閑中俳句日記(別館) -関悦史-
日々つれづれの中、目にした句集などについて取り上げていきます。
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2010年5 月20日 (木)
「小熊座」2010年5月号
「小熊座」2010年5月号から。
斑雪野は熱きものなり夜殊に 高野ムツオ
わが拠点海溝にあり春の月
秘してこそ龍宮はあり藪椿
桑刻みをり毛蚕といふ混沌に 阿部菁女
風花に買ひし真いかの一夜干し 大澤保子
春キャベツ一個と共に遺されし 森 黄耿
雲ひとつなき雪嶺は祖父である 秋元幸治
遠雪崩ニッポニアニッポン匂うごと 渡辺誠一郎
座蒲団に指抜きひとつ鳥帰る 永野シン
マンモスは象より小さし朝寝せん 我妻民雄
啓蟄のH型鋼顕なり 関根かな
阿部完のクランケだといふ蛙かな
言うまでもあるまいが「阿部完」は俳人・医師の阿部完市、「クランケ」は患者のこと。
松島のナルシスの影映す春 越乃宇良
「円錐」第45号
「円錐」第45号(2010年夏)から。
特集は
山田耕司句集『大風呂敷』
。
水鏡過ぎゆくものを昭和とす 味元昭次
勾玉のような婆棲む軒つらら
箸使う母を眺めて春の暮
菊人形の赤白黄の立ち揺るる 江川一枝
物皆に秋の影在り箱の中
老猫の日永百たび目つむれり
春愁やワインを寝かす壁の穴 小倉 紫
ひきがへる侯爵邸を出るところ 栗林 浩
絨毯の擦れあと著き懺悔台
少年の手に生みたて卵鳥雲に 佐藤獅子夫
暖炉燃ゆ魑魅魍魎の館かな 荒井みづえ
見せあへばただの胸なり笊豆腐 山田耕司
雪崩れけり目薬さすに口を開け
燃え崩る榾あり人に喪志あり 澤 好摩
きみのてがみのうすきのりしろ春一番 大和まな
肉体のあるが法悦春の虹 横山康夫
「麻」2010年5月号
「麻」は松浦敬親編集・嶋田麻紀発行。
個人的には馴染みのなかった雑誌ながら、今月号の「句集散見」に山﨑百花による『新撰21』の紹介が掲載されたため送ってきて下さった。
切り口の鋭さ合はす接木かな 嶋田麻紀
うららかや墓の骨壺底抜けて 山﨑百花
川越の駄菓子屋の混む鳥曇 百瀬ひろし
宝石のやうにチョコ買ふ二月かな 井口あやこ
春寒や巫女の焚く火のうすけむり 鈴木了斎
庭木解く縄だらけなるポンペイ展 羽田さとし
立春のひかりを編みぬ竹細工 川島一紀
春の雨とろろ昆布の暗さかな
臥龍梅書の闊達を飽かず観る 野末たく二
物差の母の名薄し針供養 笹本カホル
2010年5 月14日 (金)
「ぶるうまりん」14号
須藤徹編集・発行の「ぶるうまりん」14号(2010年4月発行)から。
特集は「俳文の研究」。
オーボエは鬱金色なる薬喰 須藤徹
寓意の冬塵取一つ世界に浮き
骨の中ボルトは錆びぬ大旦
潜水艇の中椿が釘を抱いていた
春日が四股を踏んでるえんたしす
自選作品50句は野田遊三(「夜行」編集人)と野谷真治。
杭を打ついずこも春の暗さかな 野田遊三
後頭を赤子のさわる春の暮
こまどりの乳の匂いの都かな
老鶯の喉より落ちし女人かな
浮上するたびにまっ赤や秋の暮
陽光を配ってあるく奇天烈画人 野谷真治
編集者たち胃袋のがんがらがん
てんてんてまり天のてざわり
夕焼けをむしゃむしゃ喰うバカボン一家
雨上がり少女と散歩する金魚
死角なき病院四角い時間が余る 吹野仁子
一オクターブ高みに隠れ立松和平
外に出るは春雪を汚すため
二股の大根に腰 スポットライト 平佐和子
炬燵でみかん人救出の犬がいて
ハイブリッドカーすべる
ルート66
の枯野
別れきて潮目の高く流れくる 山田千里
万華鏡でありたい冬の蝶
木枯のト音記号がソファーにすわる
雪をゆく太陽はなく祀りなく 土江香子
ホンドテンの足痕白封筒に入る
美少女をぐるりとめぐる右翼相
心臓を落葉がかすめ蹠へ 二上貴夫
またアイボリーを好んでしまふ冬木の
小雨降る都会にバッハ流れけり 村木まゆみ
人の顔に見える家あり秋の風
小京都と称えセイタカアワダチソウ 及川木栄子
狩猟人の「う」青森の「どさ」初明り
《狩猟人の「う」》というのは、
吉本隆明『言語にとって美とは何か』
に出てくる、原始狩猟民がはじめて海を見たときに「う」なら「う」という音を発したはずという、言語発生の局面を例示した有名な件りからだ(私はこの本、ここで気力が萎えてしまって長いこと読めずにいた)。
青森の「どさ」は津軽弁で「どこへ行くのですか」の意味らしい。
古代人と東北人が海も間近な北の果で呼び交わすヴァーチャルな時空の初明りである。
外房のマリア観音冬ごもり 齋藤泉
無数の扉一斉に開く夜の梅
「里」2010年5月号
仲寒蝉編集・島田牙城発行「里」の2010年5月号から。
島田牙城の「吾亦紅記録」は「俳人協会の姿勢が理解できないといふことについて」。
入ろうと思ったことがないが、俳人協会への入会資格は私もないはずである(「豈」には参加しているが同人誌なので、結社の主宰による推薦という要件が満たせない)。
駆け抜ける恋猫に足踏まれけり うまきいつこ
流木に
石蓴
の少しついてあり 山口都茂女
モンサンミシェル
は江ノ島にして栄螺 雪うさぎ
少年に孤島ありけり揚雲雀 坂本丹
白樺の試飲のワイン真紅 洋子
春もやうやう小切りのパンにオリーヴ油 中村恵理子
はりつめて鼓動のもれる卒業歌 井出庚子
喪の家の二軒つづきの櫻かな 島田牙城
繩文土器でこぼこ春の山いくつ 仲寒蝉
はうき目の正しき四阿に春が 尾崎ひろ
津波くるそれから杉の花ゆれる 河西志帆
春昼やモナリザの視線追つてみる 内山寿子
黎明や鶯餅の啼きはじむ 今井真子
紅茶などこぼしてばかり夕桜 大西龍一
完璧な縦列駐車のどけしや 小豆澤裕子
初蝶と言へどガラスの檻の中 水口佳子
女子高の中庭にある鉛玉 佐藤文香
松の芯角を揃へて資料置く 九里順子
テルミンの音さだまらず春愁 本田鈴雨
透きとほる影が影こす四月かな 長谷川晃
黄砂降りガラスを汚す昼餉かな 媚庵
あかるくて桜蘂降るラジオ局 上田信治
シテ方の怨霊のこゑ冴返る 横山崩月
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