「俳句」2012年3月号が、東日本大震災を受けた特集「自然を詠む、人間を詠む」というのを組んでいて、私もアンケートに答えているので送られてきた。
新鋭俳人20句競詠には、冨田拓也と野口る理が登場。
花八つ手思考は不意にひらかれぬ 冨田拓也
最近は都市叙景的な句が増えているようだが、これは河原枇杷男などにも擬せられた従来の作風の発展のようでありながらも、沈潜・求心よりは開放へ向かっており、観念性や啓示性を帯びながらも安らかな姿の句。
ゆふべは星けふは春雷みせるまど 野口る理
うつとりと海胆の転がる社会かな
こちらは能動的な奇妙な「まど」との交歓、海胆がやすやすと媒介してしまう「うつとりと」の満ち足りた官能と「社会」の関係性との出会いというふうに、楽な呼吸のなかにどこかヘンな世界が立ち上がっていて楽しい。
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小川軽舟さんが連載「ここが知りたい軽舟の俳句入門」で21世紀の俳人の句として私の《人類に空爆のある雑煮かな》も挙げてくださっていて、アメリカの9・11テロを受け止めた作と取られていたが、句集では特に前書きも付けなかったものの、この句は2009年の週刊俳句の新年詠に出したもので、直接にはリアルタイムで進行していたガザ侵攻の衝撃から生まれている。
あと拙句関連ではアンケートの「この一年で心に残った一句」に相子智恵さんが《テラベクレルの霾る我が家の瓦礫を食へ》を挙げてくれて、他に高山れおなさんが「今月の10句」で《Eichmann(あいひまん)ノ後(ノチ)ニシテ物(モノ)ヲオモ思ハザリ》に行き届いた解説を加えてくれている。ありがとうございます。
作品8句欄に、《ひんがしに米を送りて虔めり 柿本多映》という句がある。面識はないにもかかわらず、私も震災後、既に何度か柿本さんから米を送っていただいた。私だけではなく、人から聞いたところでは、何人もをそうして支援されているらしい。
そうした事情なしで句だけを見たら、また印象も違ったのかもしれないのだが、送っていただいた一人として、それも離れたまま誌面を通してこの句に出会うと、この「虔めり」が、遠くからの恩寵のような光を帯びて感じられる。
アンケート欄では鴇田智哉さんが「いま大切にしたい季語」に、いきなり「玉葱」を挙げているのが目を引いた。
震災の衝撃とはあまり関係がなさそうだし、これはどこから出てきたのだろう?
(なおこのアンケートは回答者の年齢順に並んでいて生年と所属誌が付されているのだが、居住している都道府県の情報もあると、どのくらいの距離感で震災を迎えたかの見当もつけやすくなったかと思う。)
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Art Of Noise - Moments In Love
コメント
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