5月11日に都内で倒れて、その後しばらく具合が悪く、帰宅できてからもどうやって生きていたやらろくに記憶にない。その間は当然何も読めずにいた。
一昨日の晩、珍しく睡眠が数時間まとめて取れてやや復調してきた。
以下、装幀造本がことに懐かしかった物件は阿刀田高『猫の事件―36のショートショート』、眉村卓『幻の季節』の単行本版。
梅崎光生『暗い渓流』は新橋駅前の古本市で「梅崎春生」と見間違えて買ったが、その兄の方だった。
吉行淳之介『面白半分のすすめ』角川文庫・1973年
《地面を這いまわるような青春時代でも、恋愛でムゴイ目にあっても、どこか“面白半分”風の余裕をもちたい…。戦争末期から終戦後の混乱期に過した自らの青春像を鮮やかな筆で描出した「青春放浪記」。他にユーモアと哀歓にみちた「酒場一夜一夜」「男と女の間」の二篇を収録。ベストセラー『軽薄のすすめ』『不作法のすすめ』の著者が、平明にして達意の文章でおくる、滋味あふれるエッセイ集。》
吉行淳之介『樹に千びきの毛蟲』角川文庫・1977年
《風変りなタイトル、一見さりげなくむしろ明るい文章で書かれたこの本の背後に、あなたは作者のどのような顔を想像されるだろうか。
ここには、作者の過去の見聞のスケッチや、知人友人肉親の思い出、国語や読書の感想、身辺、仕事、遊びについての意見など、断章風のエッセイが多数収められている。そしてこれらの執筆の時期、作者は心身共に最悪の状態であったという。
人生の深刻な問題も、マジメ半分面白半分に、つまりハーフ・シリアスに語る。そこに、ほんものの、時として苦いユーモアが、うまれる。心弱く思い屈したようなときに読めば、この一冊はあなたを慰め、優しく力づけてくれるだろう。》
吉行淳之介『不作法対談』角川文庫・1973年
《文壇・各界から一流のゲストを迎え、当代きっての対談の達人がおくる、痛快、センスあふれるユーモア対談集。庖丁・女・釣・奇人・アメリカ・SF・ヘソ・舞踊・世代・セックス・好奇心…。多彩な話題のかげに、“人生”の妙味と深淵をのぞかせる、微笑爆笑の現代“聖談”。
〈対談者〉 檀一雄・藤本義一・小松左京・南雲吉和・開高健・安岡章太郎・土方巽・ミッキー安川・川上宗薫・福地泡介・水上勉・遠藤周作。》
吉行淳之介『軽薄対談』角川文庫・1973年
《一読、当意即妙機智縦横、抱腹絶倒呵々供笑。再読、微苦笑誘うユーモアの冴え。三読、男女の機微を語りつつ人生哀歓悲喜交々。――対談の名人をうたわれる“軽薄派”紳士が、当代の作家・芸術家・タレント等15人と交わす“夏の夜の聖なる話”。女と食べものをサカナに、人生練達のホスト・ゲストがくりひろげる、深遠微妙、典雅にして興味尽きない稀代の名対談集。
〈対談者〉遠藤周作 團伊玖磨 駒田信二 北原武夫 田村泰次郎 カルーセル麻紀 柳家三亀松 南喜一 小沢昭一 近藤啓太郎 藤本義一 山口瞳 加藤芳郎 丸谷才一 野坂昭如》
西園寺公望/国木田独歩編『陶庵随筆』中公文庫・1990年
《洋服での参内を論争した「大原三位と切腹を賭す」、ビスマルクとの雑談の思い出を綴った「微公の伯林会議談」など、国木田独歩が「一の立派なる文学上の産物」と激賞した表題作の他、小御所会議や戊辰戦争など幕末維新を回顧した「懐旧談」を収載。鴎外・荷風ら当代知名の文士がつどった。“雨声会”を主宰した、文人元老の珠宝の自伝エセー。》
エラスムス、トマス・モア『エラスムス=トマス・モア往復書簡』岩波文庫・2015年
《「ユマニストの王者」として君臨したエラスムス。ヘンリー八世の統治下で大逆罪に問われて刑死したトマス・モア。その固い友情が、のちに伝説化されるまでになった二人の往復書簡全50通に、16世紀ヨーロッパにおける知識人たちの知的活動、政局、文化交流の様子を読む。宗教改革の舞台裏を赤裸に語る資料としても貴重。》
吉行淳之介『にせドンファン』角川文庫・1977年
《Q大学英文科助教授花岡文雄、29歳。それが男の昼の顔である。彼には、ジキルとハイドの二つの顔がある。夜になると、そのために用意された部屋で変身し、華やかな都会の森へ密猟に出かける。OL、バーの女の子、マダム、看護婦、女子大生…と、次々に関係してゆく彼は、エリートと狼の生活を楽しんでいるかに見えた。そして一見プレイボーイの彼を最後に待っていたもの、それはまるで悪い夢でも見たような復讐だった。女と別れ、夜の街をひとり歩きながら彼はつぶやく。「おれは、一体何者なんだ」
現代人の意識の中にひそむ二重性と願望を、都会的センスとユーモアで鮮やかに描きだした快心の長編小説。》
マンデリシュターム『時のざわめき』中央公論社・1976年
《非業に死した詩人の名品
シベリアのラーゲリで「政治的な死」をとげたマンデリシュタームの、ガラス玉に映る幻のような散文世界を展開する抒情的小品4篇》
志賀かう子『祖母、わたしの明治』河出文庫・1985年(日本エッセイスト・クラブ賞)
《明治維新の激変により、生活難に陥った岩千県の貧乏士族の家に生まれながら、離婚の不幸を乗り越えて、宇都宮で初の女医となり、九十五年の生涯を全うした祖母・古賢ミヱ――七歳で母と死別し、祖母の躾を一身に受けて育った著者が、四季折々の回想を通して、波瀾にとんだ祖母の生涯とその人となり、明治の女性の誇りを、深い愛惜をこめて描く、エッセイスト・クラブ賞受賞の感動の名著。》
高橋ナツコ/原作:馬谷くらり『美男高校地球防衛部 LOVE! NOVEL!Ⅲ』ぽにきゅんBOOKS・2016年
《一緒にいる事が当たり前だったのに、何で顔を見るだけでこんなに悲しいんだろう。片翼を失った者たちは、ただ流れに身をまかせるだけの時間を過ごす。
そんなの許されるはずありません!!! ウォンバットは走る、強羅も走る。それはすべて、愛のため――》
阿刀田高『猫の事件―36のショートショート』講談社・1984年
《直木賞作家が贈るショートショート最新作! 借金だらけで首が回らない。そこで考えたのが、猫語がわかるという猫好き婆さんの猫の誘拐。だが、思わぬ事からアシが……標題作を含め36篇のショートショート》
収録作品=影酒場/触媒人間/貧乏ゆすり/天和の代償/社長室のゴルフ/マイ・バレンタイン・デー/凧/破られた約束/地震恐怖症/遠い夜/真夜中のインベーダ/不運なシャツ/ネズミ酒/一年生のために/あやしい鏡/未完成交情曲/眼美人/新築祝い/幽霊をつかまえろ/夏の夜ばなし/美しいお妃様の冒険/風邪とサラリーマン/善意/とてもいい気持ち/海の眼/目黒のサンマ/形見/家族の風景/レンズの中の男/無料コーヒー/ころし文句/蜜柑/こわい話/鬼はうち/蚕食/猫の事件
柴田錬三郎『血太郎孤独雲』講談社文庫・1990年
《将軍家献上宇治の御茶壺行列にやくざの群が斬り込んだ! 虹壺をねらい黒八、闇兵衛の伊賀者が、盗っ人が躍り、浪人者、莫連女、妖尼が躍る…。公家、茶壺、刺青、やくざを結ぶ因縁とは? “和麿さま”と瓜二つ、男っぷりの無宿者、血太郎の忍法“流れ雲”が冴える――破天荒! 妙な人物が織りなす忍法復讐譚。》
高原英理『ゴシックハート』立東舎文庫・2017年
《これから私はゴシックな意識について語ろうと思う。ゴシック建築、ゴシックロマンス、ゴシックロックから現在の「ゴス」まで、いくつかの飛躍と変質はありながらも一貫した世界を作り上げてきたのが「ゴシック」という名の感受性だ。それは主義ではない。また思想や理論として構築されているのでもない。言ってみれば好悪の体系のようなものだ。しかし自己の必然にもとづいた命懸けの好みなのだと言いたい。ロックがそうであるように、それは生き方なのだ(本文より)。文学、絵画、写真、映画、漫画、アニメなど、ジャンルを超えて語られる「ゴシック」評論のバイブル。
解説:浜崎容子(アーバンギャルド)》
吉行淳之介『猫踏んじゃった』角川文庫・1975年
《呼ばないときにはやってきて、呼んだときには知らん顔、それは猫と女だ。
白く光る真夏の坂道。三上にはその鋪装路で描を轢死させた厭な記憶がある。何年か後、彼は友人と行きつけのバーヘ行った。猫の話になると、みさ子という女の眼が暗く光った。やがて酔った女たちの合唱がはじまる。描踏んじやった、猫死んじやった。……
読後の余韻を誘う不思議な佳作の他、練達を示す冴えた筆致で贈る、ユーモアとペーソスあふれる珠玉の作品集。》
収録作品=八重歯/白痴美/ある夫婦/見え隠れ/悩ましき土地/七変化の奇人/陽気な女たち/暑い日/童貞喪失記/あしたの夕刊/猫踏んじゃった
大江健三郎『言葉によって―状況・文学』新潮社・1976年
《言葉によって、僕はつねに新しい経験へとつき出される。現在、この場所に刻印づけられながら、しかも時空を自由に横切るようにして。その経験がかさね塗りされることによって、僕をその中に置く言葉の流れが、全体性をかちとってゆくことを僕は志向する。》(「プロローグ・同じ言葉によって」より)
若桜木虔/原作:重森孝子『2年B組仙八先生1』集英社文庫コバルトシリーズ・1981年
《桜中学に伊達仙八郎先生が転任して来た。受持ちは2年B組。これが何かと問題の多い大変なクラス。席順でもめたり、教科書を焼き捨てる事件がもちあがったり、また、男子生徒全員が他校との暴力抗争を起こしたり……。「仙八先生」は、スーパー教師としてではなく、一介の教師として、またひとりの大人として、同僚の女性教師「アンコ先生」とともに、体当たりで生徒たちにぶつかっていく。》
若桜木虔/原作:重森孝子『2年B組仙八先生2』集英社文庫コバルトシリーズ・1981年
《一学期も半ばから、やがて夏休みを迎え、2年B組の生徒も担任の仙八先生になじんできた。しかし、いま思春期の生徒たちは、多くの問題を抱えている。容貌も能力も劣ると思い込んでいる千春。すべてに無気力な真美。テストの結果だけを競い合う賢三と典子。成績が急に落ち全く自信を失った博、など……。クラスの人数分だけある生徒たちの悩みにぶつかってゆく仙八先生と、アンコ先生。》
若桜木虔/原作:重森孝子『2年B組仙八先生3』集英社文庫コバルトシリーズ・1982年
《夏休みボケからも立ち直り、2年B組の生徒たちにも二学期の学校生活が始まった。とくに休み中からアンコ先生の個人指導を受けていた克也は、目覚ましい学力を示した。が、それは女性としてのアンコ先生に対する克也の思いからだった。アンコ先生がそれに気づいた折り、克也の乗るオートバイの一団が、アンコ先生をはねて大怪我をさせた。心を閉ざしていく克也を説こうとする仙八先生。》
若桜木虔/原作:重森孝子『2年B組仙八先生4』集英社文庫コバルトシリーズ・1982年
《相変わらずクラスの中で孤立している夏彦。その夏彦と対立する、すばるや敏彦や寿人。テストの結果だけに悩む獏。三年の矢上にひたすら尽くす秀子。父に続いて母をも亡くした克也――。やがてくる中学最上級の一年を間近に控えて、2年B組の生徒たちは、それぞれに重い「青春」を背負い始めた。そんな中で仙八先生は「今しかやれないことをやれ」と呼びつづけ、生徒たちを励ますのだが……。》
モーリス・ルブラン『813』新潮文庫・1959年
《《ダイヤモンド王》と呼ばれる大富豪ケッセルバック氏は、全ヨーロッパの運命を賭けた重大秘密を握ってパリに出た。その全貌を明らかにすべく、怪盗紳士アルセーヌ・ルパンが会見したその夜、氏は何者かに刺殺されてしまった……。現場に残されたレッテル“813”とは? 手がかりの人物をおそるべき冷酷さで消してゆく謎の人物“L.M.”を対手に、ルパンの息づまる死闘が始まる……。》
出口裕弘『街の果て』深夜叢書社・1985年
《腐蝕画のような現代の魔都を舞台に、都市生活者の奇態な生存の光景を黙示録的終末の予兆を孕む文体で彫琢した作品群は、圧縮された内的戦後史、小説の体をかりた散文詩でもあろう。バタイユ、ブランショ、シオランなどの訳業で知られる仏文学者の『京子変幻』『天使扼殺者』『越境者の祭り』につづく第四小説集。》
収録作品=迷宮にて/未生の火/祝宴/街の果て/カンブリアの影/洪水まで
立花種久『眠る半島』れんが書房新社・2013年
《日常の表皮をめくれば……複雑に絡みあった時間軸。
記憶の迷路を踏み迷う、謎は永劫に時の狭間にある。
著者久々の異色短篇集》
収録作品=眠る半島/飛行する旅行団/夜の遊覧飛行/骨牌の家/夜警/凪の風景/電影/楽園の島/萬屋/野面/奇妙な酒宴/鱶の眠り/傘/百度/風塵の記/渡し/小屋/嘯く水/夜盗/途中の駅/爪の火/拾った夢/蝙蝠の空/花園/どしゃ降り/溺れる/壁の蝿
野梨原花南『イバラ学園王子カタログ』一迅社文庫アイリス・2009年
《マロウル国の女子校に入学した美少女の正体は、亡きキュイ王国のクランツ王子だった!? 目的は女のフリをして次期国王候補の皇子たちを口説き落とし、ある願いを叶えること。呪いで小鳥に変わってしまう護衛のスズラウ卿&友人のミミカの協力で、計画通り彼らと知り合えたクランツ。ところが、皇子たちを狙う襲撃事件に巻き込まれてしまい…!?
女子校なのに王子様がいっぱい? 女装王子と小鳥が繰り広げる冒険ファンタジー開幕!!》
日咲ユサ『星野宮桜子の三度目の正直。』ビーズログ文庫アリス・2016年
《西野美優は思い出した。これが乙女ゲームにもなった大人気アニメ『キミ☆らぶ』の世界で、悪役令嬢・星野宮桜子が愛しの京極会長に婚約破棄をされ、断罪される場面であることを。え、桜子って私!? このままじゃまずいと慌てて逃げ出した先は——まさかの刺殺エンド。こんなの知らない! はっと気づいたら、今度は桜子・5歳!? 三度目の人生、こうなったら老衰目指して「生き残り計画」開始!》
梨沙『第七帝国華やぎ隊―その娘、飢えた獣につき』一迅社文庫アイリス・2015年
《第七帝国華やぎ隊―それは、大国の王子が作った究極の娯楽部隊。とある理由からお金がほしいメイは、幸運にも華やぎ隊に入隊することに! 美形ばかりが集められた、水の女神の警護をするお飾り部隊。そう聞いていたのに、待っていたのは愛をささやき合う双子、軟派な屍術師、麗しの死者、病弱な王子、そして冷酷な聖職者という変わった隊員たちで……!?
水の都を舞台に、魔神に愛された少女の波瀾万丈な騎士道ライフが幕を開ける!!》
梅崎光生『暗い渓流』講談社・1971年
《人肉をも喰らう敗走兵の地獄図をはじめ、戦争の傷口を腐蝕させてゆく人間たちをユニークな語り口で浮かび上らせた珠玉の短編集》
収録作品=無人島/持ち物展示会/柱時計/奇妙な土産/老残/山寺/暗い渓流
野口武彦『石川淳論』筑摩書房・1969年
《石川淳世界に迫る初の本格評論
近代的散文精神の稀有な体現者、石川淳。その文学精神が架橋する虚構世界の内的バランスを、自己の存在とのあわいに探る新鋭の力作》
辻邦生『地中海幻想の旅から』レグルス文庫・1990年
《一九五七年の留学以降、第二の生活拠点となったパリ、創作への啓示を受けたアテネ、作品の舞台となったフィレンツェ、アルジェ…生涯を通じ旅を愛した作家の多幸感あふれるエッセイ集。》(「BOOK」データベースより)
眉村卓『幻の季節』主婦の友社・1981年
《あの声は…いや。いやまさか。だが……
男の心に、ふと忍び寄る女の影。失ったものを求めてまぼろしの旅はつづく……スリルと興奮のSFロマン。》
収録作品=ホテルたかのは/浄瑠璃寺・夏/黒いドアの店/ダムであった女/浜詰海岸/遠い日の町/乗せられた旅/旅で得たもの/照りかげりの旅
サント・ブーヴ『月曜閑談』富山房百科文庫・1978年
《要するに本書におさめたフランクリン、ゲーテ、ルソー、バルザック、フローベールに関する記述の底流となっているものは、すべて理想を求める精神に対する彼の擁護と主張であると考えられる。》(「解題」より)
阿刀田高『アラビアンナイトを楽しむために』新潮文庫・1986年
《今は昔、ササン朝ペルシャはシャーリャル王の御代。大王は夜ごとに処女を求めて夜伽をさせ、朝が明けると殺す、という日々を過ごしていた。そこに現われたのが大臣の娘シャーラザッド。彼女は妹とともに王の寝所におもむき、王の枕辺でたぐいまれな物語を語った……。奇想溢れる千夜一夜の物語を題材に、さまざまな人間模様を「奇妙な味」で味つけした阿刀田流やさしい古典読本第二弾。》
阿刀田高『新約聖書を知っていますか』新潮文庫・1996年
《新約聖書の冒頭で、マリアの夫ヨセフの系図を長々と述べているのはなぜでしょう。処女懐胎が本当ならば、そんなことはイエスの血筋と無関係のはずです。ところで、聖書の中に何人のマリアが登場するか知っていますか? ではヨハネは? そして、イエスの“復活”の真相は? 永遠のベストセラー『新約聖書』の数々の謎に、ミステリーの名手が迫ります。初級者のための新約聖書入門。》
眉村卓『乾いた家族』ケイブンシャ文庫・1993年
《吾平は定年間近のサラリーマン。専業主婦の千枝と息子・重助と暮している。昼休み、ランチを食べようとしたレストランで、注文したものとは違う料理がきた。拒絶をしめす吾平だが、なぜかウエイトレスは当惑している。そして……。三人家族に次々とおこる奇妙な出来事を、家庭生活の異空間体験ゾーンに描く書下ろしショート・ショート・ストーリー。》
収録作品=重助/吾平/千枝/痒み/多田さん/よく似た男/右端の電話ボックス/夫と息子/あげる/夜の落花/放置自転車/童謡療法/顔(一)/顔(二)/顔(三)/隣席/レインコート/断念/もらった傘/電車の中/辞めた人/七夕竹/秘密大明神/交差点で/若い幽霊/ビール/CM/還るとすれば/小川くん/素敵なカップル/シャーシャーシャー/大歩行/未来滞在者/Sの指南書/万年青年/妄想/お供/電球と蛍光灯/覚めても夢/夜の支線/動物園で/描きたい/斬られたこと/ほとけ心/反撃/見舞いの花/大伴/冬日和/待合室の本/Kの賀状
眉村卓『ゆるやかな家族』ケイブンシャ文庫・1993年
《吾平は定年間近のサラリーマン。専業主婦の千枝と息子・重助と暮らしている。会社で冷房が急にとまった。暑くなってきたと思ったら、目の前の女子社員の髪がキラキラと虹色にひかりだした。「わたし、困るわ」と言って席を立った彼女は……。ごく普通の三人家族が次々と遭遇する日常の中の異空間を乾いた視線で描く書下ろしショート・ショート・ストーリー。》
収録作品=秒音/早食い/食べる男/忘れていないか/レールの上/棒の重さ/目撃の後/見物(一)/見物(二)/見物(三)/もと犬/髪の色/踊り場の男/行き/帰り/自尊心/井場さん/五十倍(A)/五十倍(B)/自転車の青年/泥縄魂/想像/Hさん/Mの日記/キララの一/距離/キララの二/二泊三日/壁/親の会/立体視の本/キララの三/倉庫の中/人工の園/ミニばら/偽の記憶/車、回ってる/キララの四/寒い日
笹沢左保『突然の明日』講談社文庫・1977年
《白昼の交差点で女が消えた、と口走った直後に凉子の兄は殺された。消えた女とは兄の元愛人緋紗江。涼子は兄の親友瀬田の協力を得て犯人追及を試みる。鍵をにぎる緋紗江の行動は九州へも拡がっていた。そのアリバイを調べる凉子たちの身に衝撃的な“突然の明日”が襲う。アリバイ崩しを主題にした、著者会心の作。》
C・B・ブラウン『エドガー・ハントリー』国書刊行会・1979年
《夢遊病者が墓を掘り起す場面から、この悲劇は始まる。ゴドウィン等に深く傾倒した米国最初のゴシック作家、というよりも米国文学そのものの創始者ブラウンが、インディアンや辺境等の米国的背景の中に展開した、サスペンスあふれるアメリカン・ゴシックの傑作。》
田中芳樹『夏の魔術』トクマ・ノベルズ・1988年
《能戸耕平は一九歳、一浪してこの年ある私立大学の文学部に入学した。季節は晩夏、左の胸ポケットに三週間の休暇、右の胸ポケットには20万を入れて、彼は新学期がはじまるまで目的地のない旅をつづける計画だった。すでに10人ばかりの客を無人ホームに降して下り列車が去ってから一時間以上も経過していた。「お兄ちゃん、ひとり旅?」と声をかけてきた子どもがいた。来夢という名の十二歳の女の子だった。恋のアバンチュールにはちょっと若すぎる……。やがてこの二人の前に珍妙な人物と怪奇な現象が嵐のように襲来して……。》
J・M・G・ル・クレジオ『黄金探索者』新潮社・1993年
《黄金への夢に憑かれ一生を空費した祖父への熱い思いを、虚構の形を借りて描く一族の叙事詩。》(「BOOK」データベースより)
都筑道夫『深夜倶楽部―あやかしの世界』フタバノベルス・1986年
《怖いだけの話なら、ごまんとある。が、はやいはなし――姫はじめ、というのは姫飯というめしを食う儀式とか飛馬はじめ=馬の初のり、とかいろいろ説がありますが、ふつうは正月、はじめてのセックスということになっている。「うれしいか、たぐいまれなお前の技が、手本になって残るのだ」と男は女におおいかぶさった――という語りが、ゾクッとする怪談になるとなれば数は少ない。該博な知識と奇抜な発想の著者が「オカルティズムは、永遠に新しい」という観点で綴った、身の毛もよだつ、次の七篇。――「死びと花」「鏡の国のアリス」「姫はじ」「狐火の湯」「首つり御門」「幽霊屋敷」「夜あけの吸血鬼」――ああ、あやかしの世界の、これぞ神髄!》
G・ボッファ、G・マルチネ『スターリン主義を語る』岩波新書・1978年
《人間の解放を目指したはずの社会主義が、なぜスターリン体制を生んだのか。ソ連共産党とは一線を画しつつ新しい社会主義を模索するフランスとイタリアのジャーナリスト二人が、ロシア革命の全過程を緻密に分析しながら、スターリン主義の形成と確立、国際的影響、ブハーリンやトロツキー等対立者たちとの抗争などについて語り合う。》
斎藤美奈子『日本の同時代小説』岩波新書・2019年
《この五〇年、日本の作家は何を書き、読者は何を読んできたか。「政治の季節」の終焉。ポストモダン文学の時代。メディア環境の激変。格差社会の到来と大震災―。「大文字の文学は終わった」と言われても、小説はたえず書き継がれ、読み続けられてきた。あなたが読んだ本もきっとある!ついに出た、みんなの同時代文学史。》
斎藤美奈子『麗しき男性誌』文春文庫・2007年
《これが男の興味を惹く“ツボ”だったのか――。モテたいオヤジ雑誌『レオン』、失楽園カップル二名様ご案内の『日経おとなのOFF』、世の中すべてご隠居の花見酒と化す『週刊新潮』など、男性誌31誌を俎上にのせ、ユーモア、皮肉まじり、お腹が痛くなるほどの快刀乱麻。雑誌にみる、日本男児の「麗しき」生態とは。解説・亀和田武》
岡本好古『空母プロメテウス』講談社・1972年
《コンピューターを装備し、科学の最先端を結集した空母プロメテウス。艦載機のつまずきは一瞬の内に空母を火の虜にし、蒼いトンキン湾は、爆燃に赤々と染められた――。機械文明への不信を、リリカルに描写。》
収録作品=空母プロメテウス/アロウヘッド/“KAMIKAZE”/鬼軍曹/蒼いファントム
かんべむさし『急がば渦巻き』徳間書店・1995年
《「蚊遣りブタってありますけど、あれはいつ頃から作られていたんでしょうね」「さあ。それが全く不明らしい」 趣味なし特技なし超平凡な会社員が、不思議な専攻で人生大逆転。業界初の書き下ろし蚊取線香小説。》(「MARC」データベースより)
鶴見良行『バナナと日本人―フィリピン農園と食卓のあいだ』岩波新書・1982年
《スーパーや八百屋の店頭に並ぶバナナの九割を生産するミンダナオ島。その大農園で何が起きているか。かつて王座にあった台湾、南米産に代わる比国産登場の裏で何が進行したのか。安くて甘いバナナも、ひと皮むけば、そこには多国籍企業の暗躍、農園労働者の貧苦、さらに明治以来の日本と東南アジアの歪んだ関係が鮮やかに浮かび上がる。》
志岐武彦『一市民が斬る!!最高裁の黒い闇―国家の謀略を追った2000日の記録』鹿砦社・2015年
《法治国家の土台を揺るがす大スキャンダル。小沢一郎を起訴に持ち込んだ検察審査会は架空、鳩山由紀夫検察審査会では裏金づくりが…。タブーだった“最高裁事務総局”の不正を一市民が徹底追及する!! 》(「BOOK」データベースより)
新谷識『ヴェルレーヌ詩集殺人事件』中公文庫・1993年
《詩集が不吉な死を招くのか、人が詩集を悪に利用するのか。終戦直後の済州島でたまたま入手した原書詩集の思い出を綴った新聞投稿記事に端を発して、次々と起こる不審な死。一冊の詩集に秘められた意外な事実を、東京、戸隠、済州島、東南アジアに追う推理長篇。》
本多秋五『志賀直哉(上)』岩波新書・1990年
《近代文学史に屹立する志賀直哉。著者は、この文章の名手による珠玉の作品群とその水面下に大きく裾なす日記、草稿、書簡などの中に、作家の内面的葛藤と成熟を読み取っていく。本書は透徹した批評で知られる文学者による本格的な作家・作品論である。上巻は、初期の作品群から「城の崎にて」までを取り上げる。》
本多秋五『志賀直哉(下)』岩波新書・1990年
《『自己』に忠実に生きようとした作家・志賀直哉。その著作のすべてを読みつくし、鋭い感性から名文が生み出され、作品に結晶していく過程を克明に追求する。多年の研究の上に生まれた本書は、また強烈な「白樺派」的自我と戦後精神との格闘の軌跡でもある。下巻は「暗夜行路」を中心に志賀文学の本質に迫る。》
津島佑子『山を走る女』講談社文芸文庫・2006年
《二一歳の多喜子は誰にも祝福されない子を産み、全身全霊で慈しむ。罵声を浴びせる両親に背を向け、子を保育園に預けて働きながら一人で育てる決心をする。そしてある男への心身ともに燃え上がる片恋――。保育園の育児日誌を随所に挿入する日常に即したリアリズムと、山を疾走する太古の女を幻視する奔放な詩的イメージが谺し合う中に、野性的で自由な女性像が呈示される著者の初期野心作。》
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