角川文庫の源氏鶏太作品は子供の頃よく本屋にあるのを目にしていたので、灘本唯人のカバー絵だけは馴染みがあったもののほぼ読んでいなかった。
高岡修『詩集 蟻』、伊藤浩子『数千の暁と数万の宵闇と』は著者から寄贈いただきました。記して感謝します。
荒俣宏・松岡正剛『月と幻想科学』立東舎文庫・2016年
《「たぶん月は、われわれが“等身大"に思考できる対象のうちで最高のものじゃないでしょうか?」。ギラギラの太陽ではなくあえて冷え冷えの月をテーマとして、若き日のアラマタ、セイゴオ両氏が古今東西の作品やエピソードを語り尽くす。ホフマン、ノヴァーリス、サミュエル・パーマー、ユング、ラフォルグ、マクスウェルの悪魔、フランソワ・ジャコブ、イエイツ、フランシス・ジャム、ジョン・キーツ、宮本正太郎、コールリジ、ジャック・スミス、ディドロ、ジョージ・バークリー、宮沢賢治、萩原朔太郎、トマス・モア、アリスター・クラウリ、ヴェルヌらを介して語られる、まさにルナティックな世界。解説:岡和田晃》
宗左近『芸術家まんだら―世阿弥から野坂昭如まで』読売選書・1975年
《表徴としての作家論
日本の芸術世界の代表的人物を取り上げ、歴史と状況のなかに屹立する創造の本質を“独自なしるし”(表徴)として追究した著者はじめての作家論集! 詩人の自在な批評眼は、芸術家に通底する感受性と精神の日本的母岩の底を照射して、現代の衰弱を祝祭に変えるエネルギー運動を生け捕りにする――。》
赤川次郎『夢から醒めた夢』角川文庫・1988年
《ピコタンはちょっと変わった女の子なのかもしれない。なぜかといえば、冒険をしたいと、いつも夢みているから。
ある日、遊園地のお化け屋敷に迷い込み、同い年ぐらいの女の子の幽霊に自分と入れかわりになってくれと頼まれて、あの世へ――。
この世とあの世、生と死の世界の垣根を跳びこえて、両方を見渡したとき、ピコタンが初めて知った愛、友情。ピコタンは、この世にまた戻ることができるのかな。冒険してみなきゃわからないことがあるんだ。冒険するっておもしろい、生きるってすばらしい!
いつまでも優しい気持ちを失わない、大人も子供も、いっしょに笑い涙する最高のファンタジー。》
田辺聖子『ほとけの心は妻ごころ』角川文庫・1980年
《――夫の威張り方は赤ちゃんの甘え泣きと同じ。(「ほとけの心は妻ごころ」
――夫は冷徹犀利な頭脳を備えているわりに、ハートは未開野蛮、蒙昧。(「気になる男」)
――ふしぎや、夫は家の中で、スラスラ、シャーシャーしゃべるが、外ではおとなしいらしい。(「オシドリ」)
結婚して約十年、恋にキャリア十分のおとなの女が捉えた夫の実体とは?
十組の中年夫婦の日常をリアルにコミカルに描くユーモア短編集。》
収録作品=ほとけの心は妻ごころ/もう長うない/かんこま/美男と野獣/オシドリ/気になる男/復古調亭主/坂の家の奥さん/まぶたの姑/クワタサンとマリ
滝口康彦『悪名の旗』中公文庫・1987年
《天下を取るのは徳川家康か、石田三成か――これを機に、悪名を負いながら名門大友家再興を狙う田原紹忍とそれに対抗する黒田如水、去就に迷う諸武将。激烈な〈西の関ケ原〉石垣原合戦に集中した諸武将の野望と志、打算と節義など、戦う人間図絵を描く。》
阿刀田高『コーヒー・ブレイク11夜』文春文庫・1984年
《ふと手にした百円玉、これは裏だったか表だったか。そんな小さな偶然が、あなたの人生すら変えることがある。飲んだコーヒーの味は? 眠気も吹きとばす鋭い短篇の味。
ふと手にした百円玉。はて、表だったか裏だったか?そんな小さな偶然が、あなたの人生すら変えることもあるのです。短篇の名手がつづった苦いコーヒーの味11杯(新保博久)》
収録作品=あなたに捧げるブルース/冥い道/グッド・タイミング/おしゃべりな脳味噌/壁からの声/お望み通りの死体/骨の樹/だれかが夢を覗いている/不完全な男/電話で自殺を/影絵
森奈津子『西城秀樹のおかげです』ハヤカワ文庫・2004年
《「ありがとう、秀樹! わたくしとお姉様は、あなたのことを決して忘れませんわ」――謎のウイルスにより人類が死滅した世界で、ひとりの百合少女の野望を謳いあげる表題作、前代未聞のファーストコンタクト「地球娘による地球外クッキング」、1979年を舞台にした不条理青春グラフィティ「エロチカ79」ほか、悩める人類に大いなる福音を授ける、愛と笑いとエロスの全8篇。日本SF大賞ノミネートの代表作、待望の文庫化》
収録作品=西城秀樹のおかげです/哀愁の女主人、情熱の女奴隷/天国発ゴミ箱行き/悶絶!バナナワニ園!/地球娘による地球外クッキング/タタミ・マットとゲイシャ・ガール/テーブル物語/エロチカ79
森奈津子『耽美なわしら1』ハヤカワ文庫・2009年
《超兄貴サイズの体格に白薔薇のごとき心をもつ大学生作家・矢野俊彦は、同性の百合小説作家・千里を「世界一美しい人」と崇拝していた。しかしある日、千里の作品に感動した漫画家の彩子が、彼を女性と思い込み、同性愛のターゲットにしてしまう。横暴で好戦的な美女・彩子に、クールな毒舌漫画家・志木、さらには小悪魔的な美少女・美穂に翻弄されながら、俊彦は愛する千里を守れるのか? 伝説の恋愛コメディ、ついに復活。》
森奈津子『耽美なわしら2』ハヤカワ文庫・2009年
《愛原ちさとこと千里の書く少女小説を愛しながら、本人が能天気な男であることを許せず、危険な妄想を膨らませていく彩子。いっぽう千里は、ある誤解から志木の恋人であると宣言してしまう。「世界一美しい人」に迫る危機と、さらに巨大化する自らの超兄貴体形に焦る俊彦は、あろうことか当の千里に火傷を負わせてしまう。失意のどん底に叩き落とされた俊彦は千里との別れを決意するのだが……。伝説の恋愛コメディ第2巻。》
ガードナー・ドゾア『異星の人』サンリオSF文庫・1981年
《絶滅寸前だった地球も異星人に救われ、ふたたび植民地政策をふりかざして宇宙に進出していった。ファーバーもそんな一人だった。ライル星に着陸した彼は、貿易本部で自分の幻想や心象をレーザー・フィルムに転写する装置を使って地球人の記録をとる仕事についていた。自信満々だった若者は、今では意気消沈している一人の男に変わっていた。そんな彼に生きる喜びを味あわせてくれたのは、冬至の祭りで会ったシアン人の娘リラウンだった。激しい愛の一夜から同棲へ。やがて結婚へ。だが、子供の生めないもの同士の結婚はシアン人たちの反対を受ける。シアン人は非常に高度な遺伝工学技術をもっており、注文に応じて奇妙な生物を製造しては、宇宙ヘ輸出していた。やがてファーバーも細胞核を変えられリラウンと結婚するが、そこには悲劇的な遺伝工学上の罠が仕掛けられていたのである。鋭敏な感受性、見事なアイロニーが冴える異才ドゾアの本邦初紹介!!》
岸田理生『水妖記』角川ホラー文庫・1993年
《吸血の歓びを体に刻んだ女。魔縄で女を犬にかえる男。石棒に犯され孕む女。淫らな血の匂いが、男と女を官能の地獄絵図へと誘い込んでゆく。演劇界の異才、岸田理生が倒錯と恐怖の中で暴かれてゆく人間の本性を描いた、蠱毒したたる作品集。》
収録作品=水妖記/魔縄記/吸血伝説/湯の谷の鬼/鬼子血飲児数え唄/姫香が匂う/一年後の殺人/ガジュマル揺れて/淫戯の刻
半村良『ガイア伝説』集英社文庫・2001年
《ガイアとは、地球生命圏全体を支配するものの象徴である。人間が急激に発展させた電磁波の利用により、動植物は本来の能力に重大な障害を起こし始めていた。一刻も早く問題を解決しなければならない。ガイアに選ばれし人間は、「感応」のみで意志を通じあうようになる。草木はいずれも「感応」だけで進化してきたのだ。新生命体は果たして実現できるのか…。著者の新境地が展開される異色作。》
荒俣宏選『異彩天才伝―東西奇人尽し』福武文庫・1991年
《博覧強記の奇才・荒俣宏が、自身の持つ評伝コレクションの中から選び出す、奇人たちを描いた綺譚、逸話の数々。南方熊楠、宮武外骨、大谷光瑞、左卜全、三田平凡寺、リチャード・ナッシュ…。規範や体制にとらわれることなく自由に時代を闊歩した面々の生きざまを紹介し、現代に繋がるその精神性を垣間見る、稀代の畸人・奇人・伝奇集。》
収録作品=紀田順一郎「日本近代の畸人像」/種村季弘「奇行奇人綺譚」/市場泰男「異端科学奇士銘々伝」/稲垣史生「偽系図作り 沢田源内」/小中陽太郎「深井志道軒 僧身の色ごと講釈師」/梅原正紀「伊藤晴雨 非体制の責め絵師」/木本至「南方熊楠の筆禍裁判」/中山太郎「学会偉人南方熊楠(抄)」/森永博志「西域への欲望」(「ブルータス」/伊東照屯・富士村寿「科学と光瑞」/祖田浩一「徒歩でアラスカ横断を試みた日本のロビンソン・クルーソー」/大宅壮一「久原房之助論」/色川武大「本物の奇人 左ト全のこと」/夏目房之介「祖父のことなど」/雨田光平「明鏡止水」/深沢七郎「人間滅亡教教祖の年頭のあいさつ」/澁澤龍彦「女装した外交官」/川本三郎「国を支配するのは大統領や国王でなく、貞節のボタンだ」/荒俣宏「地球を割ろうとした男 ニコラ・テスラ」/小林章夫「バースをつくった男ナッシュ」/中島らも「ご臨終のへらずロ」
橋本健二『階級都市―格差が街を侵食する』ちくま新書・2011年
《「格差」が問題視されるようになって、はや数年。ついに格差は、風景にまで現出してきた。小さな木造家屋が建ち並ぶ下町に、富裕層向けマンションが建設され、昔ながらの街の景観は破壊される。同時に、地域間の格差は拡大し、富めるものは富める地へ、貧しいものは貧しい地へと、振り分けられる。そして、「山の手」「下町」といった歴史的な境界線は、都市をより深く分断する。まさに「階級都市」の出現である。本書では、理論、歴史、統計、フィールドワークなど様々な視点から「階級都市」の現実に迫る。》
東浩紀編『日本2.0―思想地図β vol.3』ゲンロン・2012年
《新しい国づくりは新しい思想を必要とする。それを日本2.0と名づけよう。
憲法改正からクールジャパン、新国土計画から文学再定義まで、新世代の執筆陣が投げかける日本再生に向けた大胆な提言/実践集。
これが僕たちが本当に見たかった日本だ。》
石川真澄・山口二郎『戦後政治史 第三版』岩波新書・2010年
《自民党から民主党へ―二〇〇九年九月、戦後政治史上初の本格的な政権交代が実現、大胆な政策転換への国民の期待が高まったものの、沖縄・普天間基地、政治資金、消費税などで迷走が続いている。今こそ、歴史に道標が求められる時であろう。衆参両院の全選挙結果も収めた定評ある通史に「新版」後六年の激動を増補した最新版。》
橋爪大三郎・大澤真幸『げんきな日本論』講談社現代新書・2016年
《本書は、日本の歴史をテーマにする。
でも、ふつうの歴史の本とは、まるで違う。
歴史上の出来事の本質を、社会学の方法で、日本のいまと関連させる仕方で掘り下げるからだ。本書を読み進むにつれて、読者のみなさんは、まったく見違えるような新鮮な世界が、目の前に開けて行くのを感じられるだろう。
それは、著者の二人にとっても同様である。橋爪大三郎がまず、18の疑問を用意した。そして、好敵手・大澤真幸と論じあった。二人にとってこの対談は、わくわくする刺戟的な体験だった。誰も(たぶん)考えたことのないようなことを、たくさん語ることができたからである。
そう、本書は、日本列島で起こったあれこれの出来事が、人類史のなかでどういう意味をもつのか、普遍的な(=世界の人びとに伝わる)言葉で、語ろうと する試みである。――「まえがき」より》
遠山美都男『壬申の乱―天皇誕生の神話と史実』中公新書・1996年
《六七一年十月、天智天皇の弟大海人皇子(天武天皇)は王位継承を断わり吉野に隠棲。翌月、天智の子大友皇子は大海人を討つべく五人の重臣と盟約を結んだ。天智後継の座をめぐる壬申の乱の発端である。天智は大友かわいさで大海人を疎外したのか。大友は絶えず後手にまわり敗れ去ったのか。王位継承をめぐる対立はなぜ大規模な戦争に発展したのか。通説を再検討し、古代最大といわれる攻防のドラマを再現、その歴史的意義に迫る。》
井上章一『阪神タイガースの正体』ちくま文庫・2008年
《勝っても負けても甲子園を取り巻く空気は熱い。なにが阪神ファンをおどらせているのか。阪神への幻想はいつどのようにしてつくられてきたのか。気鋭の批評家であり熱烈な阪神ファンでもある著者が、その正体を歴史的につきとめようとし、独自の視点から浮かびあがらせた愛すべき関西球団の知られざる真実と伝説。知的興奮にみちた野球文化史の好著、待望の文庫版! 解説 松村邦洋》
阿川弘之『カレーライスの唄(上)』講談社文庫・1982年
《のんき者で少しオッチョコチョイ、何より食べもの好きの熱血漢、桜田六助。脱サラといえば聞えはいいが、会社の倒産で浪人の身となって「一国一城の主」をめざす。協力者として名乗りをあげたのは、イキのいい娘千鶴子。二人の青春と恋がいま始動する。ちょっと辛口、笑いと涙の味もたっぶりきかせた長編小説。》
阿川弘之『カレーライスの唄(下)』講談社文庫・1982年
《資金はちゃっかり株のもうけで……六助と千鶴子のもくろみは図に当って、待望のカレーライス屋めでたく開店。築いたばかりの「城」を軌道にのせるまではと、恋はひとまずおあずけにしたはずだったが、カレーが煮えるように二人の仲も熟してきた。あと味さわやか、笑いとペーソスのスパイスもきいた長編青春小説。》
眉村卓『ポケットのABC』角川文庫・1982年
《「何だ、あれ」
ぼくは身体を乗り出して、新幹線の車窓のかなたをみつめた。集落の、とある家に、洗濯されて干してあるシャツの一枚ごとに、背番号のように文字が書かれていたのだ。読むと、……タスケテクレ……となる。が、ぎくりとした瞬間、文字は消えてしまった。さてその結末は……。
「タスケテクレ」より
奇妙な話、耳よりな話、恐ろしい話愉快な話、ふざけた話、迷走する話etc……。眉村卓の、SFショート・ショート満載。「ポケットのXYZ」の姉妹編。》
収録作品=ひとり遊び/お相手/AとBとCの話/どこかで聞いたような話/終電車/ロボットのたたかい/見えないたたかい/最高刑/深夜のできごと/復元映画/色即是空/テリカさん/進路指導/マイ・タイムマシン① 試用/マイ・タイムマシン② 講義(一)/マイ・タイムマシン③ 拾い物/マイ・タイムマシン④ 講義(二)/隣りの紳士/賭けの天才/彼女の手紙/速読術/タスケテクレ/ある日記/観察対象/最終テスト/実験開始/大秀才/スーパー・スター/イガロス・モンゴルベエ・ヤイト/Vさんのファンと/テスト機/特技/講義の相手/ノートの男/事情があります/友人を作る会/対面/アルバイト その1/アルバイト その2/アルバイト その3/アルバイト その4
眉村卓『ポケットのXYZ』角川文庫・1982年
《仕事を済ませ、オフィスを出ようとしたときにあらわれたひとりの男。 そいつは以前、私の部下として入ってきた新入社員で、仕事で自信喪失したあげく、自殺してしまったはずの男なのだ。
「幽霊!」
そいつは、ぼくを見つめていたが、やがてかぼそい声を出した……。
「あわれっぽい話」より
珍妙な話、不可思議な話、楽しい話、極端な話……眉村卓の、SFショート・ショート満載。「ポケットのABC」の姉妹編。》
収録作品=あわれっぽい話/類型的な話/アホらしい話/ひまつぶしの話/災難 A/災難 B/災難 C/災難 D/番号札/番号時代/番号と名前/番号魔にして数字占い/どこかにありそうな話/ミスター哲学者/電話の反応/今週の賞/走る (1)/走る (2)/走る (3)/走る (4)/新年宴会/酒癖/立食パーティ/ローパーよりの報告/逃げる話/かなえてあげよう/そいつ/追跡と逃走/人生設計/運命のいたずら/仕事場にて/ピッカピカ その(一)/ピッカピカ その(二)/ピッカピカ その(三)/ピッカピカ その(四)/ピッカピカ その(五)/るんるんの(A)/るんるんの(B)/るんるんの(C)/るんるんの(D)/踊るユウレイ/踊る探検隊
眉村卓『おしゃべり迷路』角川文庫・1981年
《さぁさぁ今から始まりまするのは、愉快・痛快・奇々怪々。変で不思議でケッタイな話。
イジキタナク食べる話
ウサンクサイとはどういう意味?
ロマンチックな徹夜のお話
ひとつの話が始まれば、あっちへ翔んだり、こっちへ跳ねたり、どこで終わるか予想もできない……。どう転んでも、貴重で乏しいあなたの読書時間を楽しませずにはおかない!
さあ、あなたもクマゴローこと眉村卓の、真面目で不真面目な、そして知的センス溢れるおしゃべりに耳を傾けてみましょう。》
源氏鶏太『花のサラリーマン』角川文庫・1968年
《重役令嬢をねらう、出世を賭けた婚約争い、上役・同僚との軋轢、地方転任の不安、定年の悲しみ……。一見平板なサラリーマン生活にもドラマは多い。自ら永い勤め人生活を体験した著者は、それらドラマの秘める人々の哀歓を6篇の小説に綴った。“花のサラリーマン”とは、著者の深い愛憐と共感をこめた哀しいアイロニイである。》
収録作品=花のサラリーマン/天地神明/鬼課長/流水/帽子/無給嘱託室解散
源氏鶏太『大安吉日』角川文庫・1973年
《インチキ雑誌社の青年社長恩地雄平は、悪に徹しきれぬ根は純情な男である。こうした男の悲しみと喜びが、ユーモラスな筆運びで、巧みに描かれている。この作品でくりひろげられたとりどりの人生模様は、そのまま社会の縮図であり、風刺の利いた味わいとなっている。「三等重役」以来の作者の成長を示した作品。》
源氏鶏太『夏の終りの海』角川文庫・1979年
《「やっぱり別れよう」 その言葉を聞いて女の態度が豹変した。それまで目に涙を浮かべて懇願していた女が、突如、笑い出したのである。噂は本当だった。上役の隠し女とも知らず、一時は彼女との結婚を真剣に考えていただけに、会津康平は、開き直った女の姿に呆然とするばかりであった。
行きつけのバーで傷心を癒やしていた康平は、そこで一人の美しいOL、堂本左樹子と知り合った。彼女の親友を失恋自殺に追い込んだ憎い男が康平の会社に居るというのだ。康平の同僚で重役の娘と結婚した内田だった。だが、その意外な事実よりも、彼女の知的な美貌に康平は魅せられていた……。
企業乗っ取りの陰謀の渦中で芽生えた若い男女の恋を描くラブサスペンス。》
牧野修『リアード武侠傳奇・伝―グイン・サーガ外伝24』ハヤカワ文庫・2012年
《村中の人間が集まると、アルフェットゥ語りの始まりだ! 豹頭の仮面をつけたグインがゆっくりと登場する。そこはノスフェラス。セム族に伝わるリアードの伝説を演じるのは、小さな旅の一座。古くからセムに起こった出来事を語り演じるのが生業だ。しかしその日、舞台が終わると役者の一人が不吉な予感を口にして身を震わせた。それは、この世界に存在しないはずの、とある禁忌をめぐる数奇な冒険の旅への幕開けだった。》
円城寺忍『黄金の盾―グイン・サーガ外伝26』ハヤカワ文庫・2014年
《ケイロニア王グインの愛妾ヴァルーサ。おそるべき魔道師たちがケイロニアの都サイロンを恐怖に陥れた『七人の魔道師』事件の際、彼女はグインと出会った。王と行動をともにした〈まじない小路〉の踊り子が、のちに豹頭王の子を身ごもるに至る、その数奇なる生い立ち、そして波瀾に満ちた運命とは? 「グイン・サーガ トリビュート・コンテスト」出身の新鋭が、グイン・サーガへの想いを熱く描きあげた、奇跡なす物語》
栗本薫『ムーン・リヴァー』角川文庫・2017年
《東京。スターを夢見、全てを失ったこの街で、年を経てもなお美しい男、森田透はたゆたうように生きている。愛憎を越え結ばれたトップスターの今西良は、罪を償うために塀の中だ。彼を想いつつも、長年の理解者でパトロンの島津正彦とともに暮らす。作家として名を馳せる彼との関係は、「愛」ではなく「情」の筈だった。しかし島津がガンに侵され、愛欲の日々が始まって……。時代を切り拓いた天才作家の、遺作にして衝撃の傑作。》
一之瀬六樹『男子高校生のハレルヤ!』GA文庫・2012年
《「そう、そこがポイントよ。あなた方は美少女であり男子でもある!」「理事長、日本語がおかしいです!」壮大な勘違いから、男であるにもかかわらず女子校に通うことになってしまった僕――山田真理(15)♂。しかもそんな間違いは僕だけかと思いきや、剣道バカの祐紀、男性恐怖症の桜という二人の男子もなぜか一緒に女子高生として通学中!? そこへ前代未聞の極秘任務が発令。「男女共学化の為、美少女にもてあそばれてきなさい」――って、どゆこと!?
それに、桜……君は僕と同じ男子を名乗ってるけど、本当は――!?
淑女の園で男子三匹が大暴走。GA文庫大賞受賞のノンストップ女子校潜入コメディ、スタート!》
藤原健市『彼女も僕もコスを愛しすぎてこまる』ファミ通文庫・2011年
《ごく普通の高校生、平良の密かな生きがいはコスプレ衣装作り。制作に没頭しすぎては幼なじみの日和に叱られていた。そんなある日、平良は街中で格闘ゲームキャラのコスチュームで超絶バトルを繰り広げる少女たちを目撃する。彼女たちは衣装に潜在する力を引き出す“衣使い”の一族。怯えて逃げ出した平良の前に、異能の少女たちは再び現れる――。彼の作る優れた衣装を手に入れるために!! 超常レイヤーな彼女たちとヘタレ手芸男子(?)のバトル×ラブコメ!!》
大樹連司『お嬢様のメイドくん』一迅社文庫・2011年
《主人である咲夜お嬢様の命令で、全寮制の名門女子校・鳳翔女学院に通うことになった従者の少年・雪風。女子寮・咲夜荘で女装した彼を待っていたのは、強烈な個性の生徒会メンバーだった! メイド服を身にまとった雪風の、波乱の学園生活の幕が開ける!!
時代のナナメ上を行くオトコの娘ラブコメ誕生!!》
筒井康隆『馬は土曜に蒼ざめる』集英社文庫・1978年
《眼が醒めたら、とにかく馬になっていた。まぐさが、こんなにうまいものとは知らなかった。交通事故のため、おれの五体はぐじゃぐじゃ、脳はサラ四歳馬ダイマンガンに移植されていたのだ。大穴ねらいにダービー出場を決めたが、まだ馬の肉体に馴れていなかった。ああ、その上美女・虹子のヌードが目の前に。おれは不覚にも興奮、発情してしまい……。表題作ほか七篇を収録。 解説・小林信彦》
収録作品=横車の大八/息子は神様/空想の起源と進化/混同夢/逃げろや逃げろ/人類の大不調和/肥満考/馬は土曜に蒼ざめる
筒井康隆『バブリング創世記』徳間文庫・1982年
《ジャズ・スキャットで使われるバブリングを駆使し、奇想天外なパロディ聖書として読書界を驚倒させた表題作のほか、高学歴社会の中でゆがめられた目本の状況をアイロニイたっぷりに描いた『廃塾令』、今様観光ブームに食傷し、山奥の駅に降りたった男がふとしたことで雇うはめになったガイドが織りなす観光地パロディ『案内人』など9篇を収め、鬼才筒井康隆の円熟の境地を示す作品集。解説井上ひさし。》
収録作品=バブリング創世記/死にかた/発明後のパターン/案内人/裏小倉/鍵/廃塾令/ヒノマル酒場/三人娘
ヘミングウェイ『武器よさらば』新潮文庫・1955年
《第一次大戦にイタリア軍士官として参戦したアメリカの青年フレデリックは、絶望的な戦場で戦ううちに、婚約者を失った看護婦キャザリンを知る。戯れに始まった恋は、彼が負傷して病院で再会したことから発展し、悪化する戦況の中で激しく燃えあがるが、キャザリンは脱出したスイスで死んでしまう……極限状況における純愛と結末のむなしさによって読後に悲劇の長い余韻を残す傑作。》
エリック・マコーマック『隠し部屋を査察して』創元推理文庫・2006年
《7月7日、日曜日の朝。カナダのある町に突然、幅100メートル、深さ30メートルの溝が出現、時速1600キロで西に向かいだした。触れるものすべてを消滅させながら……。世界じゅうを混乱に陥れる怪現象を淡々と描く「刈り跡」、不可解な死の真相を迷宮に追う警部「窓辺のエックハート」、全体主義国家のもと、想像力の罪を犯し幽閉された人々をめぐる表題作など、奇想きらめく20の物語を収録。 解説=柴田元幸》
収録作品=隠し部屋を査察して/断片/パタゴニアの悲しい物語/窓辺のエックハート/一本脚の男たち/海を渡ったノックス/エドワードとジョージナ/ジョー船長/刈り跡/祭り/老人に安住の地はない/庭園列車 第一部:イレネウス・フラッド/庭園列車 第二部:機械/趣味/トロツキーの一枚の写真/ルサウォートの瞑想/ともあれこの世の片隅で/町の長い一日/双子/フーガ
P・D・ジェイムズ『死の味(上)』ハヤカワ文庫・1996年(英国推理作家協会賞)
《教会の聖具室で血溜まりの中に横たわる二つの死体は、喉を切り裂かれた浮浪者ハリーと元国務大臣のポール・ベロウン卿だった。二人の取り合わせも奇妙だが、死の直前の卿の行動も不可解だった。突然の辞表提出、教会に宿を求めたこと……卿は一体何を考えていたのか? 彼の生前の行動を探るため、ダルグリッシュ警視長は名門ベロウン家に足を踏み入れる。重厚な筆致で人間心理を巧みに描く、英国推理作家協会賞受賞作。》
P・D・ジェイムズ『死の味(下)』ハヤカワ文庫・1996年(英国推理作家協会賞)
《不可解なのはポール卿の行動だけではなかった。前妻の事故死、母親を世話していた看護婦の自殺、家政婦の溺死……彼の周辺では過去に謎の怪死事件が続いていた。ふたたび捜査線上に浮かびあがってきたこれらの事件に、今回の事件を解決する鍵があるのか? それぞれに何かいわくありげなベロウン家の人々の複雑な人間関係から、ダルグリッシュ警視長が導きだした推理とは? 緻密な構成が冴える、英国本格派渾身の力作。》
伊藤浩子『数千の暁と数万の宵闇と』思潮社・2020年
《未生の生へ
少年は樹上から降り、もう半刻もすれば遅れながらもたどり着くだろう、妹の前に伸びたこの道の粗雑さと、丸く白いやわらかな右手を思った。
(「(無題一)」)
昏い記憶をつたって異質なものが語りはじめる。丹念な書記が映す、無言の深みに孕まれた予感、詩28篇。『未知への逸脱のために』(鮎川信夫賞)、『たましずめ/夕波』に続く、待望の新詩集。装幀=中島浩》
チャールズ・サイフェ『異端の数ゼロ―数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念』ハヤカワ文庫・2009年
《この数字がすべてを狂わせる――。バビロニアに生まれ、以来、無を拒絶するアリストテレス哲学を転覆させ、神の存在を脅かすが故にキリスト教会を震撼させ、今日なおコンピュータ・システムに潜む時限爆弾として技術者をおののかせるゼロ。この数字がもたらす無と無限は、いかに人類の営みを揺さぶり続け、文明を琢磨したのか? 数学・物理学・天文学から宗教・哲学までを駆け巡る、一気読み必至の極上ポピュラー・サイエンス》
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