『みじかい髪も長い髪も炎』は平岡直子(1984 - )の第1歌集。栞文:水原紫苑、正岡豊、馬場めぐみ。
著者は「外出」同人。
わたしたち浮浪者だっけ、歯にメモを書いてつぶれたペン先だっけ
茶封筒〈がん検診のおしらせ〉の字は宝石にたとえたら何
からだに穴はあけちゃだめってお父さんが言ってたわたしの耳嚙みながら
ああきみは誰も死なない海にきて寿命を決めてから逢いにきて
夜と窓は強くつながるその先にひとりぼっちの戦艦がある
身のうちに電子回路や針金を感じつつきみに腕を伸ばした
靴下で砂を踏みつつ永遠に着られる服がほしかったのだ
忘れてはいけない人が増えてゆきアパートとなる胴体である
めちゃくちゃに子どもが描いたカラフルな線にも頭蓋骨がほしいね
交番に用事があった顔のまま草木を連れて季節を渡る
コーヒーにミルクを混ぜる分量が日々てきとうな弾丸なのに
靴を脱ぎたったの二歩で北限にいたる心の狭さときたら
この世のどこかにわたしの四肢を継ぎ合わす犯人としてレモンが光る
白いシャツに埋(うず)もれて死ぬ願望のようにひかりに汚されている
視神経の束をあげたいヘッドライトは夜の湿度を切りひらくだけ
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。