三月は、木版画家・柄澤齊の二作目の小説『黒富士』が予想を超える絶品だった。去年のうちに読んでいればツイッター文学賞国内部門は間違いなくこれに投票したものを。
川端康成『川のある下町の話』新潮文庫・1958年
《恵まれぬ大衆の生活の重みと苦しみが渦巻いて虚無の雑音によどむ庶民の街――これは、そこに住む貧しい医学生、清純な女学生、薄幸の美少女、知性の優れた女医、キャバレーの孤独な青年など、善意に満たされた人々の人間讃歌であり、また人間の脆さ、哀れさを奏でて死を思わせる虚無の歌でもある。頽廃と死をつきぬける青春の愛の姿に、いのちの美しさの極致を描く。》
内田樹『他者と死者―ラカンによるレヴィナス』文春文庫・2011年
《哲学史に屹立する巨人、ジャック・ラカンとエマニュエル・レヴィナス。彼らの名を並記した研究書を見たとたん、“なるほど、この二人は「そういう関係」だったのか、と不意に腑に落ちた”。「難解なもの」に「さらに難解なもの」を重ねて抽出される思想の真実とは何か。著者のライフワークたる「レヴィナス論」第二弾。》(「BOOK」データベースより)
宮本常一『日本の宿』八坂書房・2006年
《なぜ人は旅をするようになったのか。それにつれて日本の宿はどのように発達してきたのか。宿の起こりから、庶民の宿・商人宿・流人の宿・信者の宿・本陣・旅籠・温泉宿・駅前旅館、さらにはホテル・下宿・寄宿舎まで、それぞれの宿が持つ機能や果たしてきた役割を説き、古代から現代までの旅のすがたと、日本の宿の歴史をこの一冊に描く。》(「BOOK」データベースより)
赤江瀑『十二宮の夜』講談社・1984年
収録作品=春の鬣/奏でる艀/驕児/火器なれば/夜光杯の雫/白骨の夏/桃源/闘牛場は影/十二宮の夜
柄澤齊『黒富士』新潮社・2013年
《亡父の預かりものを背に蓑太は富士山の北麓をめざしていた。届け先は霊園を営む書家の黒戸彷尊。その途上、妖しい者達に出遭い、宿縁の糸が解かれていく。ゴミ、群発地震、レクイエム…比類なき問題作。》(「BOOK」データベースより)
柄澤齊『黒富士』|書評/対談|新潮社
中条省平/富士を舞台に描く現代の黙示録(アポカリプス・ナウ)(波2014年1月号)
ロジャー・ペンローズ『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』新潮社・2014年
《宇宙は永遠に循環している―あのホーキング博士も一目置く天才物理学者が、ついにビッグバンの謎を解き明かす。驚愕の最新宇宙論! 》(「BOOK」データベースより)
杉本徹『ルウ、ルウ』思潮社・2014年
《閉店後のスーパーの前に 急停止した、タクシーのドアの奥に くずれてゆく砂漠を、ぼんやりとみた(「シベリアン・スカイ」より) 17篇の“窓”のはて、かけがえのない都市の鼓動を聴く−。第3詩集。》【「TRC MARC」の商品解説】
東海林さだお『どら焼きの丸かじり』朝日新聞出版・2009年
《のんびり屋さんのどら焼きに潜む、自覚なきチラリズム。またしても押し寄せる諸問題に、今日もキゼンと立ち向かう!シリーズ最新刊、天衣無縫の食通エッセイ。とうとう第30弾。》(「BOOK」データベースより)
半藤一利・保阪正康『そして、メディアは日本を戦争に導いた』東洋経済新報社・2013年
《軍部の圧力に屈したのではなく、部数拡大のため自ら戦争を煽った新聞。ひとりよがりな正義にとりつかれ、なだれをうって破局へ突き進んだ国民…。昭和の大転換期の真相を明らかにし、時代状況が驚くほど似てきた“現在”に警鐘を鳴らす。》(「BOOK」データベースより)
レーモン・クノー『リモンの子供たち』水声社・2013年
《実在の「狂人」たちをテーマに『不正確科学百科事典』を執筆するシャンベルナックとブルジョアの一家、リモン家。二つの世界が交錯し、突飛な「狂人」たちの言行が、破局へ向かう時代の空気を照らし出す。人間の愚かさを根源的に問う、クノーの知られざる傑作。》(「BOOK」データベースより)
スーザン・ソンタグ『良心の領界』NTT出版・2004年
《スーザン・ソンタグを囲むシンポジウム「この時代に想う-共感と相克」を中心に、『ニューヨーク・タイムズ』や講演会で発表された最新テクストをまとめる。2002年刊「この時代に想うテロへの眼差し」の続編。》(「MARC」データベースより)
清水一行『相場師』徳間文庫・2006年
《不況はますます深刻化、大企業の倒産が相次ぐなか、六十年に一度の大相場がやってくることを確信した男がいた。北浜の駒田周平だ。相場師三十年の勘と誇りにかけて金集めに奔走する周平だったが…!?血みどろの栄光と挫折を描く傑作長篇。》(「BOOK」データベースより)
若林幹夫『郊外の社会学―現代を生きる形』ちくま新書・2007年
《団地、ニュータウン、新興住宅地―。戦後日本の「郊外」と呼ばれる社会は、高度経済成長と相関し、都市に付属する空間として作り出された場所である。そこでは住居やライフスタイルまでが商品として購入され、住み続けることのなかにブランド志向が伴われてきた。こうした「郊外」は現代人の宿命でありながらも、その重層性と移ろいやすさゆえに、そこに生きる人びとの欲望や社会構造は、これまで十分に描き出されてこなかった。この本では、郊外生活者としての自身の経験と都市社会学の知見を結びながら、郊外という場所を生み出したメカニズムを考察する。郊外を生きる人びとの生に言葉を与える試み。》(「BOOK」データベースより)
大西巨人『五里霧』講談社文芸文庫・2005年
《2.26事件、戦争、召集、労働運動、差別、左翼文学、東欧民主化、フェミニズム、エイズ……。1931年から1992年までの、ある年ある月の出来事を手懸りに、当時の時代相を鋭く抉り、人間の生き方を問い直す12の物語で構成された短篇オムニバス「十二か月物語」。俗情との結託を排し、厳格で論理的な文体により、時代の流れと生の意味の根源へと遡行する意欲作。》
斎藤栄『九州周遊殺人事件』徳間文庫・1983年
《横浜に銀行強盗事件発生! 一味と思われる男の死体が新幹線の中で発見された。
由利桂介は一匹狼の私立探偵だが、奇妙な依頼を受け、指定された新幹線に乗るが、依頼者はあらわれず、殺人の被疑者にされてしまった。一方美人スリの桐子は遠山産業の社長に接近、新婚気取りで九州周遊に旅立つが、その遠山がやがて怪死をとげる。
桐子と旧知の桂介は、真犯人を求め、長崎-熊本-大分へと、逃亡と追跡の活劇推理。》
オルテガ『大衆の反逆』中公クラシックス・2002年
《近代化の行きつく先に、必ずや「大衆人」の社会が到来することを予言したスペインの哲学者の代表作。「大衆人」の恐るべき無道徳性を鋭く分析し、人間の生の全体的建て直しを説く。》
田辺聖子『私の大阪八景』岩波現代文庫・2000年
《トキコは大阪下町に住む小学六年生。ちょっとドジだが、天皇陛下のためなら命もいらないという忠臣ぶりである。そんな女の子がやがて女学生となり、戦後陛下の巡行を梅田で迎えるまでの青春記。実家の写真館に出入りする人々、路地裏の子供の世界、女学生のにぎやかなおしゃべり…。女の子と戦争の“相愛図”が軽妙な大阪弁で鮮やかに、かつ切なくよみがえる自伝的小説の佳作。》(「BOOK」データベースより)
谷口智行『熊野、魂の系譜―歌びとたちに描かれた熊野』書肆アルス・2014年
《隠国熊野は表現者の聖地、シャングリラである。本書によってまた一歩、“魂の地”熊野が近くなった。》(「BOOK」データベースより)
ヤンソン『たのしいムーミン一家』講談社文庫・1978年
《長い冬眠からさめたムーミントロールたちが、山の頂上で黒いぼうしを発見。ところが、それはものの形をかえてしまう魔法のぼうしだったことから、次々にふしぎな事件がおこる。》
遠藤周作『ぐうたら生活入門』角川文庫・1971年
《巷の俗塵を嫌って東都を離れること八里、柿生の山里に庵を結ぶ狐狸庵山人が、つれづれなるままに筆をとった〈ぐうたら人生論〉。“人生ケチに徹すべし”“嫌がらせのすすめ”“人生とは退屈なり”“嫁いじめを復活せよ”……山人一流の機知と諧謔のうちに鋭い人間洞察と、真実に謙虚に生きることへのすすめをこめたユーモアエッセイ。》
橋本治『これで古典がよくわかる』ちくま文庫・2001年
《あまりにも多くの人たちが日本の古典とは遠いところにいると気づかされた著者は、『枕草子』『源氏物語』などの古典の現代語訳をはじめた。「古典とはこんなに面白い」「古典はけっして裏切らない」ことを知ってほしいのだ。どうすれば古典が「わかる」ようになるかを具体例を挙げ、独特な語り口で興味深く教授する最良の入門書。》(「BOOK」データベースより)
ジャン=クレ・マルタン『フェルメールとスピノザ―〈永遠〉の公式』以文社・2011年
《不世出の画家・フェルメールと稀代の哲学者・スピノザとの出会い、そして〈永遠〉の創造。二人の秘められた関係、そしてその世界観の共通性に肉迫する。ジル・ドゥルーズの愛弟子であるジャン=クレ・マルタンが放つ、極上の思想サスペンス。》
北上次郎×大森望『読むのが怖い!―2000年代のエンタメ本200冊徹底ガイド』ロッキング・オン・2005年
《笑えて怖い、究極のエンタメ・ブック・ガイド!書評界の雄ふたりが、「何をどう読む?」で大激論。》(「BOOK」データベースより)
中田力『日本古代史を科学する』PHP新書・2012年
《医者であり、歴史に造詣の深い著者が自然科学者の「眼」で、日本古代の謎解きに挑む。まずは「魏志倭人伝」から邪馬台国がどこにあったか、その場所を推理する。次に、日本最古の歴史書といわれる『古事記』『日本書紀』を、「記紀」の作者たちは当時の「至高の知識人」で、神話や国造りの物語にも意図的なメッセージが隠されているとして、読み解いていく。予断を排除し、科学者としての推理力から導き出したものは、想像を絶する大胆な結論であった。東アジアを舞台に壮大なスケールで、心躍る歴史のドラマが展開される。》(「BOOK」データベースより)
シャルル・フーリエ『増補新版 愛の新世界』作品社・2013年
《そのあまりの尖鋭さ故に長らく封印されていた幻の奇書!旧版を増補し、草稿ノートと照合して厳密に校訂し、新たな相貌を現わす。稀代の幻視者フーリエが描く、愛と食のユートピア! 》(「BOOK」データベースより)
小林久三『2月30日の恋人たち』講談社ノベルズ・1982年
《女子大生の杏子が身も心も捧げつくした恋人・松井義明が仙台で焼身自殺をした。死因に疑いを持つ杏子が愛車を駆って現場に向う途中、「2月30日午後まで待て」との奇妙な伝言があった。そしてクルマのトランクには死体が……。訪れることのない2月30日の謎を追って、愛しあう男女が織りなす長編カーミステリー。》
《著者のことば
二月三十日という日は、カレンダーにはない日である。永遠に、カレンダーには記載されない日付であるが、愛し合う男女のなかには、永遠におとずれることのない日をめざして愛を交歓し合っているカップルもあるのではないか。それだけに、二人の愛は、切実で、よりロマンチックなものになるのだろう。そんな愛の姿を、推理小説の形で書いてみた…。》
福嶋亮大『復興文化論―日本的創造の系譜』青土社・2013年
《日本文化に創造性が満ち溢れるのはどういう時期なのか―。復興期のエネルギーがほとばしり、美と力が鮮やかに結晶化するとき、日本人の真の文化的冒険は開始される。“戦後”の活気溢れる表現の系譜に、いま気鋭の批評家が迫る。瑞々しい視線からつむがれる新しい文明の自画像。紋切り型の「無常観」を突き抜ける大胆不敵な日本文化論。》(「BOOK」データベースより)
書評:復興文化論―日本的創造の系譜 [著]福嶋亮大 - 田中優子(法政大学教授・近世比較文化) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト
ジョン・ブラナー編『ザ・ベスト・オブ・P・K・ディックⅠ』サンリオSF文庫・1983年
《初めに、ブラナーに語ってもらおう。
「もし、もっと大ぜいの人がディックの作品を読めば、わたしがああいう世界に住まなくてすむ可能性が、それだけ強くなるのではなかろうか……」
というわけで、合わせて700ページに及ぶ長大な『ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック』をおおくりする。本書は生前刊行された短編集の中で決定版的なものと高く評価されている。また、巻末にはディック自身の各作品に対するコメントを収録。
第Ⅰ巻には、1952年にプラネット・ストリーズ誌に掲載された処女短編「彼処にウーブ横たわりて」、初期の傑作中編「変種第二号」ほか本邦初訳の「報酬」「パーキイ・パットの日」など10編を収録。いずれも、アイデアの冴えと独特の強烈なサスペンスによって、短編の名手としてのディックの名前を高からしめた傑作ばかり集められた。》
収録作品=彼処にウーブ横たわりて/ルーグ/変種第二号/報酬/贋者/植民地/消耗員/パーキイ・パットの日/薄明の朝食/フォスター、おまえ、死んでるところだぞ
ジョン・ブラナー編『ザ・ベスト・オブ・P・K・ディックⅡ』サンリオSF文庫・1983年
《「ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック』第Ⅱ巻には、第Ⅰ巻に引きつづき、50年代の傑作短編に加えて、60年代、70年代とディックの制作の主流が長編に移行していった時代の数少ない代表的な短編が集められた。
収録作品は、本邦初訳の「自動工場」「父祖の信仰」ほか、すでに世評高い「電気蟻」「時間飛行士へのささやかな贈物」など9編。
さらに巻末には、ディック自身によるコメント「著者による追想」が付けられている。これは、ディック解読に不可欠な文献である。例えば――
「わたし自身の長編の大半は、初期の短編を発展させたか、いくつかの短編を融合したものである。その胚芽は短編の中にあり、ごくリアルな意昧で、それが本当の蒸留液なのだ。そして、わたしの最高のアイデアの中のいくつか、わたしにとって最も貴重なものは、とうとう長編に書きのばすことができなかった」》
収録作品=おとうさんみたいなもの/アフター・サーヴィス/自動工場/人間らしさ/ベニー・セモリがいなかったら/おお!ブローベルとなりて/父祖の信仰/電気蟻/時間飛行士へのささやかな贈物
D・G・コンプトン『人生ゲーム』サンリオSF文庫・1984年
《1983年6月10日に初めて空から降ってきた、塵状で、無毒性の核分裂物質〈月塵(ムーン・ドリフト)〉によって、地球は肥沃な大地となり、労働は週3日以内に制限された。完全に地球上の物質とは異なった、すぐれた無機質の肥料〈月塵〉の代償とでもいうように、2年後から〈消滅〉が始まった。突如美しいコーラスの声が響き、バラのかぐわしい香りが広まった後で、年齢、性別、階級にかかわりなく、人間が消えていく……。
保険会社の調査員ウォリングフォード氏は、昨夜死んだばかりの作家トレンチャードの死体を確認するために、トレンチャード邸に出むいていた。美しい未亡人に強く惹きつけられながら、事務的な手続きを進めているとき、またしてもあの甘味な〈歌声〉が聞こえてくる……。
卓抜したSF的アイデアと明確な構成によって、SFに新たなる可能性を提示した、D・G・コンプトンの最新傑作長編。》
ロバート・シルヴァーバーグ『大地への下降』サンリオSF文庫・1978年
《結局、ガンダーセンは戻ってきた、かつて地球行政官として滞在したことのある惑星ベルサゴールヘ。五個の月が空にかかり、奇怪な植物が密生するこの惑星は、地球人が廃棄して以来、ニルドーロールが支配している。
やがて彼は、ニルドーロール・キャンプ地ヘ行き、最重罪人のお尋ね者になっているカレンを連れ戻す約束と引きかえに、やむにやまれぬほど彼をとらえている北の霧の国へ出発する許しを得る。途中、今もこの世界に残っているかつての仲間と出会う……廃墟の中で寄生虫が巣喰って死に瀕している男女、昔の恋人シーナ、〈再生〉に失敗して見るも恐ろしい姿に変っていたクルツ……やがてガンダーセンは幾たびもの生を約束する〈再生〉儀式を受けるべく霧の国へと足を踏みいれる。生と死の遊戯を原色豊かな黙示録的輪廻思想に塗り込めたニュー・シルヴァーバーグの面目躍如たる傑作!》
筒井康隆『あるいは酒でいっぱいの海』集英社文庫・1979年
《化学実験中、おれの作ったとんでもない薬を、父は海へ落してしまったらしい。海全体が、ぼこぼこと沸き返った。 016がC12になればどうなるか!? C2H50H……酒だ! 世界中の海が酒になっちまう。やがて連鎖反応を起して、川をのぼり、湖に沼に、さらには貯水池に……。もう無茶苦茶だ! ブラック・ユーモアの鬼才の原点を示す短編傑作集。
解説・山野浩一》
収録作品=あるいは酒でいっぱいの海/消失/鏡よ鏡/いいえ/法外な税金/女の年齢/ケンタウルスの殺人/トンネル現象/九十年安保の全学連/代用女房始末/スパイ/妄想因子/怪段/陸族館/給水塔の幽霊/フォーク・シンガー/アル中の嘆き/電話魔/みすていく・ざ・あどれす/タイム・カメラ/体臭/善猫メダル/逆流/前世/タイム・マシン/脱ぐ/二元論の家/無限効果/底流/睡魔のいる夏/『ケンタウルスの殺人』解決篇
筒井康隆『国境線は遠かった』集英社文庫・1978年
《「わたしを慰めて」しのぶちゃんこと、ヌートリア国王第六夫人の誘惑は強烈だった。おれは脱いだ背広を入れようと、衣裳戸棚を開け驚天した! 中は南国の太陽がギラつくアラビアの砂漠地帯――。おれはあわてて戸を閉めたが、鍵穴から二人の裸を王様に覗かれたらしい。轟音と共に戸がはじけとび‥…・。ドタバタ・ナンセンスの鬼才が描く表題作ほか六篇を収録。 解説・稲葉明雄》
収録作品=穴/夜を走る/たぬきの方程式/欠陥バスの突撃/ビタミン/フル・ネルソン/国境線は遠かった
斎藤栄『水の魔法陣(上)』集英社文庫・1983年
《分譲マンションの水道の蛇口から異臭とともに人の髪の毛が……、つづいて受水槽内に若い女性の腐乱死体が発見された。水問題に取り組んでいた、毎朝新聞の梶三郎は、その直後に起きた仲谷淳一医師の娘の誘拐事件との関連を直感、独自の調査を開始する。相次いで誘拐事件の関係者に失踪・変死が起き、事件は複雑な謎を深めてゆく。推理小説のあらゆる面白さを盛り込んだ本格長編の上巻。》
斎藤栄『水の魔法陣(下)』集英社文庫・1983年
《少女誘拐事件の最大容疑者・大石の変死現場にも、不審な行動が明るみに出た大沼看護婦の殺害現場にも雛罌粟の花束が残されていた。少女誘拐と謎の花束とは何を示唆しているのか? 一方受水槽で発見された女性の身元が判明、捜査員は意外な人物の影に遭遇する。二つの怪事件は、様々な人間の運命を弄びながら、悲劇の終局をむかえる…。
解説・権田萬治》
水上勉『冬の光景』角川文庫・1983年
《「文学」への夢を断ちきれない22歳の「私」は上京後、同じアパートに住む年上の女とずるずると同棲レやがて、子どもができる。
「父親」としての自覚もなく、貧困、肺疾という重い現実にとりまかれている無力な「私」は、母子との生活にもなじめず、煩悶をくり返し、破局をむかえる。
子どもは他家に貰われ、「私」の手には一枚の召集令状が届いていた。
昭和17-20年にかけて、第二次大戦中の暗い世相を背景に、人生の葛藤と苦悩を赤裸々に描いた自伝的傑作長編小説。》
広瀬仁紀『狂騰銘柄』角川文庫・1984年
《ついに新しい制癌剤完成か! 12月もおしつまった頃、証券会社の店頭の客たちの間で、妙な噂が飛びかいはじめた。噂から弾みのついた問題の大同化学製薬の株価はじりじりと上昇を始めたが……。
暗躍する証券会社の男たち。甘い汁に群がる大物政治家。製薬界に多大な影響力を持つ医学部教授の黒い欲望。株価が頂点に達した時、最後の逆転劇が!! 医学界、証券界、製薬界に生きる男たちの生態を鋭く描く長編経済小説。》
都筑道夫『七十五羽の烏』角川文庫・1980年
《朝から晩まで働くことは人間最大の悪癖と思っている桁はずれのなまけもの物部太郎。彼は、ものぐさ太郎の末裔と信じているが、金儲けの天才の父親は遊んでいるのをゆるしてくれない。そこで、働いているように見えて、遊んでいられる商売を、と“難題よろず嘔決業”の看板をかかげている片岡直次郎に依頼した。そして――身上調査など面倒なことは一切ひきうけない探偵事務所を開くことになった。心霊現象や幽霊に悩まされている人の原因を探り、しずめるのが専門だ。料金はとびぬけて高いし、客は誰もこなかった。
そこへ、平将門の娘・滝夜叉姫の怨霊に殺されると、美貌の女性がおとずれたのだ……。
おかしな名探偵・物部太郎と片岡直次郎のコンビが謎に挑む本格長編推理。》
都筑道夫『最長不倒距離』角川文庫・1980年
《ものぐさ太郎の末裔と信じている、桁はずれのなまけもの物部太郎。ただ遊んでいるのをゆるしてくれない金儲けの天才の父親をだますため、片岡直次郎とコンビを組んで探偵事務所を開設した。客がこないように、心霊現象や幽霊に悩む人専門で、料金はとびぬけて高い。
だが、期待に反してもの好きな依頼者が、またまたあらわれた。
幽霊騒ぎでうけていたスキー宿の幽霊が出なくなったというのだ。現地に出かけた二人の前には、吹雪に閉ざされた宿の野天風呂で、幽霊どころか、女性の全裸死体が……。
おかしな名探偵・物部太郎と片岡直次郎が大活躍。シリーズ第2弾!》
フリオ・コルタサル『対岸』水声社・2014年
《ボルヘスと並ぶアルゼンチン代表作家による幻の処女短編集。怪奇・幻想的な作品からSF的想像力を遺憾なく発揮した作品まで、フィクションと現実のあいだで戯れる珠玉の13編。短編小説というジャンルとテーマについて持論を披瀝した貴重な講演「短編小説の諸相」もあわせて収録。「剽窃と翻訳」「ガブリエル・メドラーノの物語」「天文学序説」の三部構成。》(「BOOK」データベースより)
収録作品=吸血鬼の息子/大きくなる手/電話して、デリア/レミの深い午睡/パズル/夜の帰還/魔女/転居/遠い鏡/天体間対称/星の清掃部隊/海洋学短講/手の休憩所/短編小説の諸相
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Daniil Shafran - Chopin - Cello Sonata in G minor, Op 65
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