2014年
私家版
喜多昭夫(1963 - )がこの7月に出した歌集『君に聞こえないラブソングを僕はいつまでも歌っている』から。
海べりに原発いっぱいあるからにこれからいろいろのことがあるらむ
書いた手がすこし冷たい 教室に別紙のような夕暮れがくる
クロールの息つぎがうまくできなくてスクール水着に申し訳ない
てふてふをてんぷらにして食う夢のあとさきにして同人誌買う
その昔ムーという名の陸(くが)がありやがて沈みぬ失恋をして
金魚にはたくさん種類がありますから最寄りの駅までお越しください
残像があらゆる駅を通過する 手にふれるものみんな大ッ嫌い
誰のものでもない君が牛乳にオレオクッキー浸して食べる
私有地を横切る羚羊の写真 静物 アラン・ロブ=グリエ 夏
プラトンという名の兎を抱きしめてキャベツ畑で翻訳をする
どこにでもいるよといわれ振りむけばどこにもいないそれが彼女だ
渚ゆく僕は何かの一年生 アロハシャツ着て眼帯をして
湯豆腐のかけらのような友がいる 花火製造工場に勤務
正午(まひる)なり 灸鍼専門学校の門くぐりゆく佐川急便
温かく愛にあふれた家がある それは小さな額縁の中
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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"Ludvig van" (1970) Mauricio Kagel
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