2021年8月
銅林社
『短歌史または夜の雲』は武田肇の第3歌集。原文は旧字体。
著者は「ドミタス」編集人。
紫陽花のとなりに紫陽花なき世界 一兆分の一ミリを過ぐ
サンボリズム「八重(やへ)」の勃(お)こらむ須佐之男よ 嗚呼ヴェルハーレン午後の時間よ
寝目(ねめ)で待つ人を撰ばば月一人(いちにん)雲幾人(いくたり)の験(しるし)あらめや
いへにゐてミネストローネ皿に盛るこの大海(おほうみ)に人を拒まむ
買物に妻は出でたり大海(おほうみ)となりたるいへにわが振る手旗
M(メシエ)44番 夜の雲ならし わが霊魂の「ねぢの回転」
墓を見て人を見ぬ目の空無哉われは詩の人 硯(すずり)洗はむ
引越ををへ父と子と聖霊の 空家となりて最初の夜はも
ぎざぎざに生体電気腥(なまぐさ)くわが腰折れの魚影なるべし
身を躱(かは)す少年イエズス、小便器、レディメイドはいづれかオブジェ
家中にわれを配する午(ひる)さがりカントの予感ツェランの不眠
少女子(をとめご)の超ヘアピンで穹(そら)は曲り初潮はしぶく「すべてを見る(パノプティコン)」とは
網膜に三万の蠅 脳髄に一匹の蠅 いづれか天使
広場は内にわれを立たしめ回転すホテルはいづこ春に問はなむ
寝覚めれば月も無月もなかりけりわが中空のいたくな起(た)ちそ
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
最近のコメント