西村寿行『双頭の蛇』角川文庫・1979年
《夫婦が、安普請のアパートを脱けてようやく手に入れた念願のマンションで、隣室の男から受ける恐怖は日増しに大きくなっていった――。
隣室で飼いはじめた猫が向ける不気味な双眸と、可愛がっていたカナリヤの謎の死。妻が隣室の男から受ける、ねばりつくような変質者的視線。そして、ついに娘までも……。
続発する変事に、夫の心には隣の男に対する殺意が燃える……。
人の心の奥底に潜む、悪魔的な世界を掘り下げた、西村寿行会心のスリラーの世界! 表題作「双頭の蛇」等、全五篇収録。》
収録作品=狂った夏/まぼろしの川/双頭の蛇/荒野の女/呪術師たち
島田一男『食虫花』徳間文庫・1986年
《大ホテル・チェーン建設を計画している松平母子をめぐって、ホテルの生け花を一手に引受け、京都派華道の東京進出を願う天童流家元・天童万里と、その利権に目をつけ利権の独占を狙う華道旬報社長夫人で古今流華道師範の山戸玉代らが激しい争いを続けていた。そんなある日、山戸玉代が死体となって発見された……。ホテル建設にまつわる利権と色欲に、おなじみ銀座特信局の事件記者が絡む長篇ミステリー。》
島田一男『紅の捜査線』徳間文庫・1986年
《新宿で夜の女たちが次々に殺された。最初に発見されたのは“から傘お千”、続いて“エンゼルお政”、“釘抜きお銀”、という具合だ。いずれも白い下腹部に赤いマジックで“V”と記されていた。犯人は精神異常者か怨恨か、新宿署捜査一課は色めきたった。
娼婦たちの生態を鋭く抉りながら、事件に仕組まれた巧妙な罠をときほぐす刑事たちのあくなき執念を描く――「赤きVの悲劇」他4篇を収録。》
収録作品=赤きVの悲劇/砂の死刑台/時間の壁/血の背景/淫らな罠
勝目梓『好色な狩人』徳間文庫・1982年
《原宿のマンションにある中沢探偵事件所には、日ごと夜ごと、男と女にまつわる難事件をかかえた依頼人が舞い込んでくる。
所長の中沢卓也とアシスタントの理絵は敢然調査に乗り出すのだが、なぜかそのたび彼らの前には豊満な美女やテクニシャンの紳士があらわれ、職務の邪魔をするのだ。
厳粛な仕事と放縦なプレイの貪欲な狩人と化し、今日も今日とていざ往かむ、官能の街へ! 長篇エロチカル・ミステリー。》
中井英夫『中井英夫全集12―月蝕領映画館』創元ライブラリ・2006年
《影だけが妖しく壁を伝い、眠りだけがすべてを宰領する月蝕領映画館。「街があり映画館があり、中に映画があり銀幕がありスタアがいるという“往き”の手続き、あるいはその逆という“還り”の手続きなしに映画だけの話をするつもりはない」――昔語り、批評、苦言、ぼやき、小言、悪態……そして褒詞が少々。独断と偏見、記憶と回想に彩られた、月蝕領領主の偏愛的映画論集。(解説・松山巖)》
橋本治『その後の仁義なき桃尻娘』講談社文庫・1985年
《グスッ。あたし、榊原玲奈は、浪人ですッ。クラスのみんなはしっかり大学生になって、あたしとは無関係に青春やってるようです。ち・く・し・よ・お――。かの衝撃のデビュー作「桃尻娘」で、お父さんお母さんの度胆をぬき、少年少女の大喝采を浴びた著者の大河シリーズ第二作。浪人・玲奈を中心にお馴染メンバーが大活躍する疾風怒濤の青春後期。》
連城三紀彦『敗北への凱旋』講談社ノベルス・1983年
《昭和二十三年十二月二十四日降誕祭前夜十時、横浜中華街から一キロほど離れた安宿の一室。床の中央に男が倒れていた。拳銃の弾丸が心臓に命中していた。右腕がない。男の名は津上芳男。津上が殺されて二日後、第二の事件で、津上の二人の女の一方が殺された。容疑者としてもう一人の女・玲蘭を追う。三人の男女の背景は?》
《著者のことぱ
ショパンの葬送行進曲を聞くたび、なぜか砂塵舞う辺境の戦場を思い浮かべます
この作品は、太平洋戦争を背景にした愛の物語であり、嘘八百のミステリーですが、すべて、そのショパンの十六の音が出発でした。
美しい名旋律をトリックにして、戦争というノンフィクションヘの、自分なりの葬送行進曲を書いてみたかったのです。》
ロバート・ブロック『切り裂きジャックはあなたの友―ロバート・ブロック短篇集』ハヤカワ文庫・1979年
《切り裂きジャックは今なお生きている! かつて母を惨殺されたガイ卿がつきとめたのは意外な事実だった。ジャックは殺人の代償に永遠の若さを得て、シカゴに隠れ住んでいたのだ。母の恨みを晴らすべく、執拗に彼を追い求めるガイ卿。だが、霧煙る闇の中には血も凍る恐怖が待ちうけていた……。 19世紀のロンドンを震え上がらせた実在の殺人鬼をモデルに描く表題作他、禁断のミイラを盗んだ考古学者の恐怖の末路を描く「かぶと虫」黒ミサものの傑作として名高い「呪いの蝋人形」など、モダン・ホラーの第一人者が贈る残酷と怪奇に溢れる傑作13篇!》
収録作品=生き方の問題/タレント/斧を握ったリジー・ボーデンは……/ピンナップ・ガール/安息に戻る/首狩人/生きどまり/かぶと虫/黒い蓮/呪いの蠟人形/修道院の饗宴/未来を抹殺した男/切り裂きジャックはあなたの友
四方田犬彦『アジア全方位 papers 1990-2013』晶文社・2013年
《アジア的体験とは、観光を退け、旅人として長く留まり、土地の霊と言葉を交わすことだ。文学、映像、都市、料理、宗教…四半世紀におよぶ、アジアをめぐる思索と探求の集大成。》(「BOOK」データベースより)
ティム・バークヘッド『鳥たちの驚異的な感覚世界』河出書房新社・2013年
《進化が生んだ究極の機能美。鳥は食べ物を味わうのか?パートナーの死を悲しむのか?匂いを嗅ぎ分けるのか?紫外線も見える眼や、信じられないほど鋭敏な耳、この上なく敏感なくちばしや、渡りに役立つ磁気感覚など、その驚嘆すべき感覚と秘められた感情生活を科学で読み解く。》(「BOOK」データベースより)
四方田犬彦『月島物語ふたたび』工作舎・2007年
《1988年、ニューヨーク帰りの批評家が、東京湾に浮かぶ月島で、長屋暮らし始めた。植木が繁茂する路地、もんじゃ焼の匂い漂う商店街、鍵もチャイムもいらない四軒長屋…。昔ながらの下町の面影を残すこの街だが、実は日本の近代化とともに作られた人工都市だった。モダニズムがノスタルジアに包まれた街―批評家はそのベールを一枚ずつはがし、月島の全体像を浮かび上がらせていく。日本近代化論、文学論、都市論を縦横に駆け巡る傑作エッセイの待望の復刊。第一回斎藤緑雨賞を受賞した単行本版、文化人類学者・川田順造氏との対談を含む文庫版補遺に加えて、書き下ろしエッセイ、建築史家・陣内秀信氏との対談、各時代の月島風景などを収録した決定版。》(「BOOK」データベースより)
荒巻義雄『宇宙25時―定本荒巻義雄メタSF全集 第2巻』彩流社・2015年
《『宇宙25時』は、1978年に発表された初期作品集。日本SFの変革期に忽然と現れた作者・荒巻義雄の描いた夢幻の世界とは?荒巻と同じく北海道出身の川又千秋氏が解説を書き下ろし!雄弁な荒巻義雄の作品構築の裏側に迫ったインタビュー「術・マニエリスム・SF」や、のちの『紺碧の艦隊』や『旭日の艦隊』の思想的な源ともなった「ポンラップ群島の平和」、そして、幻の「解説柔らない艦隊―荒巻義雄「ポンラップ群島の平和」」(巽孝之)も特別収録! 》(「BOOK」データベースより)
収録作品=レムリアの日/ああ荒野/無限への崩壊/宇宙25時/術・マニエリスム・SF/アンドロイドはゴム入りパンを食べるか?/ポンラップ群島の平和
眉村卓『幻影の構成』ハヤカワ文庫・1973年
《第八都市、それはイミジェックスと呼ばれる情報管理システムによって秩序が保たれている未来都市である。市民はなにひとつ不自由のない、平和な生活を享受しているかに見えた―ある日、一般市民ラグ・サートがイミジェックスの“盲点”に気づくまでは…。一人、戦いを開始したラグの前に次々と明らかにされる真実とは?高度文明社会に潜む危機と矛盾を描くSF長篇の傑作。》(「BOOK」データベースより)
鳥海永行『月光、魔鏡を射る時』ソノラマ文庫・1979年
《死者を乗せ湖の中央に漕ぎ出した小舟には三本の竹棹が立ち、いずれにも榊の葉とともに銅鏡がくくりつけられていた。――“水葬霊”と題する週刊誌の紀行文に添えられた写真を見た時、一彦はその銅鏡が生前の父だ大事にしていたものだと直感的に悟った。紛失した銅鏡といい、死んだ父としか思えない人物からかかって来た電話といい、父の死にはとこか奇妙な影があった。そして一彦が紀行文の作者を訪ねた特、その人物は世にも奇怪な死を遂げたのである。父の死にようやく慣れ、母子二人の新しい生活が始まったというのに、恐ろしい事件がいまその幕をあけたのだ!》
土屋隆夫『粋理学入門』角川文庫・1976年
《「俺の女房は浮気しているんじゃないか?」 妻を持つ身の誰しもがこんな疑惑を侍ったことがあるはずです。この不安をあなたは一掃することはできない。どうして確かめたらいいか、それには良い方法があります。それも簡単で、絶対に確実な方法が……。
再婚して間もない週刊誌の編集長阿川は、ある日、行きつけのバーに立ち寄った時、見知らぬ老紳士に話しかけられた。自分の妻の浮気をいかにして発くかという話だ。だが余りに異常なその手段に、阿川の表情はしだいに曇っていく。
本格推理小説の名手土屋隆夫が軽妙なタッチで描く、異色短編傑作集。》
収録作品=離婚学入門/経営学入門/軽罪学入門/再婚学入門/密室学入門/粋理学入門/報道学入門/媚薬学入門
J・G・バラード『永遠へのパスポート』創元推理文庫・1970年
《高層建築の九十九階までくると足が動かなくなってしまう男……アルファ・ケンタウリへ三代にわたって飛びつづける宇宙船の中で少年の心に芽ばえた疑惑の影……空中に浮かぶ正体不明の監視塔……火星の砂から検出されたビールスによって死滅する地球の植物の話など全九編を通して繰りひろげる華麗なSF世界。既刊「時の声」「時間都市」につづいて人間の不可知の部分に鋭くメスをいれた鬼才バラードの絢爛たる異色短編集。》
収録作品=九十九階の男/アルファ・ケンタウリへの十三人/12インチLP/監視塔/地球帰還の問題/逃がしどめ/ステラヴィスタの千の夢/砂の檻/永遠へのパスポート
五代格『クロノスの骨』ハヤカワ文庫・1976年
種村季弘『ぺてん師列伝―あるいは制服の研究』河出文庫・1986年
《ぺてん師の武器は嘘言と演技である。しかも彼らは出生、性、身分、住所など全ての面でアイデンティティを欠く不定形な存在である。彼らは体制の外にあり、ある日突如として、体制の象徴である制服を身にまとってその内側へと進入する。そして欲の皮のつっぱった紳士淑女を于玉にとり、混乱と哄笑を残して周辺の闇へと消え去っていく……近世・近代ドイツの実話をもとに描く痛快異色列伝!!》
田久保英夫『緋の山』集英社・1988年
《裕福に暮らしながら、建築設計士の夫を裏切り若い男と密通する房子。事件の処理をまかされ、話をつけるため京都を訪れた雄三は、「大文字」の送り火の激しいゆらぎのなかに、嫂・房子への不思義な罪の共犯意識を覚えはじめる。家庭の秩序を超えてまで房子が求めようとしたものは何か?罪障を償うことも許されぬまま生きる人間の姿を描く会心作。》(「BOOK」データベースより)
マックス・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』岩波文庫・1989年
《営利の追求を敵視するピューリタニズムの経済倫理が実は近代資本主義の生誕に大きく貢献したのだという歴史の逆説を究明した画期的な論考。マックス・ヴェーバー(一八六四‐一九二〇)が生涯を賭けた広大な比較宗教社会学的研究の出発点を画す。旧版を全面改訳して一層読みやすく理解しやすくするとともに懇切な解説を付した。》
松岡裕太『コンビニの王子様』ガッシュ文庫・2008年
《「コンビニ王子」こと、イケメンコンビニ店員・西園寺翔が、大好きなメロンパンを取り置きしてくれ、俺を気にかけてくれている。…と思ってら、いきなり愛の告白をしてきた!実は彼はそのコンビニチェーンを統括する西園寺グループの御曹司で、あれよあれよという間に同居を決められ、エッチに持ち込まれてしまう。しかも、抵抗しようとすると、「お仕置き」と称して縛られたりイクのを止められたり…こんな優しそうな顔でキチク!!そのうえ、翔に連れられて行ったパーティーで、当然のように「生涯の伴侶」だと紹介されてしまい…。》(「BOOK」データベースより)
松岡裕太『職業、抱き枕!?』もえぎ文庫ピュアリー・2008年
《両親を亡くし、さらに唯一の肉親である異父兄・実の手術費用を賄わなければならない春文は、知人の紹介で天才外科医・二階堂理生の邸宅で、住み込みメイドの仕事を始めることに。しかし普通のハウスメイドの仕事かと思いきや、春文のお仕事は特製コスチュームを身にまとっての、理生専用の「抱き枕」。さらには毎日“夜のご奉仕”を勤めなくてはならなくて!?クールでSなご主人様との、ハッピーメイドラブ決定版。》(「BOOK」データベースより)
鈴木あみ『男の結婚』B‐PRINCE文庫・2012年
《男同士が結婚し、楽しく暮らせる、男だけのセレブな街―羽角水季は、自慢の弟がそこで結婚式を挙げると知り、止めようとするが、ハニーに夢中な弟は取り合ってくれない。偶然知り合った住人の御代田頼人に頼み込み、弟の新婚生活を監視する水季。だが頼人から協力の代償に身体を求められ、不覚にも熱い愛撫に感じちゃう…!弟の幸せが一番だったはずなのに頼人を思うとドキドキしちゃうのはなぜ!?オール書き下ろし。》(「BOOK」データベースより)
佐藤正義『ヤジまん!―オヤジ心は満員御礼!』クリア文庫・2012年
《「な、なんじゃこりゃ~!」異星人キンキンと息子の欣也にはめられて、気づくと桜田政宗(45歳)は、美少女戦士に変身していた!自分が蒔いた種とはいえ、政宗はオヤジの心をもったままメイドやミニスカポリスに変身し、ウイルスに取りつかれた怪人と戦うことに!しかし女心をもって癒さないと倒せない怪人を相手に、政宗は苦悩するのだった。新境地を切り開く、美少女戦士(ただし中はオヤジ)コメディ登場。》(「BOOK」データベースより)
鳥居万由実『詩集 07.03.15.00』ふらんす堂・2015年
《◆第二詩集
この作品を読んで、なんともいえない驚きをおぼえている。
ただ無限にひらかれているようなフラグメントの宇宙が渦巻いている。しかもそれが奇妙に透明で、「遠さ」においてきわだち、つまり「宇宙に吹きさらされた無意味さ」とも通じてしまっている。
(解説より:野村喜和夫)
◆046より
もしやり直せるなら、われわれが個体ではなかった時までやり直したい。波の中の波のように群体で、あるいは同じ水の、大気の、ふるえだった時まで。》
羽鳥紘『君がいる世界で。―聖少女と黒の英雄』レジーナ文庫・2013年
《平凡な男子高校生・咲良はある日、学校の屋上で、女顔のせいで苦労した十六年の人生を儚んでいた。すると突然押し寄せる光の洪水に包まれた! 気づくとそこは戦場。まわりの兵士たちは彼を「聖少女様!」と呼ぶ。咲良は聖少女リディアーヌの生まれ変わりとして異世界召喚されてしまったのだ。その場を逃げ出した彼は、黒の英雄と呼ばれる男装の麗人・エドワードに助けられ、彼女のもとで暮らすうち、やがて恋心を抱くようになる。咲良はエドワードを戦乱の世界から救うために、命懸けで奮闘するのだが――?》
倉橋由美子『迷路の旅人』講談社・1972年
《想像力・思想・文体・文章・テーマ等々、小物を構成する諸々の要素に触れて、何が本物の小説かを論じた長編評論「反小説論」。“異常で病的で幼稚”な今日の文学の風潮を批判した「遊びと文学」。ほかに、ユニークな作家論や折り折りの感慨をつづった随筆を収録。『わたしのなかのかれへ』に続く第二エッセイ集である。》
講談社文庫版
山野浩一『鳥はいまどこを飛ぶか―山野浩一傑作選Ⅰ』創元SF文庫・2011年
《この小説は、最初の二節と最終の二節以外のaからlの配列を任意に変更して読んで下さって結構です―各章を自由に行き来する鳥を追うことで無数の物語展開を体験できる、実験精神に満ちた表題作など代表作10篇を収める。雑誌「NW‐SF」創刊、サンリオSF文庫創刊に際し、先鋭的なSFや前衛文学の紹介に尽力、創作・評論両面で輝かしい軌跡を残す巨人の幻の傑作群が甦る。》(「BOOK」データベースより)
収録作品=鳥はいまどこを飛ぶか/消えた街/赤い貨物列車/X電車で行こう/マインド・ウインド/城/カルブ爆撃隊/首狩り/虹の彼女/霧の中の人々
山野浩一『殺人者の空―山野浩一傑作選Ⅱ』創元SF文庫・2011年
《私は内通者Kを殺害した。死体は仲間たちによって埋められ、事件の痕跡は完全に消去された。その後警察が捜査を開始するが、その結果明らかになったのは、Kなる男がどこにも存在しないという事実であった…。非在の男がもたらす不安が“殺人者”を思わぬ結末へと導く表題作ほか、幻の単行本初収録作「開放時間」「内宇宙の銀河」など、著者の真骨頂ともいえる傑作9篇を収録。》(「BOOK」データベースより)
収録作品=メシメリ街道/開放時間/闇に星々/Tと失踪者たち/φ(ファイ)/森の人々/殺人者の空/内宇宙の銀河/ザ・クライム(The Crime)
かんべむさし『サイコロ特攻隊』ハヤカワ文庫・1977年
《東南アジア諸国はAJAF(反日連合軍)を結成し、突如、対日断交・経済封鎖を宣言した。経済大国ニッポンはさらに何者かによって、次々と原油を満載したタンカー、貨物船を撃沈され、完全に生命線を断たれてしまった。やがて苦悶のすえ、悪夢のような解答をたたきだした。陸防中将伊東端穂の建案“特攻作戦”はたちまち日本全土をヒステリックな狂気に駆りたて、無作為抽出によって選ばれた人々が続々と死地に赴くのだった!
日本SF界のホープかんべむさしが権力エリートの、また権力に操られる人間の悲惨な喜劇を描破した傑作処女長篇SF》
森村誠一『太陽黒点』講談社・1980年
《浅見隆司には、派手好きだが美しい妻がいた。だが同窓会をきっかけに、彼女は浮気を始めた。しかも相手は、浅見が学生時代筆舌につくしがたいほど虐げられ、今は八幡商事に勤めている江木だった。八幡商事は、詐欺同然の手口で、父祖伝来の財産を奪い、父を死に追いやった元凶だった。自分の怨念を風化させてはならない。妻を離婚し、浅見は復讐のため、立ち上がるが…。新本格推理。》(「BOOK」データベースより)
横溝正史『悪魔が来りて笛を吹く』角川文庫・1972年
《毒殺事件の容疑者である椿元子爵が失踪して以来、椿家に次々と惨劇が起る。自殺他殺を交え7人の命が奪われた。子爵が娘に残した遺書「これ以上の屈辱、不名誉にたえられない」とは何を意味するのか? 悪魔の吹く嫋々たるフルートの音色を背景に妖異なる雰囲気とサスペンスが最後まで読者を惹きつけて放さない。》
式貴士『なんでもあり』CBS・ソニー出版・1982年
収録作品=なんでもあり/壁抜けコック/翔んだカップル/夢精子/夢で逢いましょう/名器/変身綺談/視線/秘航物体X/マスターキー/ザ・カントマン
大泉黒石『大泉黒石全集第7巻―眼を捜して歩く男』緑書房・1988年
《文学史の闇に輝く日本のドストエフスキーが、対話と告白で現代小説の方法を構築し、宇宙の中の生存の謎を追求して現代人の彷徨える心に啾々と訴える幻の名作群。》(「BOOK」データベースより)
収録作品=眼を捜して歩く男/尼になる尼/顔の喜劇/葡萄酒屋の旦那/女人面/絨氈商人/六神丸奇譚/天女の幻/侠盗
中村真一郎『秋』新潮社・1981年
《人生の秋の日射しのなかに、すべての過去の情景は曼陀羅のように甦る。そこでは時空を越え、前生の記憶に似た根元的な夢と、生まなましい官能の匂いとが、ひとつに溶けあい、日常の世界と幻想空間とが透明な重なりを見せる。一快楽主義者にとって、精神と肉体との迷路の遍歴は、いかなる陶酔と恐怖とをもたらしたか? その探究はおのずからひとつの鎮魂曲となった。 著 者》
《安部公房氏評
女たちは死んでいく。題名が暗示しているとおり、出会ったすべての女たちが、落葉のように確実に散っていく。散った落葉の重みで、すべての情事が冷めきる前に化石になってしまうのだ。主人公は古生物学者を思わせる手さばきで、それら化石の断片を寄せ集め、組み立て、ひたすら生きた情熱の再現に熱中する。そのひたむきな姿勢には説得力がある。作者は情事そのものによりも、情事の化石に心をひかれるコレクターなのかもしれない。おかけで情事に関するユニークな博物誌が編み上げられた。喪失の余韻がひびきつづける。振向いて明日を見たような気分にさせられる。
篠田一士氏評
『秋』は、もちろん独立した一篇の長篇小説として楽しむことはできるが、『四季』『夏』につづけて、これを読むよろこびは、また格別である。ここには、すでに先行二作において片影をのぞかせた、さまざまな男女の登場人物が、あらたな装いをこらし、秘められたドラマをわれわれのまえにくりひろげてくれる。とりわけ、短い不幸な生涯をみずから閉じたM女の存在は、過去と現在のあいだで目まぐるしく織りつづける「私」の記憶の機(はた)のかたわらに、いつまでも立ちつくし、そのあざやかな幻像は寂々切々、まことに感動的である。
この小説は題名にふさわしく、アダジオの音速度で書かれている。嫋嫋と鳴りひびく音楽にも似た、このロマネスクの世界は読者に、生と死、そして、愛の可能性について深々とした思考を誘う。》
中村真一郎『冬』新潮社・1984年(日本文学大賞)
《近親愛・少女愛・少年愛・同性愛と禁忌の愛のなかで生涯を独身で通し無惨に死んだ秋野先生の生と性の秘密。そして私は多彩な女性遍歴の果てに死を考える……。激動の昭和史を背景に、知識人が見た、戦争と平和、性と政治と芸術の全てを描く壮大な全体小説完結!
倉橋由美子氏評
中村真一郎氏の『四季』からこの『冬』に至る四冊の小説を読むと、日本原産ではない型の二十世紀文学が、二十世紀も終はりに近づいた今やうやくその全貌を現したことがわかる。それは、小説とは言葉を音符にして書かれた音楽であるといふ理論にもとづいて実際に書かれて成功した小説で、作者の脳細胞の中に蓄へられた膨大な経験、観念、夢想のすべてが話者を通じて語られたもの、それが精緻を極めた楽譜をなしてゐる。読者はこの楽譜に従って自分の頭の中に音楽をつくりだしていくといふ、他の小説では恐らく求めても得られない楽しみを味はふことができる。それには散文といふ楽譜を読む能力と、およそ音楽を演奏して自らその音楽を聴くための密室の中の時間とが必要であり、その条件を満たす読者に対して、この「冬」は「死」の上を流れていく作者の意識を「生きる」といふ圧倒的な経験を提供する。プルースト楽派の巨匠のみがなしうることである。
人生の冬は生涯の頂上の季節であり、その先に開けるのは幽暗の死の世界である。そしてその雪と氷に閉された空間は、私たちの中世の美の理想であった。この物語の主人公は、よろめく足取りで生から沈黙への廊下を辿りながら、氷花のようにきらめく様々の思念、追憶、夢想ど出合い、永遠の別離の思いをこめて、それらの観念、それらの映像、それらの面影、そして名前のない神の顔を振りあおぐ。彼の背後には別れの曲の旋律が立ち昇り、そしてそれはひと時の華やぎとなる。 著者》
宇野浩二『芥川龍之介 上』中公文庫・1975年
《「芥川はなつかしくてたまらない」――華やかで、しかもさびしかった不世出の鬼才龍之介のおもかげと文学を、限りない友情と厳正な批評態度で描きつくす。》
宇野浩二『芥川龍之介 下』中公文庫・1975年
《「芥川はなつかしくてたまらない」――華やかで、しかもさびしかった不世出の鬼才龍之介のおもかげと文学を、限りない友情と厳正な批評態度で語る。》
西村寿行『瀬戸内殺人海流』角川文庫・1975年
《汚職の疑いをもたれていた男が連れ込みホテルの浴槽で変死。その捜査線上に浮かんだ人妻が失踪して、二週間後、小豆島沖で無惨な溺死体となって発見された。
〈なぜ死んだのだ! なぜ……〉最愛の妻を奪われた夫の狩野はうめいた。激しく襲ってくる怒りの中で彼は、妻の死の真相を究明し、事件の背後にうごめく“影”に復讐することを誓い、まもなく会社を辞めた。そして今……。
非情な悪に立ち向かう男を描き、人間の欲望と執念の深淵に切り込む、著者会心の長編サスペンスミステリー。》
西村寿行『老人と狩りをしない猟犬物語』角川文庫・1983年
《南アルプスの荒涼とした岩山を中心に、ひとりの老猟師が“荒野の王者”と名付ける三頭の獣が棲息していた。
巨大な大鷲、凶猛な巨熊、長大な牙を誇る猪……老猟師は、いつしか全ての王者だちと闘う日が来ると思っていた。が、とりわけ怨敵と考えていたのは、可愛い嫁や孫をはじめ猟犬の“隼”までも鋭爪にかけた巨熊だった。
そんな折、老猟師は一匹の小犬を拾い、二代目“隼”と名付けた。王者たちとの対決の日は刻一刻と近づいてくる……。
最後の闘いに残り少ない生命を燃やす老猟師と、一匹の犬との交流を描き、生命の不思議と哀しさを謳い上げた壮大なドラマ。作家・西村寿行の幻の処女長編であり、原点ともいえる名作。》
川口松太郎『人情馬鹿物語』大衆文学館・1995年
《憧れの女性に着せたい一心で華麗な振袖を精魂こめて縫い上げた職人、自分のために公金を横領した若者の釈放に奔走する遊女、逢瀬の翌日は必ず負ける力士の出世を願って身を引く芸者……ここに描かれるのは、私利を顧みず人間の情に生きた悲しく優しい「人情馬鹿」たちだ。美しい風俗と江戸っ子気質が色濃く残る大正期の東京下町を舞台に、人生の達人が共感と愛惜の思いをこめて綴った名作十二話。》
大佛次郎『霧笛/花火の街』大衆文学館・1996年
《ガス灯揺れる横浜の異人館。ボーイの千代吉は、居留地に巣喰うならず者たちと、酒、賭博、喧嘩に明け暮れていた。そして偶然、ひとりの謎めいた少女に出会う。可憐な外見とはうらはらななまめいた女に千代吉は惹かれていく。無頼な若者の青春の燦きと悲哀を鮮やかにとらえた名作『霧笛』に居留地ならではの哀切な恋物語『花火の街』を併録。開化期の横浜を情趣豊かに描き上げた、大佛文学の真髄!》
収録作品=霧笛/花火の街
豊田有恒『アドベンチャー明治元年』角川文庫・1983年
《時は明治元年、ところは朝鮮半島。
上海を出航したチャイナ号は牙山湾に侵入した。船には、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカと、さまざまな国籍の異人たちと、サムライ刀の使い手で、めっぽう強い長州藩士くずれの矢吹兵馬が乗りあわせていた。
「隠者の国」と呼ばれた国、朝鮮の開国を迫った彼らが工夫した奇妙な手段とは……。
豊田有恒が、異次元、冒険、歴史等バラエテイ豊かなテーマで贈る傑作集。》
収録作品=アドベンチャー明治元年/異次元航路/トンネルを抜けると/ルーツ探し/虚空の柩/最後の楽園/もののけ
豊田有恒『退魔戦記』角川文庫・1976年
《死んだ父が残した日記に、奇妙な事柄が書かれていた。――“脇田家に伝わる古文書〈退魔戦記〉を長男に伝えるべきか否か?”
日記に導かれ、解読した古文書には驚嘆すべき出来事が記されていた! ――蒙古襲来の急を告げる文永の頃、四国伊予の天空に、光り輝く奇怪な天翔ける船が出現した。それに乗っていた未来人は、七百年の時空を超え歴史変革を目指していた。彼らの歴史では、蒙古の世界支配の中で、人々は圧制に苦しんでいるという。二つの歴史の交わる元寇に、未来人と鎌倉武士とが共同作戦を張りめぐらした……。
奇想天外なスケールで描く、著者会心の長編歴史SF!》
豊田有恒『モンゴルの残光』講談社文庫・1977年
《あの強大をほこったモンゴル帝国。もし、日本や西欧への進出が成功裡に終っていたなら……。物語は元が世界を支配するジンギスカン紀元八一一年に始まる。虐げられた白人の怒りは激しい抵抗運動となり、主人公シグルトは白人支配の世界を創るべく、タイムマシンで時を駆ける。彼の眼前を滔々と流れる巨大な歴史の姿を、若々しい筆致で描く著者の処女長篇。》
高階秀爾『ルネッサンスの光と闇―芸術と精神風土』中公文庫・1987年(芸術選奨文部大臣賞)
《人間性の開放と現実世界の肯定という明るい光の部分の裏側に、世界の終りに対する恐れ、死の執念、混乱と破壊への衝動、破滅へのひそかな憧れ、非合理的幻想世界への陶酔といった別の一面を持つルネッサンス……。ボッティチェルリの《春》や、ヴアティカン宮殿の署名の間、メディチ家の礼拝堂といった傑作を輩出したその精神的風土と芸術のからみあいを、多数の挿図とともに明快に説き明かす好著。》
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Talking Heads Stop Making Sense
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