2015年
沖積舎
『ゆめの種』は髙橋みずほ(1957 - )の最新歌集。
まだ四月紫陽花いろのゆうぐれにつややかに葉脈は伸び
ざっくりと網のなかの魚たちの眼にあふれる森の透明
わかさぎのぬめらかなはだにふれてより異なるもののごとくかなしく
窓辺の布にすけてくるものありて電線のほそきつながり
海岸線に沿うてめぐりつ道の辺を猫ゆっくりと影をたずさえ
人型の内なる獣それぞれに目を合わせぬしずかなる間のありぬ
角を曲がれば仰向けて蝉トマト連なる実を越えまた蝉の殻
花立てが倒れていたり花立ての手向けの花に倒されて
ふらふらとありてふらふらとゆき枯れゆくさまの蓮の実の穴
ころころと栗の丸さを網にとらえて秋の色なり
いつよりか日傘の上の蟻影のめぐりめぐりつまた来てすぎつ
箱より糸一本垂れていて風来るときのゆれて また ゆれ
切れば切るほどねばりがでるとテレビのなかで刃物がうごく
地下鉄の曲がりの続くなかに宇宙の暗き不確かさ
ほのかホームの光に二人 すべる円柱から人の湧き出る
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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Helmut Lachenmann, Guero-Samuel Favre-Ensemble intercontemporain
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