清水谷宏》
中島河太郎編『日本探偵小説ベスト集成 戦前篇』トクマ・ノベルズ・1976年
《戦後のミステリーはあまりにも拡散し、分化した。こうなると改めて戦前の原点に還りたくなるのも無理はない。探偵も怪奇も幻想も、冒険物も空想科学物も秘境物も、すべて包含して渾沌未分の繚乱たる作品群を鑑賞するのも時宜を得ているかと思う。
広く探偵小説の名称で呼ばれていた戦前作品は、論理探求の所産であるとともに、耽奇猟異の収穫でもあった。その豊かな稔りと果実を手にするなら、現代ミステリーが喪ったかもしれぬ豊潤な香気とうるおいを、きっと昧わって戴けるにちがいない。 編者》
収録作品=面影双紙(横溝正史)/海豹島(久生十蘭)/俘囚(海野十三)/紅座の庖厨(大下宇陀児)/就眠儀式(木々高太郎)/人肉の腸詰(妹尾アキ夫)/煙突奇談(地味井平造)/嘘(渡辺温)/屋根裏の亡霊(水谷準)/殺された天一坊(浜尾四郎)/情況証拠(甲賀三郎)/蛇男(角田喜久雄)/屍くずれ(渡辺啓助)/失楽園殺人事件 / 小栗虫太郎)/殺人リレー(夢野久作)
クラウディオ・マグリス『ミクロコスミ』共和国・2022年
《作者の生地トリエステを舞台に、カフェから山岳地帯、小島、教会にいたるまで、アドリア海に面したこの境界の地の歴史と空間を縦横無尽に描き出し、微に入り細を穿ちながら、そこに小宇宙(ミクロコスミ)を浮上させる稀有のロマン。近年もカフカ賞を受賞し、ノーベル文学賞候補となるなど、現代イタリア文学の巨匠として君臨する小説家/研究者、クラウディオ・マグリスの代表作。
本作は1997年のストレーガ賞受賞作であり、著者の邦訳としては初めてイタリア語原語から翻訳された。》
和久峻三『背の青い魚―弁護士・花吹省吾』角川文庫・1979年
《弁護士・花吹省吾――32歳、熱中しだすと依頼人に同情してなりふりかまわずはたらく。妻の玲子と二人暮らしで、彼女は夫の仕事にやたら興味をもち質問をする。それが事件解決の思わぬヒントになることがある。同郷の先輩で金もうけに重点を置く、花吹と対照的な虻川弁護士と共同の法律事務所を開設した。
その事務所にさまざまな事件がもちこまれた――息子が年老いた親の不動産を無断で担保にして借金したあげく失踪した事件。フグの肝を食べさせて業務上過失致死に問われた調理士の弁護。金融業者殺人にからんだ白痴美の養女の莫大な遺産相続事件等、人情味あふれる若き弁護士が活躍する書き下し法廷推理。》
A・A・ミルン『ユーラリア国騒動記』ハヤカワ文庫・1980年
《「ユードー王子さまがおつきになりました」侍女が宮廷の管楽器の高らかな音とともに告げました。そうです、悪賢い伯爵夫人の陰謀に苦しむ王女を救ため、いよいよユードー王子の登場です。ところが、なんと王女は叫び声をあげると気を失ってしまったではありませんか。それもそのはず、王子の姿はウサギとヒツジ、それにライオンとが組み合わされたなんとも奇妙な動物に変身していたのです……!? 児童文学史上不朽の名作『クマのプーさん』の著者ミルンが、機智とユーモアをまじえて、大人のために書きあげた現代のフェアリイ・テール!》
北杜夫『南太平洋ひるね旅』新潮文庫・1973年
《南海――この言葉の中にある懐かしい響きといささかの幻想を追って、著者はふらりとジェット機に乗り込んで夜の東京を脱出した。ハワイを振り出しに、タヒチ、フィジー、ニューカレドニア、東西サモアと、風を吸い光を浴びて、訪ね歩く小さな島々。子供らと遊び、素朴なおとなと語らう、アオレレ(飛ぶ雲)のように爽やかで、ひっそりとしたどくとるマンボウの気ままな旅行記。》
ロレンス『ロレンス短編集』新潮文庫・1957年
《現代文明を否定し、性と官能の描写を通して、人間と自然、人間同士の関係の回復を追求したロレンスの短編と紀行を収める。収録作品は、青年将校と兵卒の、憎悪の奥に隠された同性愛的感情をドラマティックに描き出した『プロシャ士官』、太陽にあこがれる女を通じて、野性を賛美した『太陽』のほか、『微笑』『春の陰翳』『薔薇園に立つ影』『馬で去った女』『山間の十字架像』。》
和久峻三『血の償い―京都殺人案内』角川文庫・1982年
《900人あまりの乗客をのせて舞鶴を出港、日本海を小樽へ向かうフェリー「えりも丸」が、シージャックされた。犯人は船内に大量の爆薬を仕掛けたといい、現金で一億円を要求。警察に連絡すれば直ちに船を爆破すると通告してきた。
――京都府警のむっつり刑事こと音川音次郎警部補は、札束の詰まったダンボール箱をかついだ老人の姿を必死に追った。捜査は困難を極めたが、音川の過去の恋から思わぬことが判明……。
表題作ほか、祇園で起きた舞妓殺人事件に幕末の坂本龍馬暗殺をからめたミステリーを収めた連作長編の傑作。》
和久峻三『沈め屋と引揚げ屋』角川文庫・1979年
《元禄時代からつづく京都の由緒あるお香の老舗〈香華堂〉。この店の道楽息子は競馬に狂い、街の金融業者からいつしか数千万円にふくらんだ借金をしていた。だが、この業者は名うての悪で、京都四条の目抜き通りにある店舗の時価十億円を超える土地を狙っていたのだ。やがて――一億円にものぼる〈香華堂〉振出しの手形が市場に出まわり「沈め屋」と呼ばれるパクリ屋や「引揚げ屋」というパクリ取られた手形を回収する悪辣な業者たちの大がかりな一味が動きはじめた。
事件の依頼を受けた若き弁護士・日下文雄が活躍する長編法廷推理。》
グレアム・グリーン『情事の終り』新潮文庫・1959年
《私たちの愛が尽きたとき、残ったのはあなただけでした。彼にも私にも、そうでした──。中年の作家ベンドリクスと高級官吏の妻サラァの激しい恋が、始めと終りのある“情事”へと変貌したとき、“あなた”は出現した。“あなた”はいったい何者なのか。そして、二人の運命は……。絶妙の手法と構成を駆使して、不可思議な愛のパラドクスを描き、カトリック信仰の本質に迫る著者の代表作。》
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