今年は例年に比べて通読できた冊数が100冊前後ほども減った。不調と老化か。
池田澄子『本当は逢いたし』は著者より寄贈を受けました。記して感謝します(本文中に出てくる大震災後に茨城で地震実況ツイートをしていた人というのは私のことらしい)。
装幀として懐かしかったのは佐野洋『白く重い血』、島田一男『終着駅』など。
司馬遼太郎、ドナルド・キーン『対談 日本人と日本文化』中公文庫・1984年
《「ますらおぶり」と「たおやめぶり」、忠義と裏切り、上方と江戸の違い、日本にきた西洋人――雄大な構想で歴史と人物を描き続ける司馬氏と、日本文学のすぐれた研究者であるキーン氏がともに歴史の香りを味わいながら「双方の体温で感じとった日本文化」を語る、興趣つきない対談。》
原口統三『二十歳のエチュード』角川文庫・1952年
《身をもって表現の虚偽を知り、それから区別された自我の純潔を生きようとした青年は、20歳でみずからの生命を絶たねばならなかった。しかも、エチュードは「僕は最後まで誠実ではなかった」のことばで結ばれる。この壮烈かつ潔癖な魂の存在は、同じ世代を生きつつある人々を激しくつき動かすことだろう。》
ジョルジュ・ペレック『パリの片隅を実況中継する試み―ありふれた物事をめぐる人類学』水声社・2018年
《コンセプチュアル・アート? 小説? 人類学? パリ版路上観察学!?
映画『ダ・ヴィンチ・コード』の舞台、パリのサン=シュルピス教会、ではなく、
その前の広場を三日間ひたすら描写し続けてみた――
あまりにもありふれた、誰もが見落としてしまうような、瑣末な日常を捉えようとする実験の記録。
登場人物1000人以上の大作『人生 使用法』や「い」の段なしの小説『煙滅』など奇作を世に届けてきた作家が探求する、〈ファクトグラフィー〉の試み。読者に〈観察〉の疑似体験を促す、日常観察学入門?》
ミシェル レリス『オペラティック』水声社・2014年
《作家/民族学者/美術批評家/闘牛愛好家などさまざまな顔をもつレリス。
レリスはオペラに何を見て、何を得たのか? 幼少期からオペラに親しみ、深い影響を受けてきた作家の未発表草稿をまとめた、異色のオペラ論。》
中井久夫『サリヴァン、アメリカの精神科医』みすず書房・2012年
《「現在の精神医学は症状によって診断し、その症状の薬物による撲滅を第一とする。統合失調症の診断を狭くしたのは病名にからむスティグマを考慮したといっても、それはスティグマを負う人数を減らしたにすぎない。患者をまず症状によって評価し分類し特徴づけることは、患者をそのもっとも影の部分によって評価することである。これは患者の自己評価を落とし、自己尊敬を空洞化し、陰に陽に慢性状態成立に貢献しているであろう。これに対してまず人柄を問うサリヴァンの方法は、モラル・トリートメントの伝統に立つものである。有効な薬物があらわれたことは、この伝統を不要にすることではない。むしろ、ますますそれが要請される事態である。」
精神科治療とは。「サリヴァンの精神療法論は、こうしてはいけないということが強調されている」。精神科医・中井久夫のもうひとつのライフワークを初めてまとめる。》
佐野洋『白く重い血』講談社文庫・1980年
《カメラマンの田代がホテルのプールでスナップ写真におさめた美貌の女性は、著名なデザイナー前川阿里子の娘・邦子だった。なぜか阿里子は娘の写真の公開を拒み、奇怪な行動に出る。そして、その邦子が原因不明の自殺をとげ、田代の周辺は謎に包まれる。彼の追及の前に、秘密のベールに覆われたある重大な事実が……》
島田一男『終着駅』徳間文庫・1984年
《ラッシュアワーのプラットホームで公安官が襲われた。口のきけないいたいけな少女を保護して公安室に向かう途中であった。紛失した少女のバッグを探すうちに、海堂捜査班長は、偽造一万円札と易者の死体を発見した。翌日、海堂と警視庁の庄司部長刑事は、身元不明の少女を伴い、少女の乗車券を頼りに米沢へ向かった。だが、凶悪な事件が次々と三人を待ち受けて事件は意外な終着を。他に「待避線」を収録。》
細野晴臣/中矢俊一郎編『HOSONO百景―いつか夢に見た音の旅』河出書房新社・2014年
《沖縄、LA、ロンドン、パリ、東京、フクシマ。世界各地の人や音、訪れたことなきあこがれの楽園。記憶の糸が道しるべ、ちょっと変わった世界旅行記。川勝正幸氏によりインタビューも収録。》
井上光晴『ぐみの木にぐみの花咲く』潮出版社・1993年
《昨年他界した著者がガンとの闘病生活の中で書き上げた作品を集めた最後の遺稿集。老い、暴力、性、離婚、手術など、日々の事象が通りすぎてゆく様を、透徹した目と巧みな文章で描いた26の短編。》(「MARC」データベースより)
収録作品=金曜日の逆襲/先津海岸南/グッバイ、フレンド/菊亭への招待/電報/五月の風/麩のやき又兵衛/鯨だんじりの夜/円次郎は去る/キエフさんの犯罪/階段を拭く人/蔦の羽虫/楠ホテル殺人事件/ギャング/祭りのまえ/黄蜂会からきた女/坂道のペンダント/段ボールの男たち/お水さまの話/海/接見所にて/タマオとマタオ/マリのひかり/かな子/屋上/手配師を待つ男
梶尾真治『占星王はくじけない!』新潮文庫・1987年
《私はマミ。パパ、ママ、シンヤ兄さん、私の家族四人は宇宙を股にかける詐欺師一家。そんな私たちがひょんなことから悪の独裁者・占星王を追いかけるはめになっちゃったの。お調子者のパパは、偶然に開いた亜空間を通って占星王のアジトへ。私達3人は、はたして亜空間を通らずにパパのもとへたどりつけるのかしら……? 奇想天外のスーパー・スペース・アドベンチャー。》
藤井丈司『YMOのONGAKU』アルテスパブリッシング・2019年
《 祝・YMO結成40周年!
レコーディング・スタッフとして『散開』までを見届けた著者が、
豪華ゲストとともに解き明かすテクノ・ポップの魔法!
78年のデビュー作『イエロー・マジック・オーケストラ』に始まり、
『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』『BGM』『テクノデリック』『浮気なぼくら』、
そして93年の『テクノドン』まで、YMOが発表した6枚のスタジオ・アルバムは、
その後の世界のポップスを変えました。
本書はそのレコーディング・プロセスに深く分け入り、
細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏というメンバー3人の共同作業から生まれた
YMOのいまなお新しい音楽性の秘密を探っていきます。》
後藤繁雄編著『TECHNODON』小学館・1993年
《坂本龍一「『テクノドン』ってテクノのドン(親分)でもある。」 細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏の生の発言により、テクノポップグループYMOの再生の秘密が明かされる。》(「MARC」データベースより)
植草甚一『フリー・ジャズの勉強』晶文社・1979年
《ジャズの音はどんどん新しくなってゆく。アルバート・アイラー、アーチー・シェップ、サン・ラなど、ジャズ・アヴァンギャルド世界からの内部の声に耳を傾けよう。ニュー・ブラック・ミュージックに思いっきりのめりこんだ、J・J氏の熱気あふれるレポート。(解説・井上光晴)》
池田澄子『本当は逢いたし』日本経済新聞出版本部・2021年
《彼の世も小春日和か
此処から彼処の人を思う。
最新句集『此処』で2020年度の読売文学賞を受賞した俳人がこの10年、3・11からコロナウイルス禍までの間に綴った60余篇を編んだ、待望のエッセイ集
タイトルは自作句「本当は逢いたし拝復蝉時雨」から。時々のくらしを営む「此処」から「彼処」にいる本当は逢いたい人たちを思い綴る。彼処にいるのは――軍医として赴いた戦地で命を奪われた父、俳句の師、つい最近亡くなった夫、そして被災地で、猛威を振るう自然災害で、先のむごたらしい戦争で命を失った人たち。楽しい旅の途次に、家事の合間に、テレビを観ている時に、想像力は自然に育まれた命そのものへと向かう。自らの思いを常に客観視しているような透徹なまなざしから生まれる文章は、各エッセイに引いた自作句、師や友や先達の句をピリオドとして、えもいわれぬ余韻を残す。》
ゾラ・ニール・ハーストン『ヴードゥーの神々―ジャマイカ、ハイチ紀行』ちくま学芸文庫・2021年
《私たちの世界には生者と死者がいる。だが、ハイチには生者と死者がいて、それからゾンビがいるのだ―。20世紀前半の人類学者ハーストンは、米国南部の黒人民話の調査を経て、カリブ海域へフィールドワークの旅に出る。その成果たる本書は、習俗や秘儀等の民族誌的記述のみならず、ハイチの歴史や政治批評、調査体験談が縦横に挿入され、最後は音楽とダンスの始原についての短い神話で締めくくられる。ハーレム・ルネサンスの黒人作家としても知られる彼女の手法は、学術研究と口承文学のあわいを往還し、「遠い異文化の客観的記述」としての文化人類学に異議を投げかけた。“異色の人類学”の著作として名高い書。》
クロード・レヴィ=ストロース『仮面の道』ちくま学芸文庫・2018年
《アメリカ北西海岸の諸部族が伝承してきた仮面。それは歴史や環境の中で、信仰や祭儀とともに組みたてられた神話世界を反映している。著者は、構造人類学の視点から、仮面という造形の裏に折り重なった意味内容とコードの体系を読解し、個人の主観を人類の共有する幻想へと繋ぐ―「芸術家は、自己を表現しつつ独創的な作品を作っていると信じているかもしれないが、創造の小径というものは、決して独りきりで歩むことはないものなのである」。原書最新版で増補された第二部「三つの小さな旅」も本邦初訳で収録。完全版として刊行する。》
バーナード・マラマッド『テナント』みすず書房・2021年
《1970年冬のニューヨーク、再開発で立ち退きを迫られながら、新作完成まではと居座るユダヤ系作家レサーはたったひとりの住人(テナント)のはずが……空き部屋から聞こえるタイプライターの音。もうひとり、だれかが書いている! 黒人ウィリーとの物書き同士の凄惨な対決がはじまる。激動の時代にマラマッドが挑戦したサイケデリックな異色作を、半世紀後の今日に向けて初紹介。
「『テナント』はアメリカの文学の歴史においてターニングポイントになっており、文学にアイデンティティー・ポリティクスが台頭してきたこと、〈純粋芸術〉の可能性への信頼がなくなってきたことの始まりを示している」(アレクサンドル・ヘモン)》
古井由吉『われもまた天に』新潮社・2020年
《インフルエンザの流行下、幾度目かの入院。雛の節句にあった厄災の記憶。改元の初夏、山で危ない道を渡った若かりし日が甦る。梅雨さなか、次兄の訃報に去来する亡き母と父。そして術後の30年前と同じく並木路をめぐった数日後、またも病院のベッドにいた。未完の「遺稿」収録。現代日本文学をはるかに照らす作家、最後の小説集。》
三浦哲郎『いとしきものたち』世界文化社・2002年
《息をのみ、目を瞠る「自然」の美と繊細さ、四季、琴線にふれた「命」の物語
四季折々に人の暮らしと密接なつながりをもつ自然。動植物であれ、雨・風・雪であれ、いのちを支え、心を癒してくれるもの。八ヶ岳山麓での、そうした「いとしきものたち」との触れ合いを中心に綴った随筆集、全56篇。無駄のない、琴線にふれて余りある筆致は、珠玉かつ豊潤。》
フレデリック・ポール『22世紀の酔っぱらい』創元推理文庫・1971年
《大学の数学教授コーナットは、絶えず自殺に駆りたてられていた。しかし、その願望はつねにある偶然によって未遂に終わった。そんなある日、学術調査団は研究のために南海の孤島から原住民を連れ帰ったが、彼らを媒体として天然痘が流行し、社会的恐慌をひき起こした。そのうち、ついにコーナットは高名な知識人たちの不可解な死因と天然痘の蔓延とをひそかに喜ぶものの存在に気づいた。だれが、そしてその理由とは? F・ポールが軽妙なタッチで描くユーモアSF。》
杉本苑子『二条院ノ讃岐』中公文庫・1985年
《「沖の石の讃岐」とうたわれ二条帝の寵愛を受けながら、保元・平治の争乱に身を遊女に沈めた女流歌人。四人の語り女が、朝廷内部の葛藤と源平の興亡を語りつつ、源氏の女性の波瀾の一生を浮彫りにする。》
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