腹痛は三ヶ月目に入って病院へ行ってもなかなか治らず。積読の消化も滞ったまま。ことに小説が気乗りせず、あまり読めなくなった。
装幀の懐かしさで読んだのは西村寿行『君よ憤怒の河を渉れ』と江夏豊『野球はアタマや』。野球には全然興味がないのだが。
川口晴美『やがて魔女の森になる』は著者から寄贈いただきました。記して感謝します。
銅大『SF飯 宇宙港デルタ3の食料事情』ハヤカワ文庫・2017年
《時は人類を過保護すぎるほど守ろうとした機械知性〈太母〉が〈涅槃〉へと旅立ったあとの時代。中央星域の大商家の若旦那マルスは、人柄はよいものの騙されやすく、勘当されて辺境の宇宙港へと流れてきた。行き倒れた若旦那を救ったのは、祖父の食堂〈このみ屋〉を再開させようとがんばる少女コノミ。ふたりは食材の不足、単調なメニュー、サイボーグや異星人という奇天烈な客にめげず、創意工夫でお腹と心を満たしていく!》
ラファエロ・ブリニェッティ『黄金の浜辺』河出書房新社・1972年(ストレーガ賞)
《海と空と風と太陽の世界を詩的に描いた現代のメルヘン
71年度ストレガ賞受賞作!》
《亡くなった島――河野多恵子
彼等の帆船は、目指す島へは行き着かない。いつまで経っても島は見えず、だが海図で見れば船は島のうえを進んでいることになる。しかし、この小説は伝奇小説ではないし、また観念小説でもない。象徴小説というのも、はばかられる気がする。
海上での部分と処々で入れ替って出てくる、男の内なる島でのよき――恐らく嘗つてのよき日常生活は冷たく描かれておりながら、人間味を漂えており、また消え去るべき前触れを感じさせる。》
尾崎秀樹『歴史文学夜話―鴎外からの180篇を読む』講談社・1990年
《森鴎外『興津弥五右衛門の遺書』から、吉村昭『海も暮れきる』につらなる歴史小説180篇の名作・力作。その愉しさの背景と秘密を語る。》
賀川豊彦『死線を越えて』現代教養文庫・1983年
《スラム街に移り住んで、他人のために自己を捧げ尽すというキリスト数的隣人愛を実践した著者の自伝的小説。後半は特に、スラム街に住むさまざまな人びとの生活記録ともいえ、その中での主人公の働きは万人の胸をうつことだろう。
第一次世界大戦の前後、アジアの片隅で伝導師として活動していた賀川豊彦を世界的人物にまで押し上げた古典的名著。三部作の第一番目。》
西村寿行『君よ憤怒の河を渉れ』徳間文庫・1980年
《「この人がうちに入った強盗です!」
新宿の交番で未知の女性からそういわれて指さされたとき、東京地検のエリート検事杜丘冬人の人生が崩れた。一転、他人の眼を逃れ、闇を奔り、あるときは北海道で羆と闘い、新宿の繁華街をサラブレッドで走り抜ける逃亡生活が始った。
彼を駆りたてているのは自分を罠に陥れたものに対する滾るような憤怒――それだけだった。西村寿行の記念碑的出世作。》
吉井亜彦『演奏と時代 指揮者篇』春秋社・2017年
《「名盤鑑定百科」シリーズでお馴染みの著者による名曲名盤の篩「指揮者篇」。時代の流れとともにコンダクターシップはどのように変遷してきたか。巨匠時代の采配ぶり(ライナー&セル)から今日の精緻なアンサンブル志向まで、指揮者とオーケストラの協働と聴衆に与える影響関係を、突出した指揮者13人の活躍を通して綴る。CD案内付き。》
イサム・ノグチ『イサム・ノグチ エッセイ』みすず書房・2018年
《「子ども時代以来ほとんど忘れかけていた身近な自然の再発見。大人として自然をふたたび知るため、自分の手を自然の泥のなかで疲れさせるためには、人は陶芸家あるいは彫刻家でなければならず、それも日本においてでなければならない」
種々の素材による彫刻作品にくわえ、ユネスコ本部庭園、ビリー・ローズ彫刻庭園、チェース・マンハッタン銀行プラザ・サンクンガーデンなど自作解説からコンスタンティン・ブランクーシ、バックミンスター・フラー、マーサ・グレアム、北大路魯山人、ルイス・カーンの思い出まで。「グッゲンハイム奨学金申請書」「近代彫刻における意味」「彫刻家と建築家」「平和の庭」「新しい石庭」「エルサレムの彫刻庭園」「悲劇『リア王』、舞台装置家のノート」「作品集『ノグチ』序」「日本の《あかり》ランプ」ほかエッセイ25篇、インタビュー3篇。世界的彫刻家が石を彫るその手で紡いだ思索の軌跡。図版多数収録。》
ジャック・デリダ、豊崎光一/守中高明監修『翻訳そして/あるいはパフォーマティヴ』法政大学出版局・2016年
《デリダが最も信頼する相手と語り合い、難解で知られるその哲学について、講義や講演でも見せることがない率直な語り口でデリダ自身が明らかにし、豊崎光一が《翻訳》で応答する。アルジェリア生まれのユダヤ人としての来歴、言語との関係、自身の哲学のさまざまな概念、ハイデガー、ブランショ、レヴィナス、セール、フーコー、ドゥルーズらとの関係までを語る。現代の知の核心を開く対話による共著。世界初の書籍化。》
アンナ・カヴァン『あなたは誰?』文遊社・2015年
《「あなたは誰?」と、無数の鳥が啼く―
望まない結婚をした娘が、 「白人の墓場」で見た熱帯の幻と憂鬱。
カヴァンの自伝的小説、待望の本邦初訳作品が登場!》
古井由吉『書く、読む、生きる』草思社・2020年
《作家稼業、書くことと読むこと、日本文学とドイツ文学、近代語と古典語、翻訳と創作、散文と韻文、口語と文語、「私」と「集合的自我」、夏目漱石『硝子戸の中』『夢十夜』、永井荷風、徳田秋聲『黴』『新世帯』、瀧井孝作『無限抱擁』、馬と近代文学、キケロ、シュティフター、ゴーゴリ、ジョイス、浅野川と犀川、競馬場と競馬客、疫病と戦乱、東京大空襲、東日本大震災、生者と死者、病と世の災い―。深奥な認識を唯一無二の口調、文体で語り、綴る。日本文学の巨星が遺した講演録、単行本未収録エッセイ、芥川賞選評を集成。》(「BOOK」データベースより)
吉田秀和『クライバー、チェリビダッケ、バーンスタイン』河出文庫・2020年
《クライバーの優雅、チェリビダッケの細密、バーンスタインの情動。ポスト・カラヤン世代をそれぞれに代表する、三人の大指揮者の名曲名演奏のすべて。》
沼野雄司『現代音楽史―闘争しつづける芸術のゆくえ』中公新書・2021年
《長い歴史をもつ西洋音楽は、二十世紀に至って大きく変貌する。シェーンベルクやストラヴィンスキーに始まり、ジョン・ケージ、武満徹、バーンスタイン......。多くの作曲家が既存の音楽の解体をめざして無調、十二音技法、トーン・クラスター、偶然性の音楽などといったさまざまな技法を開発し、音の実験を繰り広げた。激動する政治や社会、思想を反映しながら時代との闘争を続ける「新しい」音楽のゆくえとは。》
ユーリー・ボリソフ『リヒテルは語る』ちくま学芸文庫・2014年
《「ショパンのスケルツォ第4番。あれはまだ飛び方を習得していない天使を描いている」――日本との関係も深い20世紀最大のピアニスト、スヴャトスラフ・リヒテルが、駆け出しの演出家に語った驚きの言葉のかずかず。音楽作品が描き出す物語、他の芸術分野への連想、著名な人たちの思い出などがいきいきと語られる。プルーストやシェイクスピアを引用し、フェルメールやピカソを評し、フェリーニやクロサワを讃える。天才の想像力が全開する類いまれな一冊。文庫化に際し、「八月を想う貴人」を増補。》
川口晴美『やがて魔女の森になる』思潮社・2021年
《シスターフッドの未来
もう知らない誰かに勝手に使われたり奪われたりしなくていい
かわいいとか幸せそうとかおもわれなくてもいい
わたしがわたしじゃなくたっていい森の
秘められた水の辺にはわたしかもしれないひとたちがいる
(「世界が魔女の森になるまで」)
あなたはもうひとりのわたしなのかもしれない。だからこれはひとりの、わたしたちの声。話題となった「世界が魔女の森になるまで」(「早稲田文学増刊「女性号」」初出)を収録。高見順賞受賞の『Tiger is here.』以後、着実な歩みを見せる新詩集。装画=イケムラレイコ、装幀=白本由佳》
草上仁『5分間SF』ハヤカワ文庫・2019年
《あなたはこのお話のオチ、想像できますか? 宇宙に放り出され生死をさまよう男たちが取った究極の選択とは? 恐竜を探しに降り立った惑星で取材陣が出会った衝撃の真実とは? 幸せな生活を願って二人の未来をシミュレートしたカップルが手に入れた真実の愛とは? 思わずあっと驚く結末が、じわりと心に余韻を残す、すこしふしぎなお話が盛りだくさん。1話5分で読めて、いつでもどこでも楽しめるSFショートショート》
収録作品=大恐竜/扉/マダム・フィグスの宇宙お料理教室/最後の一夜/カンゾウの木/断続殺人事件/半身の魚/ひとつの小さな要素/トビンメの木陰/結婚裁判所/二つ折りの恋文が/ワーク・シェアリング/ナイフィ/予告殺人/生煙草/ユビキタス
坂本龍一・後藤繁雄『skmt 坂本龍一とは誰か』ちくま文庫・2015年
《坂本龍一は、何を感じ、どのように時代をとらえ、どこへ行こうとしているのか? 彼の感受性にぶつかるのは何であり、時事性がどのように創作へと彫琢されるのか? インタビューの達人として知られる独特編集者・後藤繁雄とともに、坂本の思考の系統樹をたどり、「時代」に解消されない独創性の秘密にせまる。『skmt』『skmt2』を合本した「予見」の書。》
細野晴臣『アンビエント・ドライヴァー』ちくま文庫・2016年
《はっぴいえんど、ティン・パン・アレー、YMO……。日本のポップ・シーンで著者はさまざまな花を咲かせた。アンビエントの海を漂い、ふたたび陸に上がり、なおも進化しつづける自己省察。著者の、自然観、人生観、音楽観などの伝わるエッセイ集。》
ケネス・クラーク『名画とは何か』ちくま学芸文庫・2015年
《ボッティチェッリ“ヴィーナス誕生”、ベラスケス“宮廷の侍女たち”、レンブラント“夜警”、ピカソ“ゲルニカ”―これら誰もが知る傑作は、なぜ時代を超えて人びとの心に感動を呼び起こし、いまなお多くの謎を投げかけてくるのか。名画を名画たらしめているものとは、いったい何なのか。作品を天才による才能の発露としてのみならず、時代の精神を体現するものとして「文明」とのかかわりで読み解く広大な眺望を切り開いてきた美術界の碩学が、約40点の名画を精選。一点一点丁寧に、味わい深く解説する。その思想の核が凝縮された珠玉の美術入門。》
鈴木貞美『日本人の生命観―神、恋、倫理』中公新書・2008年
《「神からの授かりもの」「輪廻転生」「物質の集まり」―生命の見方は多様だ。日本人は生命をどのように捉えてきたのか。本書は、宗教、哲学、文学、自然科学と多彩な分野からこの疑問にアプローチする。神々が身近だった記紀万葉の昔から、生命科学が著しい発展を遂げた現代まで、生命観の形成と変遷をそれぞれの時代相とともに描きだす。日本に脈々と流れる「生命本位の思想」の可能性と危険性も浮かび上がってくる。》
朝日新聞黄河行取材班『黄河行』徳間文庫・1984年
《あばれ黄竜――人々は、黄河をこう呼ぶ。
その黄河の辺りに立つ――。
青海省の屋根に源を発し高原地帯を貫流して蘭州へ。黄土高原を奔流したあと東に折れて大平原にたどりつき、雄大な流れとなって渤海湾に注ぐ。全長5664キロ。水源を出た水は一カ月かけて河口にたどりつく。
黄河は中国文明の母である。
ロマンを秘めたその歴史と流域に住む人人の素顔を伝える紀行書。》
江夏豊『野球はアタマや』徳間文庫・1985年
《ついに大リーグにまで行った男――。オールスター九連続奪三振の記録を持ち、阪神・南海・広島・日ハム・西武とわたって通算206勝193セーブ、両リーグMVP受賞。“球界の一匹狼”“優勝請負人”“セーブ王”など数々の称号を贈られた江夏が、あの球史に残る日本シリーズ・西武―巨人全七戦を紙上で再現、自己の投球術とその底に流れる野球への深い洞察の全てを初めて披露する。江夏流ピッチング術。》
朧月あき『婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する』ベリーズ文庫・2020年
《前世でガチはまりしていた乙ゲーの悪役令嬢に転生したと気づいた、令嬢・アンジェリーナ。王子に婚約破棄された上に、幽閉というバッドエンドしか待っていなくて大ピンチ! だったらのんびり優雅に(!?)監獄生活を満喫してみせましょう!と“ジャージ”でゴロゴロ&“推しごと”に没頭し放題! 自由を謳歌する悪役令嬢のリア充ライフ、ここに開幕!》
宮澤伊織『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』ハヤカワ文庫・2017年
《仁科鳥子と出逢ったのは〈裏側〉で〝あれ"を目にして死にかけていたときだった――その日を境に、くたびれた女子大生・紙越空魚の人生は一変する。「くねくね」や「八尺様」など実話怪談として語られる危険な存在が出現する、この現実と隣合わせで謎だらけの裏世界。研究とお金稼ぎ、そして大切な人を探すため、鳥子と空魚は非日常へと足を踏み入れる――気鋭のエンタメSF作家が贈る、女子ふたり怪異探検サバイバル!
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