角川書店
2002年
上田五千石に師事し、現在は中原道夫に師事している著者の、1985年から2000年までの句を収めた第一句集で中原道夫の序文がある。師二人の名が全てを語っている、レトリックの芸と明快な叙情の句群。
賛入れてより白扇にうらおもて
天牛や琥珀のいろに川暮れて
生麦酒乾してジョッキの重くなる
これは新聞の時評か何かで見た記憶がある。修辞・発見・実感の一体化した句。
かんからに蹴り傷ありぬ蚊喰鳥
水底に木の実溜りといふがあり
トロ箱の鮟鱇四角に収まりぬ
詩片捨つ覚悟も習ふ春火鉢
忌にありて旅を企む秋の蝉
黙考の白息むしろ太きこと
残像のごと母おはす炉辺の椅子
寒燈のしかもまばらを家郷とふ
なまこ噛む白磁の翳を白く置き
白露やこつと消えたる空の碧
「五千石先生急逝の報に 三句」の前書きのある一句。これに「生前と死後のあはひの月蝕む」「どつと日の痩せたる名ごり簾かな」が続く。
穴を出て蜥蜴しばらく魚のかほ
新蕎麦に月を落として呉れぬかと
これも序文でも時評でも取り上げられていた。句集を代表する鮮やかな句の一つ。
秋天に煙突引つ張られてをりぬ
芋の葉に日の傍系として露は
龍淵に潜みしのちの水位なり
母の忌の近づく
小春とは母訪ねくる日を言はむ
かけ蕎麦にこがらしといふ薬味など
海の縁側さくら貝さくら貝
師系とはすなはち詩系接木せる
恋猫のこゑ猫ばなれしてきたる
清水湧く星の生死に拘はらず
金魚玉日の七彩を蓄ふる
深窓といふが螢の籠にあり
あめんぼにいつそ古鏡を磨かせむ
枇杷の種磁力隠してゐはせぬか
厚揚げに待たれてゐたる帰省かな
白砂青松冬ざれの景の中
水内慶太…1943年北京生まれ。「銀化」同人。
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