『鉄砲百合の射程距離』は内田美紗の俳句と森山大道の写真を、大竹昭子が合わせる形で編集したもの。
内田美紗の句を見て《その破天荒ぶりに驚愕し、森山さんの写真と合わせて一冊の本にしてみたいという野望を抱いた。言葉が写真に、あるいはその反対に写真が言葉に寄りかかることなく、互いが独立していながら刺激しあい、新たな地平を切り開くことは果たして可能かと、それ以来、自問しつづけてきた》という大竹昭子が出した《一つの答え》。
句に写真を付けるとなると、聴覚映像の組織体としての句が実際の映像に破壊されてつぶされてしまうというようなことになりがちだが、もともと別個のものだった写真作品と合わせているこの本の場合それはない。句にはもともと明示されていなかった、しかしその隙間に入り込むことはできる情感が、句と遠近法をなして背後に写真として広がるといった関係になっているページが多い気がする。
なお内田美紗(1936 - )は「船団」会員で、句集『浦島草』『誕生日』『魚眼石』『内田美紗句集 現代俳句文庫58』を持つ。写真家森山大道の姉。
海の日のバケツに汲んで海の水
ががんぼや賛同の手のまばらなる
思ひ出されて月の夜の電話受く
口中に残りし麻酔遠くに火事
蚊柱をかきまぜてゆく女の子
夜遊びといふには早しところてん
秋の暮通天閣に跨がれて
蝶生れてもつとも近き過去忘る
句が破天荒に見えるというのは意外。
※本書は編者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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