今月はあまりややこしいものは読めていない。
調子のいい時に○○新書の類を片端から読みたい気もする。
徳間文庫の古本が何点か入っているが、古本屋で徳間文庫を買う時の基準ははっきりしていて、背表紙の上端に作家のイニシャルを意味する「た」とか「し」とかいった平仮名がでかでかと刷り込まれるようになる前、デザイン改悪以前の、しかも保存のいい本ということである(内容はわりとどうでもいい)。あれは書店員の整理のしやすさのために入れられたらしいのだが、何ともみっともない。集英社文庫その他も大体同じ買い方。
仁木悦子『陽の翳る街』は講談社ノベルズ創刊時のラインナップの一冊だった。
眉村卓『強いられた変身』角川文庫・1988年
《人間は自分が認識できる世界で思考をめぐらし行動する。しかし、突然そこに、まったく認識や理解を超えた非日常が出現したらどうなるのであろうか? 急激な価値観の変化に対応できるであろうか? 刻々と迫り来る“変身”へと貴方を導く――。
狂いはじめるさまざまな認識を見事に描く眉村SF、殊玉のオリジナル短編集7編。》
収録作品=長い夢/気楽なところ/セリョーナ/古い録感/代ってくれ/真面目(まじめ)族/オレンジの旗
ダシール・ハメット『マルタの鷹』創元推理文庫・1961年
《私立探偵サム・スペイドは、若い女からある男の見張りを依頼された。しかし見張りの役を買って出た同僚はその夜、射殺され、続いて問題の男もホテルの正面で惨殺される。事件の口火を切った若い女、彼女を追って東地中海から来た謎の男、ギャング一味の暗躍、――その昔、マルタ島騎士団がスペイン皇帝に献上した純金の鷹の彫像。その血みどろの争奪戦に介入したタフ・ガイ、スペイドの大活躍。推理小説の歴史を通じて最高の地位を要求できる傑作――とヘイクラフトが絶賛するハードボイルド不朽の名編!》
柴野拓美/牧眞司編『柴野拓美SF評論集 理性と自走性―黎明より』 東京創元社・2014年
《「SFとは何か」を問いつづけた生涯
日本SFの黎明期より、星新一をはじめ数多のSF作家や翻訳家・評論家を輩出した、伝説的なSF同人誌〈宇宙塵〉。その編集長であり、小隅黎の筆名で作家・翻訳家としても活躍した柴野拓美が発表した、同人誌・商業誌などの50年に亘る著述を厳選、圧巻の論考と時評・エッセイを集大成し、すべてのSF愛読者に贈る。編者解説=牧眞司》
絓秀実『天皇制の隠語』航思社・2014年
《反資本主義へ!
公共性/市民社会論、新しい社会運動、文学、映画、アート……
さまざまな「運動」は、なぜかくも資本主義に屈してしまうのか。
排外主義が跋扈する現在、これまでの思想・言説を根底から洗いなおし、闘争のあらたな座標軸を描く。
日本資本主義論争からひもとき、日本文芸批評に伏在する「天皇制」をめぐる問題を剔出する表題作(新稿)、
市民社会派に内在する「暴力」の問題をあぶり出す論考(新稿)のほか、23篇のポレミックな論考を所収。
資本制議会主義をこえるために。 》
森万紀子『囚われ』文藝春秋・1989年
《多摩川で渓流釣りをする老人に惹かれる独身中年女性。1977年5月27日にこだわる彼女の孤独な心象空間を活写する、純文学書下ろし長篇。》(「BOOK」データベースより)
《多摩の奥地、K駅で下車して借家へ向う坂道にかかった時、茅秋(ちあき)は立ち止まった。
両側は栗、樫、欅などからなる深い雑木林であるが、此処迄来ると、多摩川の源流に近い渓流の音は一段と高く聞こえてくる。
坂道の先は切り開かれた明るい平地の一区画で、一番奥に建つ茅秋の借家と数軒の平家が点在するだけで、再び生い茂る雑木林の中に分け入りながら、どこ迄も続いて行く。
茅秋は立ち止まったまま息を潜め耳を澄ました。
やはり今日も上空から木々の深部から枝と枝の合間から、自分を二年前の一九七七年五月二十七日の過去に戻す、強い磁力が全身を引いて来る。
錯覚ではない。 〈本文より〉》
塚本邦雄『源氏五十四帖題詠』ちくま学芸文庫・2002年
《歌集『水葬物語』『緑色研究』で戦後文壇に「前衛短歌」の嵐を巻き起こした塚本邦雄が、古典中の古典である『源氏物語』と対決し、対話した異色の書。各帖冒頭に掲げられた創作短歌五十四首は、モダニスムと伝統が融和して、陰翳に富む光と香りを放つ。引き続くエッセイでは、塚本が読み取った源氏物語の「雅宴的」な世界の精髄が語り尽くされる。優雅なる宴というべき王朝の詩歌管絃の儀礼、諸芸道、庭園、植物などに託された「この世に生きる歓びと哀しみ」が塚本流に変奏される。読者は、全く新しい源氏物語観に驚かされるだろう。巻末に、「源氏物語対談」を併録。「全集」未収録作品。》(「BOOK」データベースより)
串田孫一『風の中の詩』集英社文庫・1981年
《小さな旅の道すがらに出会った何気ないできごと……。野の草に、霜枯の山路に、心通じた人々に詩人で登山家の著者が、叡智を湛えた深い洞察と、あたたかい眼指で綴る心のいこいの随筆集。
解説・田中清光》
佐野洋『おとなの匂い』集英社文庫・1986年
《弁護士・猫尾恭介は出張先の浜松で、不思議な魅力を持つ柏木品子と知り合った。品子は、恭介の従兄・陽介が9年前に起こした“未成年者誘拐事件”の被害者だった。何故か彼女は、陽介に会いたいという。恭介は、消息不明であった陽介を探し出し、会う約束をとりつけたが……。巧みな伏線、鮮やかなプロットで、ミステリーファンを堪能させる長篇推理。 解説・大日向謙》
眉村卓『テキュニット』三一書房・1969年
収録作品=信じていたい/コピーライター/泣いたらあかん/影の影/紋章と白服/終りとはじまり/表と裏/エピソード/テキュニット
ヘテロ読誌:大熊宏俊
太田光・中沢新一『憲法九条を世界遺産に』集英社新書・2006年
《実に、日本国憲法とは、一瞬の奇蹟であった。それは無邪気なまでに理想社会の具現を目指したアメリカ人と、敗戦からようやく立ち上がり二度と戦争を起こすまいと固く決意した日本人との、奇蹟の合作というべきものだったのだ。しかし今、日本国憲法、特に九条は次第にその輝きを奪われつつあるように見える。この奇蹟をいかにして遺すべきか、いかにして次世代に伝えていくべきか。お笑い芸人の意地にかけて、芸の中でそれを表現しようとする太田と、その方法論を歴史から引き出そうとする中沢の、稀に見る熱い対論。宮沢賢治を手がかりに交わされた二人の議論の行き着く先は…。 》(「BOOK」データベースより)
塩野米松『鵤工舎の仕事―長泉寺建立記』文藝春秋・2008年
《法隆寺最後の宮大工・西岡棟梁の後継者、小川三夫棟梁が率いる鵤工舎。東北最大規模の寺院本堂建立のために、一流職人のドリームチームが集結。世界最高の技の秘密が初めて明かされる。》(「BOOK」データベースより)
厚香苗『テキヤ稼業のフォークロア』青弓社・2012年
《路上や寺社の境内で商売をしている専業的な露店商である「テキヤ」とはどのような職業であり、ルールや縄張り、集団の性格はどのようなものなのか―。不安定な生業を継続させるために慣行を作り上げ、それを伝統として商いをする彼らの実態に、スカイツリーでにぎわう東京・墨東地区などでの詳細なフィールドワークから迫る貴重な成果。》(「BOOK」データベースより)
テキヤの生き方――『テキヤ稼業のフォークロア』を書いて | 青弓社
フアン・カルロス・オネッティ『屍集めのフンタ』現代企画室・2011年
《南米の某国に設定された架空の小都市、サンタ・マリア。そこに、売春宿を持ち込もうと蠢く人物群、市議会が許可した売春宿設置が気に入らぬ「紳士同盟」などの動き。特異な幻想空間のなかで繰り広げられる、壮大な人間悲喜劇。 》(「BOOK」データベースより)
西村京太郎『終着駅殺人事件』カッパ・ノベルス・1980年(日本推理作家協会賞)
《四月一日の夜、東京上野駅構内で、通商省の役人・安田章が他殺死体で発見された。彼は青森F高校の男女七人の同窓生と、上野発の寝台特急「ゆうづる7号」で、卒業後七年ぶりに郷里へ向かうところであった。次に、運送店社長の川島史郎が深夜の列車内で失踪。さらに青森でも、次つぎに仲間か殺害されていく。上野駅で偶然事件に遭遇した警視庁捜査一課員で青森出身の亀井刑事は、十津川警部とともに捜査を問始するが……。
好調の筆者が書き下ろしたトラベル・ミステリーの野心作。》
《私が「終着駅」という言菓が好きなのは、終着駅が同時に始発駅でもあるからだ。ある人にとって楽しい旅立ちへのスタートである駅が、別の人にとっては、悲しい別れの終着駅になる。だからこそ人々は、終着駅に人生を感じるのだろう。日本で最も終着駅らしいといわれる上野駅のホームにたたずんで、夜行列車の赤いテールライトが夜の闇に消えていくのを見ていると、特にそうした想いにかられてしまう。希望、出会い、あるいは挫折や別れを、ときには犯罪さえ生み出すのが「終着駅」である。
「著者のことば」》
《西村京太郎は、この夏、長年の東京暮らしを捨てて京都へ転居した。京都は昔から憧れの地であったというが、生活の本拠を変えてしまった真の理由は誰も知らない。彼は言葉少なく、大好きなバスに乗って古寺めぐりをしたいという。古都を舞台にした書下ろしミステリーが期待できそうだ。》
吉本隆明『書物の解体学』中公文庫・1981年
《ヘンリー・ミラー、ユング、バタイユなど、欧米の代表的文学者・思想家九人を俎上にのせ、その悪戦苦闘の思想的営為を、時に辛辣かつユーモラスに、時にあたたかく見守りつつ、縦横に論ずる独創的作家論。》
書物の解体学 吉本隆明 講談社
山口昌男『道化的世界』ちくま文庫・1986年
《道化は硬直化した秩序のいたるところに軽快な身振りで登場し、脱臼作用を仕掛けてまわる――さまざまな現実のレヴェルをダイナミックに捉えてゆく感受性や方法論を鍛えるためにこそ、〈道化〉的知のモデルが求められている。縦横無尽の行動力と旺盛な知的好奇心で、70年代以降の知的文化状況に対し挑発者として振るまいつづける著者が、知のあらゆる領域へむけて果敢な展開を示す最初の道化論集。》
仁木悦子『陽の翳る街』講談社ノベルズ・1982年
《書店の独身店主・数々谷浩平、パン・菓子屋の娘・青瀬悠子、推理小説研究に熱中している大学生・高城寺拓、女性雑誌フリーライターの有明留美子。春の夜、四人はどんぐり坂で殺人事件に遭遇した。被害者は化粧品会社社長邸のお手伝いさんで、東京大空襲のさいに社長の母親を助けたが、自分はそれ以降、記憶喪失に陥っていた……。》
《著者のことば
海外のミステリには、一つの小さな地域の住人たちを描いた作品がよくありますミス・アープルもの、ライツヴィルものなど。
この種のものが日本には少いようなので、試みに、小さな街の商店街の人間たちの登場する作品を書いてみました。登場するのは人間たちでも、本当の主人公は、紙くずが舞い、ぬか雨が降り、タ陽が沈む街そのものであるのかもしれません。》
※「ミス・アープル」原文ママ
島田一男『黒い群像』徳間文庫・1986年
《村田部長刑事の帰郷に不審を抱いた東京日報・山さんは、その後を追い岐阜羽島へ向かった。その車中、三ヵ月前、真冬の隅田川に血染めのコートを残して行方を断った贈賄事件の容疑者に酷似した女と隣合わせたが、目を離したすきに女は消えた。しかも同じ時刻、その女のものらしい右脚が発見されたというのだ‥…・(第一話)。
ご存知、特ダネを追って各社激しく鎬を削る、事件記者シリーズ連作集。》
田中光二『ザ・サイキック1』徳間文庫・1988年
《西鎌倉の高台に建つ篠田家。二階にある十二歳の少女・真由の部屋では、家鳴りや不気味な唸り声が続いていた。天井に近い空間からは、輝く水しぶきが滝のように降りかかる。巨大な心霊エネルギーが惹き起こすポルターガイスト現象が、少女を襲っているのだ。やがて少女の口から母親の忌わしい情事の光景が語られた。除霊師・千夏響と竜造寺悟は平手打ちで少女を覚醒させたが……。長篇異次元アドベンチャー。 》
田中光二『ザ・サイキック2』徳間文庫・1988年
《雑誌編集者の雨宮才知子は、取材で精神力学研究の第一人者、生頼百平明和医大教授を訪ねた。小さい頃から自分に異様な能力があることを自覚していた才知子は、教授の研究を手伝うことになった。だが、新宿で拉致された彼女は、大日本神霊会を名乗る右翼の漆原烈山に生頼グループから手を引けと脅迫され、生頼教授も何者かによって轢殺されてしまった。長篇異次元アドベンチャー。》
ザ・サイキック:田中光二 | 本よみうり堂 デジタル
竹下節子『ジャンヌ・ダルク―超異端の聖女』講談社現代新書・1997年
《「正統―異端」の枠組みを超えて、ヨーロッパの心性に影響してきたキリスト教のもう一つの地平「超異端」。その神秘の力を体現した女たちのエネルギー渦巻く中世に現れ、神話的存在となった処女戦士を、あらたな視点で描き出す。》(「BOOK」データベースより)
波多野裕造『物語 アイルランドの歴史』中公新書・1994年
《アイルランドは人口僅か350万余の小国ながら現在、世界各地に住むアイルランド系の人々は七千万を超すといわれる。現大統領メアリー・ロビンソン女史は就任演説で「七千万同胞の代表として」と抱負を語った。紀元前数世紀いらいの古いケルト文化と伝統を継承するこの国は、いま統合ヨーロッパの息吹の中で、新たな飛翔を試みている。本書は五千年に及ぶ民族の哀歓の歴史を跡づけ、北アイルランド問題の本質にも迫ろうとする。》(「BOOK」データベースより)
吉行淳之介『恐怖対談』新潮文庫・1980年
《対談の名手吉行淳之介が面白可笑しく語り合ううちに恐怖が自ずと滲みでる――。コワイを眼をしてカウンターの奥から睨んでいた半村良、女は生きている方がコワイのだという渡辺淳一、コワイ顔して思いがけない映画の解釈をする淀川長治をはじめ、長部日出雄、立原正秋、北杜夫、筒井康隆、殿山泰司、山口瞳、今東光等、10人と語り合う絶妙の対談集。和田誠のイラスト20点挿入。》
対談者=半村良/渡辺淳一/長部日出雄/立原正秋/淀川長治/北杜夫/筒井康隆/殿山泰司/山口瞳/今東光
吉行淳之介『恐怖・恐怖対談』新潮文庫・1983年
《吉行淳之介が博識家10人のゲストと展開する軽妙で知的なおしゃべり。豚に睨まれ震えた開高健、今一番酢が怖いという佐野洋、枕から出て来る手に首を締められた色川武大をはじめ、五味康祐、生島治郎、野坂昭如、斎藤茂太、小沢昭一、黒田征太郎、井上ひさし等と、男の人生の深遠微妙な機微を語り合う爆笑と戦慄の対談集。男は怯えながら生きている……和田誠のイラスト20点神人。》
対談者=色川武大/佐野洋/五味康祐/生島治郎/野坂昭如/斎藤茂太/黒田征太郎/開高健/井上ひさし
吉行淳之介『恐・恐・恐怖対談』新潮文庫・1986年
《刺青の一つもありそうな顔立ちをした倉本聰さんが鬱病にかかった話。女の子が喜んで脱ぐ篠山紀信さんの説得術。明治座の芝居で観客を本当に笑殺してしまった森繁久彌さんの熱演……。他に、池田満寿夫、阿刀田高、北杜夫、小松左京、丸谷才一、小田島雄志、山藤章二の名だたる諸氏と達人吉行淳之介がかわすスリリングでウィットあふれる男の会話集。和山誠のイラスト20点挿入。》
対談者=池田満寿夫/阿刀田高/倉本聰/篠山紀信/北杜夫/小松左京/丸谷才一/森繁久彌/小田島雄志/山藤章二
森村誠一『死媒蝶』講談社文庫・1981年
《マンションの10階から突き落された男の姿が忽然と消えた夜、同じマンションの3階では一組の男女の不審な心中事件が起きていた。この二つの脈絡のない奇怪な事件が、ある一点で交錯するとき、底知れぬ深さと広がりをもつ犯罪の構図が浮かび上ってくる。死体消滅の謎を追いながら、荒廃する現代社会を厳しく告発、本格推理に社会性を融合させた会心作。》
柳田邦男『大いなる決断』講談社文庫・1980年
《貧困に喘ぐ敗戦国日本は、瞬く間に、世界有数の経済大国に成長した。だが、その過程には、経済人の苦悩と先見に満ちた勇気ある〈決断〉があった。石油エネルギーヘの転換。電化器具や合成繊維、自動車の普及。国民生活の向上をめざして、日夜、研讃がつまれた。戦後日本を復興させた経済人の苦闘の記録を描いた力作。》
長谷川堯『都市廻廊―あるいは建築の中世主義』中公文庫・1985年(毎日出版文化賞)
《明治末から大正にかけての日本近代建築の中に〈中世主義〉の水脈を見いだし、その後の近代都市の機能主義が圧殺してしまったもうひとつの都市の可能性とユートピアを開示する。毎日出版文化賞受賞作。》
Yu・ロトマン『文学と文化記号論』岩波現代選書・1979年
《20世紀後半、言語学理論の展開の上に社会体制の違いを超えて出現した。文化一般についての理論たる記号論。本書は、現代ソヴィエトの代表的記号論者であり世界的な影響力をもつ著者の基本的立場を、もっともよく理解できるようにその諸論稿を編集した。とくに文学テキスト研究の科学的前提としての記号論的方法を、プーシキンやパステルナークの作品の分析において具体的に示すことにより、文化記号論の本質とその有効性を見事に浮彫する。》
栗本薫『セイレーン』ハヤカワ文庫・1982年
《2586年、高は《彼女》にはじめて出会った。それはスペースマンたちの伝説として語られた魔女セイレーン。そして1979年、《セーラ》は歌謡界に彗星のようにデビューを飾った。彼女はそれまでのありとあらゆる記録を書きかえつつ、まさに異常としかいえぬ人気を集めていったが……。 しかし、同時に発生する狂気に駆られた人々の起こす事件は何を暗示するのか!? 表題作はか、人類のあり方をSF的なシチュエーションにとらえ直して描いた「Run with the Wolf」を併録、江戸川乱歩賞受賞でミステリ界に衝撃的な登場をした著者のSF第1作品集!》
収録作品=セイレーン/Run with the Wolf
フレッド・ホイル『10月1日では遅すぎる』ハヤカワ文庫・1976年
《過去、現在、そして未来へと不断に流れゆくべき“時”が反逆を開始した。平穏に続くかにみえた人人の日常は崩壊し、やがて地上に異形の新世界が出現する。あらゆる時代が同時に地球上に存在し、古代ギリシャから現代ヨーロッパ、そしていつとも知れぬ遠い未来のソ連を行き来することまでもが可能となったのだった! 天文学者としても名高い作者が、みずからの野心的な時間・意識論をもって時間テーマに挑戦した長篇SF!》
アイザック・アシモフ『われはロボット』ハヤカワ文庫・1983年
《1996年に製作され、ウェストン家で八歳の少女グローリアの最愛の友となった子守り用ロボットのロビイ、第二次水星探険で活躍したSPD13号、テレパシイ能力を持つRB34号など……たんなる機械にすぎなかったロボットから、人間そっくりの行動と考え方をする優秀なロボットまで、さまざまなロボットの開発史を、〈ロボットエ学三原則〉の生みの親である巨匠アシモフが、ユーモアと論理を駆使して描きだす傑作短篇集!》
吉行淳之介『鬱の一年』角川文庫・1978年
《あじけなきもの。晴雨・湿度の変化に鈍感な男。オナニーする女。水道の蛇口からジャーッと迸るような青春。自称美人。勧善懲悪風の童話。相手の名前を書き間違えて平然としている文学志望の青年。麻雀をしたがる老婆…。
『枕草子』風に本書の内容を要約してみると、以上のようになる。
著者の感性は一分の狂いもない楽器のようであり、全身の細胞が外界の条件に敏感に反応する。その軀はときに台風予報器にさえ変化する。そして、著者は自らの過敏な体質が外側からの圧力に耐えるのを、嵐をやり過ごすようにして冷静に眺めている。
『鬱の一年』は、著者の本文庫の中で9冊めのエッセイ集であるが、平明達意の文章は、まさしく至芸の域にあることをあらためて感じさせる。》
都筑道夫『悪意銀行』角川文庫・1979年
《銀座の裏通りにある古びたビルの一室で、二人の男が何やら言い争いをしている。名前は近藤と土方。どちらもまともでないことだけに頭を働かせるよろず揉めごと引きうけ業、モダンにいえば、トラブル・コンサルタントなどと称している。
その土方が新たに“悪意銀行”なる奇妙な銀行を設立した。この銀行は、すし屋の勘定のごまかし方でも、銀行強盗の計画でも、およそ悪意に満ちたアイディアならなんでも預る。これが預金。この預金は現金持参でプランを活用したいという人に融資される。
――そんな時に、地方都市の選挙戦をめぐって、現市長を暗殺したいという融資希望者があらわれたのだ!
近藤と土方のコンビが、敵になり味方になりして大活躍を展開する、笑いの長編推理。「紙の罠」の姉妹編。》
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