『無帽の帰還』は中里夏彦(1957 - )の第2句集。
著者は「鬣」同人。本籍:福島県双葉郡双葉町。
《生まれ育った家自体は現在も同じ場所に存在しているが、その家に近づくことが国によって未だに制限されている》(あとがき)
数多(あまた)の
われの一人(ひとり)
激雨(げきう)を来(き)つつあり
*
天地(てんち)
黄昏(たそがれ)
愛(あい)されずゐる
われの少年(せうねん)
*
日没(にちぼつ)の
水(みづ)を
離(はな)るる
魂(たま) いくつ
*
前代未聞(ぜんだいみもん)の
光量(くわうりやう)
そそぐ
頭蓋(づがい)かな
*
瀑布(ばくふ)
かの
天頂(てんちやう)の日(ひ)に
血(ち)は差しぬ
*
雁首(がんくび)や
漂(ただよ)ひの地(ち)は
日(ひ)に痴(し)れて
*
渺渺(べうべう)と
遠(とほ)のく
人(ひと)の
鼓膜(こまく)かな
*
他人(たにん)の空(そら)に
国旗(こくき)
いちまい
垂(た)れ下(さ)がる
*
氷点(ひやうてん)の
空(そら)の美貌(びばう)の
無帽(むぼう)の
帰還(きくわん)
*
布(ぬの)掛(か)ケテ置(お)キヌ
仏間(ぶつま)ノ
画像変換受信機(テレビジヨン)
*
イツモ青空(あをぞら)
若(わか)キ
昭和(せうわ)ノ
鉄骨高層構造物(ビルヂング)
*
原子力爆弾製造所(はつでんしよ)
ラララ
僕等(ぼくら)ハ
未来(みらい)ノ子供(こども)
*
立(た)つてゐた
廊下(らうか)の奥(おく)に
佇(た)つてゐる
*
ふるさとは
雲一筋(くもひとすぢ)を
岬(みさき)まで
*
衛星(ゑいせい)
ひとつ
波打際(なみうちぎは)に来(き)て
火照(ほて)る
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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