『猫は踏まずに』は本多真弓(1965 - )の第1歌集。解説:岡井隆。栞文:花山多佳子、穂村弘、染野太郎。
作者は「未来」会員。
日々樹々の精霊たちをあやめてはコピー用紙を補充してゆく
十年を眠らせるためひとはまづ二つの穴を書類に開ける
さきくさの中途入社の同期たちはひとりもゐなくなつてしまつた
降水と言ひかへられる雨のごとくわたしは会社員をしてゐる
ジェンダーギャップ指数(二〇一六年)
世界第百十一位輝けり ニッポンチャチャチャニッポンチャチャチャ
残業の夜はいろいろ買つてきて食べてゐるプラスチック以外を
すなほなるきみとその身の労働が気づかぬうちに兵器をつくる
誰からも習つたことはないはずのへんな形になる ひとを恋ふ
ともだちのこどもを膝にのせるときああ内側がぜんぶさびしい
既読スルー既読スルーでかまはないあなたが生きてそこにゐるなら
永久の脱毛をしたわたくしのからだのはうは有限である
うちのひと昭和だからと異類婚なしたるごとき囀(さへず)りを聞く
目のまへのノルマこなしてゐるうちに法案はとほりぬけてしまつた
抱きしめて背中をなでてゐるうちに裸眼は海をこぼしはじめる
真夜中の会議の結果この夏にこはれることを決めた家電たち
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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