7月は後半全く何も読めなくなった。異様な長梅雨がこたえたのか。筒井康隆、バラードなど再読ものが多い。
装幀としては辰巳四郎が手がけた2点、高橋克彦『写楽殺人事件』、筒井康隆『男たちのかいた絵』と、西八郎による『心狸学・社怪学』などが記憶に焼きついている。
筒井康隆『心狸学・社怪学』講談社文庫・1975年
《世にいわれる心理学・社会学。これ実は間違い。理は狸、会は怪が正しい。時代の最尖端をいく貴講師=筒井康隆が、懇切丁寧に講ずる本巻を熟読含味すれば、世のこと、人のこと全てに通暁すること確かです。複雑怪奇な現代を生き技くためには、最小限この心狸学篇7講、社怪学篇7講が、必要なのです。》
収録作品=条件反射/ナルシシズム/フラストレーション/優越感/サディズム/エディプス・コンプレックス/催眠暗示/ゲゼルシャフト/ゲマインシャフト/原始共産制/議会制民主主義/マス・コミュニケーション/近代都市/未来都市
筒井康隆『男たちのかいた絵』新潮文庫・1978年
《おくびょうで意気地なしでも、拳銃片手に怖いものなし――チンピラやくざの、カッコいい兄貴分へのあこがれが、屈折した心情に映し出される時、オナニズム、同性愛、エディプス・コンプレックス、多重人格などの持主を主人公にした、筒井康隆の強烈な世界が展開される。『夜も昼も』『星屑』『二人でお茶を』など、ジャズのスタンダード・ナンバーにのせておくる奇妙な味の連作小説集。》
収録作品=夜も昼も/恋とは何でしょう/星屑/噓は罪/アイス・クリーム/あなたと夜と音楽と/二人でお茶を/素敵なあなた
筒井康隆『おれに関する噂』新潮文庫・1978年
《テレビのニュース・アナが、だしぬけにおれのことを喋りはじめた――「森下ツトムさんは今日、タイピストをお茶に誘いましたが、ことわられてしまいました」。続いて、新聞が、週刊誌が、おれの噂を書きたてる。なぜ、平凡なサラリーマンであるおれのことを、マスコミはさわぎたてるのか? 黒い笑いと恐怖にみちた表題作、ほか『怪奇たたみ男』など、あなたを狂気の世界に誘う11編。》
収録作品=蝶/おれに関する噂/養豚の実際/熊の木本線/怪奇たたみ男/だばだば杉/幸福の限界/YAH!/講演旅行/通いの軍隊/心臓に悪い
藤本義一『サイカクがやって来た』新潮文庫・1982年
《人間終生の大テーマ・「色」と「欲」を、その道の大先達井原西鶴の精神で現代にサイカク認する名エッセイ。金が万事の世の中に、「わる金」をつかむを戒め、ケチをすすめ、ついでに奉公人心得をひとくさり。色恋の沙汰を論じては、古の遊里に学びつつ現代トルコ道を指南し、女房談義に後家談義、果てはゲイ術論まで。大阪人の遊びのこころをふんだんに盛り込み、軽妙洒脱に語る98編。》
和久峻三『自白(上)』角川文庫・1984年
《法廷に被告として立だされた大学生花谷徹三の容疑は、同級生で病院長め娘、出雲路晶子を友人と共謀し営利目的で誘拐したことだった。
花谷は警察の取調べでは晶子を殺害したあと丹後半島の海へ死体を投げ捨てたと自白。だが、法廷では一転して無罪を主張した。自白の裏づけとなる客観的証拠もなく、法廷では激しい論戦が演じられた……。
事件を裁く裁判官の心の動きを描く長編法廷ミステリー。》
和久峻三『自白(下)』角川文庫・1984年
《法廷では容疑者の大学生・花谷の営利を目的とした誘拐殺人の自白をめぐり激しい論戦が演じられた。
――女子大生を殺した、という花谷の自白を裏づける証拠もなく死体も発見されず、ついに無罪の判決が下された。
だが、事件の背後に意外な真相が隠され、サスペンスに満ちた新たなストーリーが進行していた。
現役の弁護士である作者が、判決を下すまでの裁判官の心の動きを、死体なき誘拐殺人事件を通して克明に描いた法廷ミステリーの決定版。》
遠藤周作『ぐうたら愛情学―狐狸庵閑話』講談社文庫・1976年
《象牙の塔的二枚目文化も、道化役的三枚目文化も、現実をふまえた二枚目半文化の前には影が薄れる。真の男女同権というものは男女分権であり、嫁イジメ、姑のイジワルこそ女性を女性本来の姿に戻すものだ。雌鶏に刻を告げさせ亭主は眠っていることに亭主の幸せはある等。憎まれ口の仮面の裏に、女性へのやさしさを隠した痛快無比な愛情論。》
島田荘司『斜め屋敷の犯罪』講談社ノベルス・1982年
《北海道のさいはて、オホーツク海を見降ろす崖の上に、斜めに傾けて建てられた奇妙な西洋館があった。クリスマスの夜、この「流氷館」の主・浜本幸三郎は、客を招待してパーティーを開く。そこで起きた血の惨劇! しかも事件は雪に閉ざされた聖夜だけにとどまらなかった……。恐怖の連続密室殺人事件を描く長編推理の傑作。》
島田荘司『奇想、天を動かす』カッパ・ノベルス・1989年
《平成元年四月三日、浅草の商店街で殺人事件発生。浮浪者風の老人が四百円の菓子を買い、消費税十二円を請求されたのに腹を立て、店の主婦をナイフで刺したのだ。
警視庁捜査一課吉敷竹史には、腑に落ちないものがあった。あんな柔和な顔の老人が、何故、人を刺したのか。しかも、氏名すら名乗らず完全黙秘を続けている。この裏には何か、筆舌に尽くせぬほどの大きな闇がある!? 吉敷の懸命な捜査と推理の冴えで、過去数十年に及ぶ巨大な犯罪に構図が浮かび上がる! 度胆を抜く壮大なトリック! 社会の暗部を衝く予想外の謎! 推理界の鬼才が本格推理と社会派推理とを見事に融合した、吉敷竹史シリーズの金字塔! 渾身の書下ろし本格推理の傑作!》
広瀬仁紀『飛竜の如く―小説・五島慶太』カッパ・ノベルス・1985年
《明治三十四年、十九歳の小林慶太(のちの五島慶太)は大望を抱いて上京した。すぐに生活に窮したが、のちに首相となる加藤高明らの尽力もあって、苦学の末、東京帝国大学法科を卒業。農商務省の官吏となった。その後、鉄道院から武蔵野電鉄の常務に就任、事業家への足がかりをつかんだ。そして、目をつけた企業は必ずものにするという持ち前の強引さでのし上がっていった慶太は、事業の関連性を重視し、デパート、ホテル、観光と次々に事業を伸ばしていったが……西武コンツェルンの総帥・堤康次郎との鎬を削る企業戦争が! “強盗慶太”と仇名され、東急コンツェルンを一代で築き上げた五島慶大の生き様を鮮烈に描いた書下ろし長編企業小説秀作!》
《東急コンツェルンを創業した五島慶太は、その生涯を傲然と生きた。結果とし、彼は広く誤解された。
“強盗慶太”――そう仇名された。
「会社が破産するよりは、合併で生き残ったほうが、社員も幸せというものだ」――慶太は左右に言った。それがさらに、誤解を生じた。
そういう男の一生を、作者は描きたくてたまらなかった。迷夢を改めたいとも、思い続けてきた。
もっとも、彼は言うに違いない。
――くだらん心配はするな。強盗慶太と呼ばれても、何も困りはせん。
「著者のことば」》
司馬遼太郎『ある運命について』中公文庫・1987年
《人間を愛し、その足跡に限りなき愛惜の情を注ぐ作者が、広瀬武夫の文学的資質、長沖一の軍隊小説を歴史の土中から掘り起し、さらに同時代のひとびと、身辺風土を語る。歴史と現代に生きる人物と運命の濃密に洞察する司馬文学の精髄。》
松田修『日本逃亡幻譚―補陀落世界への旅』朝日新聞社・1978年
《往古、遙か南方洋上の観音浄土・補陀落山をめざして、幾人かの修行僧が船出した。狂信的にも見える営為の意識下を探ると、海の彼方、異次元の世界を憧憬しつづけた日本人の、魂の系譜が浮上する。国文学界の鬼才が新分野からアプローチした日本人・日本文化論。》
中薗英助『櫻の橋―詩僧蘇曼殊と辛亥革命』河出文庫・1984年
《孫文に代表される中国の辛亥革命こそはアジアで初めての民主革命だった。日中混血の学生蘇曼殊は運動に没頭して行くが……政治と文学のはざ間を彷徨し、僅か34歳で病死した“東洋のランボオ”の波瀾万丈の生涯は、あまりの詩人性の故に革命の精神の文学的象徴となった――
陳舜臣氏=蘇曼殊を理解することは、ますます重要となってくる。『櫻の橋』が多くの人に読まれることを願ってやまない。》
石光真清『誰のために―石光真清の手記』中公文庫・1979年
《錦州に開業した商品陳列館で安定したのも束の間、またもや密命を承けて、ロシア革命に揺れるアムールに飛ぶ。しかしシベリア出兵の狂乱は万事を押し流してしまう。明治人の波乱の生涯を記し、明治から昭和へかけての日本の側面史をなす手記四部作・完結篇。》
J・G・バラード『クラッシュ』ペヨトル工房・1992年
《衝突事故の魅力に憑かれ、自らの死をデザインする男。
エレガントな死のゲーム。
テクノロジーと想像力の華麗なる共犯関係。》
スティーヴン・バクスター『マンモス―反逆のシルヴァーヘア』早川書房・2001年
《雪と氷に閉ざされた厳寒のツンドラ地帯の孤島で、地上最大の哺乳類であるマンモスの一族が人知れず生きていた。その一族の若き雌マンモス、シルヴァーヘアがたどる波瀾万丈の冒険を描く話題作。》(「BOOK」データベースより)
山崎洋子『花園の迷宮』講談社・1986年(江戸川乱歩賞)
《昭和七年、横浜真金町遊廓で起きた連続殺人事件。ひたすら前だけを見つめている少女探偵ふみの活躍! 第32回江戸川乱歩賞受賞作。》
高橋克彦『写楽殺人事件』講談社・1983年(江戸川乱歩賞)
《謎の絵師といわれた東洲斎写楽は、一体何者だったか。後世の美術史家はこの謎に没頭する。大学助手の津田も、ふとしたことからヒントを得て写楽の実体に肉迫する。そして或る結論にたどりつくのだが、現実の世界では彼の周辺に連続殺人が起きていて―。浮世絵への見識を豊富に盛りこんだ、第29回江戸川乱歩賞受賞の本格推理作。》(「BOOK」データベースより)
日下圭介『蝶たちは今…』講談社文庫・1978年(江戸川乱歩賞)
《旅先で間違えた他人のバッグから出てきた一通の手紙。それは女から男にあてたものだった。バッグを返すべく、手紙の差出人の住まいを訪ねてみると、意外にもその女性は三年前に死んでいた。しかも受取人まで故人! 死者同士で交された手紙の謎の背後にはいまわしい出来事が。巧緻で評判の第21回乱歩賞受賞作。》
司馬遼太郎『空海の風景(上)』中公文庫・1978年(芸術院恩賜賞)
《平安の巨人空海の思想と生涯、その時代風景を照射して、日本が生んだ最初の人類普遍の天才の実像に遣る。構想十余年、著者積年のテーマに挑む司馬文学の記全体的大作。五十年度芸術院恩賜賞受賞。》
司馬遼太郎『空海の風景(下)』中公文庫・19年(芸術院恩賜賞)
《大陸文明と日本文明の結びつきを達成した空海は、哲学宗教文学教育、医療施薬から土木灌漑建築まで、八面六臂の活躍を続ける。その死の秘密をもふくめて描く完結篇。五十年度芸術院恩賜賞受賞。》
大竹昭子『バリの魂、バリの夢』講談社文庫・1998年
《目も醒めるような青い水田、耳に優しいガムランの音。小さな遺跡を訪ね、ウブドのアートや市場の喧騒に酔いしれる日々。バリは、何故かくも旅人の心をからめとるのか? 暮らし、食べ物、祭り、舞踊、言葉、暦……バリ島の魅力に深くふれた名著『バリ島 不思議の王国を行く』に書き下ろしを加えた究極のバリ島読本。》
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