5月も不調続きなところへ後半締切が重なってあまり読めず。
ウルフ『波』は学生の頃、角川文庫がリクエスト復刊した杉本一誌装幀の版を新刊で買って、以後30年かそこら積読になっていたのをようやく読んだというものだが、この名作、近々新訳版が出る。
眉村卓『静かな終末』、河野典生『八月は残酷な月』はどちらもわりと最近出たもので、時代の流れで仕方がないのか、カバーは写実的ではない画風。辰巳四郎装幀のハヤカワ文庫の古本3点(シドニイ・シェルドン『裸の顔』、ウィリアム・H・ハラハン『亡命詩人、雨に消ゆ』、ロス・マクドナルド『ドルの向こう側』)はほとんど装幀のために買ったようなもので、新刊でそういうケースはあまりない。
高岡修『詩集 一行詩』、山田亮太『誕生祭』は著者より寄贈頂きました。記して感謝します。
鷲田清一『死なないでいる理由』角川ソフィア文庫・2008年
《たとえば、生涯だれにも一度も呼びかけられなかったひとなどはいない。〈わたし〉は「他者の他者」として、他者の思いの宛先としてここにいる。〈わたし〉が他者の意識の宛先でなくなったとき、ひとは〈わたし〉を喪う。存在しなくなる。ひとの生も死も、まぎれもなく他者との関係の社会的な出来事としてある、そんな現代の〈いのち〉のあり方を、家族のかたちや老い、教育など、身近な視角からやさしく解き明かす哲学エッセイ。》
佐藤さとる『豆つぶほどの小さないぬ』講談社文庫・1975年
《コロボックルがむかし飼っていた豆つぶほどの小さな犬。もう死に絶えたと思われていたそのマメイヌが、いまも生きているらしいという。ほんとうにいるのだろうか? マメイヌ捜索に、コロボックルたちの大活躍がはじまる。名作「だれも知らない小さな国」の続編。》
火浦功『日曜日には宇宙人とお茶を』ハヤカワ文庫・1984年
《豪田みのり、美少女、18歳、親子三代にわたる筋金いりのマッドサイエンティストの家系、豪田家のひとり娘。けれどもまだ仮免許のマッドサイエンティストみのりちゃんが発明するのは、一本の鉛筆を削るのに一時間もかかる〈コンピュータつき鉛筆けずり〉、時間量子を掘り抜けタイムトンネルをつくっていく〈量子シャベル〉、人間を電送するとサボテンと合体した“怪奇サボテン人間”をつくりだす〈物質電送装置〉などなど。日夜、猫ヶ丘ニュータウンのタウン誌《猫又ジャーナル》編集員の山下とサトルを実験相手にみのりちゃんパワーが作裂する!》
阿刀田高『恐怖夜話―ミッドナイトの楽しみ方』ワニ文庫・1984年
《絢爛怪奇! 幻想無比! 夜な夜な枕元にしのびよる恐怖連続! 読むうちにゾクゾクと背中に冷たいものが走る。鳥肌がたつ。時おり、ふるえがくる。目がかすむ。ほおがこわばる。歯が鳴る。耳鳴りがする。寝苦しい夜に、ストレス解消に。夜がくるのが怖くなるか、まちどおしくなるか――。でも、読み終わったあと、かならず人に聞かせたくなることうけあい。この一冊であなたの心臓を冷凍するクールな楽しみを贈る。》
阿刀田高『詭弁の話術―即応する頭の回転』ワニ文庫・1983年
《詭弁とはゴマカシの話術。だが、自分の意志を他人に訴え、説得しようとすれば、詭弁的なものが介入してくる。これをヤミクモに否定することは現実的でない。むしろ詭弁を考えることは、正しい論理を身につけることになる。古代ギリシャや古代中国で弁舌が盛んだったように、現代もある意味では口八丁の時代といえる。詭弁の砲火をかいくぐり、いかに生きるか、ある時は身を守るすべとして、またある時は攻撃の武器として、この一冊が威力を発揮する。》
神吉拓郎『洋食セーヌ軒』新潮社・1987年
《ふと、うまい牡蛎フライを食べたくなって、10年ぶりに訪れた洋食セーヌ軒。町並みも店構も昔のままだったが…。時の移ろいと、人と食物との相性を爽かにつづる表題作ほか。日常の食べものや、さりげない食卓の情景を通して浮びあがる人生の機微。連作小説集。》
西村京太郎『特急「白鳥」十四時間』角川文庫・1985年
《十津川警部の片腕で、捜査一課のベテラン刑事亀井は、気は優しく真面目で、通称“カメさん”の愛称で誰からも親しまれていた。その亀井に何者かによって懸賞金がかけられた。〈死亡に限り一千万円〉亀井に対する私怨か、警察に対する挑戦か? 出張で大阪にいた亀井は自ら囮になることを決意し、叔母のいる青森までを走る「白鳥3号」に乗り込み、犯人をおびきだそうとするが……。
青森までの十四時間の長い旅が始まった!》
西村京太郎『札幌着23時25分』角川文庫・1985年
《航空スト当日、暴力団川田組組長の有罪の決め手となる重要な証人を、札幌地裁まで連れていかなければならない事態が発生した。タイムリミットは深夜零時! 証人を連れて東京を出発した十津川警部の行手には、それを阻止せんとする川田組弁護士佐伯の手の者が……。チャーター機、列車、東北新幹線、車、船とあらゆる交通機関を駆使して、狙う側と守る側の華麗なゲームが始まる!
人気作家が自信をもって贈る、トラベル・サスペンスの決定版。》
西村京太郎『日本殺人ルート』角川文庫・1984年
《京都のお寺で「私は、嵯峨野に人を殺しに参りました」と書いた美貌の女。沖縄の旅行中、妻の殺害を計画する夫。美人秘書殺害につけられた一千万円の賞金。知床、東京、伊豆、北陸、京都、神戸、沖縄。全国各地で次々と起るミステリアスな事件。欲望と憎悪が絡みあう複雑な人間関係を背景に、完全犯罪を狙うしたたかな悪人たち!!
スリリングな展開と意表をつく結末。トラベル・ミステリーの第一人者が贈る傑作推理。》
収録作品=花冷えの殺意/石垣殺人行/秘めたる殺人/死へのワンショット/超高層ホテル爆破計画/危険なダイヤル/死者の告発/手を拍く猿
ヘッセ『メルヒェン』新潮文庫・1973年
《誰からも愛される子に、という母の祈りが叶えられ、少年は人々の愛に包まれて育ったが……愛されることの幸福と不幸を深く掘り下げた『アウグスツス』は、「幸いなるかな、心の貧しき者。天国はその人のものなり」という聖書のことばが感動的に結晶した童話である。おとなの心に純朴な子どもの魂を呼び起しながら、清らかな感動へと誘う、もっともヘッセらしい珠玉の創作童話9編を収録。》
収録作品=アウグスツス/詩人/笛の夢/別な星の奇妙なたより/苦しい道/夢から夢へ/ファルドゥム/アヤメ/ピクトルの変身
北杜夫『マンボウおもちゃ箱』新潮文庫・1977年
《人の顔を片っ端から忘れてしまう性癖が引き起す悲喜劇『ひと忘れ』、賭博場での猛烈奮戦記『ギャンブルのこと』、処女出版の思い出『初めての本』、体力も気力も十分の老母に圧倒された海外旅行同行記『母の味』など――爽やかなエスプリのあふれるエッセー51編と、『陸魚』『買物』の二つの物語。どくとるマンボウが、ある時はユーモラスに、ある時はしみじみと語りかける愉しい本。》
小松左京・石毛直道『にっぽん料理大全』同時代ライブラリー・1993年
《あんぱん、いなりずし、うな丼、おでん、コロッケ…など、近代日本の大衆食を総ざらい。食文化の知られざる歴史や意外な逸話の数々を、博覧強記の作家、小松左京と、異色の文化人類学者、石毛直道が蘊蓄を傾け、披露しあう。古今東西の料理文化や食の思想も視野に入れた、痛快な話題満載の対談集。最新の食談義「地球時代のにっぽん料理」を加えた増補版。》
松葉一清『パリの奇跡―メディアとしての建築』講談社現代新書・1990年
《ルーブルのピラミッド、新オペラ座、立方体の新凱旋門、オルセー美術館、ベルビルのエスニックタウン……機能第一のモダニズムに異を唱え、甦りつつある花の都パリ。フランス再生を目指す権力にとって、都市は最高の表現メディアだ。グランプロジェに「都市の未来図」を見る。》
蓮實重彦『言葉はどこからやってくるのか』青土社・2020年
《「バルトのように、記号としての言語を呼吸しながら、それを括弧に括ったりせず、それをいたわりつつ酷使せずに書くことができたら……」
書くことに向かうすべての人へ。》
磯崎新・藤森照信『磯崎新と藤森照信の茶席建築談義』六耀社・2015年
《茶室は建築か?
現代建築界を背負う 磯崎新 と 藤森照信 が語り合う
茶と、茶の建築の話。
それは、日本建築の歴史を辿る道行となった
建築界のふたつの「知」と出会える一冊。》
マルグリット・デュラス、フランソワ・ミッテラン『デュラス×ミッテラン対談集 パリ6区デュパン街の郵便局』未来社・2020年
《フランスの作家M・デュラスと第21代大統領F・ミッテランの対談集。対談は1985年から翌年にかけて行なわれ、フランスの社会、文化、自然、歴史、内政や外交等を広く対象としている。なかでも第二次世界大戦中のレジスタンス運動とナチス強制収容所被収容者の救出活動に費やされる一年ほどのあいだに起こった、数々の出来事の回想部分が圧巻である。作家デュラスの文学の背景にあるさまざまな事実がおのずとあぶり出され、作家研究としても重要であるとともに、大統領ミッテランの政治体験や政治思想の一面なども克明に知ることのできる、重要なドキュメント。》
眉村卓/日下三蔵編『静かな終末』竹書房文庫・2021年
《大きな戦争が起きて、どうやら世界は終わるらしい。しかし、そんなニュースは流れない。戦争の噂はデマだったのだろうか……。不気味な“日常”を描いた表題作ほか、ムダをはぶき効率化を突きつめた企業の行く末「ムダを消せ!」、クイズ番組に人生を賭けるクイズのプロたちの熱き戦い「テレビの人気者・クイズマン(人間百科事典)」など、未収録作品と未文庫化作品を多数収録。
いまなお突き刺さるアイデアと警鐘。SF第一世代の巨匠による、やわらかな口当たりと驚きのコクが味わえる全五十篇。お目覚めに、あるいは最後に一篇いかが?》
収録作品=いやな話/名優たち/われら人間家族/廃墟を見ました/大当り/誰か来て/行かないでくれ/応待マナー/ムダを消せ!/委託訓練/面接テスト/忠実な社員/特権/夜中の仕事/のんびりしたい/土星のドライブ/家庭管理士頑張る/自動車強盗/ミス新年コンテスト/物質複製機/獲物/はねられた男/落武者/安物買い/よくある話/動機/酔っちゃいなかった/晩秋/怨霊(おんりょう)地帯/敵は地球だ/虚空の花/最初の戦闘/最後の火星基地/防衛戦闘員/最終作戦/敵と味方と/すれ違い/古都で/雑種/墓地/傾斜の中で/あなたはまだ?/静かな終末/錆びた温室/タイミング/テレビの人気者・クイズマン(人間百科事典)/100の顔を持つ男・デストロイヤー(破壊者)/電話/店/EXPO2000
河野典生/山前譲編『八月は残酷な月』光文社文庫・2019年
《幼少より慈しみ育ててくれた組織のボスを射殺し、海外逃亡をはかる無軌道な青年(「ゴウイング・マイ・ウェイ」)、市民や学生のデモ隊が街にあふれ騒然とする中、外相の首を狙う孤独なテロリスト(「陽光の下、若者は死ぬ」)など、強烈なジャズ・ビートをバックに描く反抗的、反俗的な青春群像! 和製ハードボイルド小説のパイオニアとして名高い著者の傑作短編集!!》
収録作品=ゴウイング・マイ・ウェイ/陽光の下、若者は死ぬ/狂熱のデュエット/殺人者/八月は残酷な月/アスファルトの上/青い群/海鳴り
北杜夫『天井裏の子供たち』新潮文庫・1975年
《忍者に憧れる少年たちが、服部半蔵と名乗る首領以下、おんぼろアパートの天井裏につくりあげた夢の空間と、その消滅を描く表題作。他に、精神病院内での患者たちの珍妙な映画制作の物語『もぐら』、静かな無為の時間に包まれているようにみえる老女の、心の奥に息づく過去の幻影をあざやかに描き出した『静謐』など、重い現実と飛翔する夢のあわいに生れた作品全5編を収める。》
収録作品=もぐら/天井裏の子供たち/静謐/死/白毛
ヴァジニア・ウルフ『波』角川文庫・1954年
《時間の無常のなかで、六人の男女が織りなす一瞬の陶酔。対位法をもちい独自の手法で意識の流れを展開した本書は、小説というよりもむしろ詩に近い。あまりに美しすぎる近代文学の極北。》
シドニイ・シェルドン『裸の顔』ハヤカワ文庫・1984年
《雪の乱舞するマンハッタンの舗道で刺殺事件が発生した。被害者ハンソンは精神分析医ジャッドの患者だった。同夜、ジャッドの診療所の受付係が惨殺された。全身に拷問の跡があった。そして、怒りと困惑をつのらせるジャッド本人の身にも遂に事件は起きた。何者かにひき殺されかけたのだ。その時になって彼は気づいた。ハンソンは彼が貸したコートを着ていた……受付係は彼が偶然外出した時に襲われた……狙われていたのはもともと彼だったのだ! だが誰が、一体何のために? 世界的ベストセラー作家が息づまるタッチで描くミステリ・ロマン!》
ウィリアム・H・ハラハン『亡命詩人、雨に消ゆ』ハヤカワ文庫・1983年(アメリカ探偵作家クラブ賞)
《強い雨が降りしきる四月のある日、ソ連から亡命した一人の詩人が拉致され、ニューヨークから姿を消した。連れ去ったのはソ連当局のエージェントだという。亡命してすでに二年、政治とは無縁の存在である彼がなぜ? ふとした偶然からその謎を解く鍵を発見した移民帰化局のリアリィは、独力で秘かに調査を開始する。一方、任務の失敗からCIAを追われ失意の日々を送っていたブルーワーも、元上司の依頼で詩人の救出に乗り出した……。白熱の追跡の末に現われた驚くべき真相とは何か? アメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞に輝く傑作スパイ小説》
ロス・マクドナルド『ドルの向こう側』ハヤカワ文庫・1981年(英国推理作家協会賞)
《大実業家の息子トムが脱走したので探してほしい――アーチャーは少年院の理事からこんな依頼を受けた。だが、まもなくトムが誘拐されたという報せがはいった。アーチャーはすぐに調査を始めたが不思議なことにトムは謎の女と街に出没しているらしい。しかも二人のいたモーテルでアーチャーが見たものは何と謎の女の撲殺体だった。トムと女の間には何かあったのか? また事件の深淵にはまり込んだアーチャーを待つものは? 一人の少年の行動に翻弄され、自らの醜い過去を露呈してゆく人間の姿を重厚な筆致で描く英国推理作家協会賞受賞の傑作》
蓮實重彦『「ボヴァリー夫人」拾遺』羽鳥書店・2015年
《文学批評の金字塔『「ボヴァリー夫人」論』の刊行前後の講演および著者による『ボヴァリー夫人』の要約を収める。》
海野弘『一九二〇年代の画家たち』新潮選書・1985年
《この本は私の好きな一九二〇年代の画家たちを集めたものである。彼らは一つのイズムやセクトにまとめることはできない。表現方法はそれぞれちがっている。それにもかかわらず彼らは一様に、〈都市生活〉に深くとらわれている。そして時代や人々を実にいきいきととらえていて魅力的だ。私は彼らを一人一人語っていきながら、それを通して〈二〇年代〉とはなんだったかを浮び上がらせたいと思った。 著者》
ヘッセ『青春は美わし』新潮文庫・1954年
《何年ぶりかで家族の住む故郷に帰ってきた青年は、昔恋したことのある美しい少女に再会する。しかしその愛は実らず、その上、妹の友達への恋にも破れる。彼は孤独な、しかし清らかな思い出を胸に故郷を去って行く……。ふるさとを懐かしみながら放浪に心ひかれ、地道に生きようと願いながら浪漫的な憧れに駆られる青春の心を抒情性豊かに謳いあげた表題作。他に、『ラテン語学校生』。》
山田亮太『誕生祭』七月堂・2021年
《生まれてきてくれてどうありがとう。きみたちは私たちよりももっと好きなように、でたらめに生きていい。
第50回小熊秀雄賞を受賞した『オバマ・グーグル』より5年。
山田亮太、待望の新詩集!》
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