今月はびっくりするほど本が読めなかった。締切のある作業は何とか片付けているもののそれだけ。
内容的に大変なものはほとんど読んでいないのに20冊しかないので、3日で2冊ペースに落ちている。
例年、冬場さえしのげばもうちょっと復調するものと思っていたのだが。
そらしといろ『もうずっと静かな嵐だ』(ふらんす堂)は著者から寄贈を受けました。記して感謝します。
小林秀雄『無常という事』角川文庫・1954年
《思い出となれば、みんな美しく見えるとよく言うが、その意味をみんなが間違えている。解釈を拒絶して動じない歴史の魂というものに心を虚しくして推参すれば、歴史はいよいよ美しい。という著者は、独自の立場から当麻・徒然草・平家物語・西行・実朝を批判する。めざましいばかりの新しい感覚に感動させられる。》
マルセル・ブリヨン『幻想芸術』紀伊國屋書店・1968年
《幻想はいたるところに存在する――暗黒の中世から破滅に慄く現代までの芸術表現に表れた、不安、異常、怪奇のイメージの変容を辿り、体系的にまとめた古典的名著。精神の生成と変貌を反映する鏡としての「幻想」を諸作品から分析し、今日の芸術と思考の中でその占める位置を探りあてるとともに、そこに込められた思想の根源に迫る。口絵・カラー19頁/白黒32頁。》
小松和彦『異人論―民俗社会の心性』青土社・1985年
《異人=妖怪=神とは。「異人殺しのフォークロア」をキー・コンセプトに、これまでの学問が隠蔽、無視し続けてきた日本文化の「闇」の相貌、記憶から抹殺されてきた精神の深層を、鋭利に浮上させる刺激的な論考。ニューウェーヴ民俗学の誕生。》
五来重『日本人の死生観―民族の心のあり方をさぐる』角川選書・1994年
《日本人の死生観は、武士道的死生観だけではない。仏教以前からの、霊魂を不滅とする再生信仰があり、霊魂の供養とその儀式がある。もっと深いところに日本人の死生観の根本が根ざしていたといえる。本書は、民俗学の視点から、庶民の文化と精神の基層まで掘り下げ、あたらしい鉱脈を掘り当てることによって、はじめて日本人の霊魂観と死後の世界観をあきらかにする。》
関山和夫『説教の歴史―仏教と話芸』白水Uブックス・1992年
《日本の庶民文化史の底辺に深く根を張った演説体説教の歴史を芸能史学的に追求し、説教と話芸、説教と民衆演芸との関係を詳細に記述している。また、説教者にまつわるエピソードや落語の祖安楽庵策伝、三遊亭円朝などにも触れ、日本文化史の一面を知るうえでの恰好の入門書となっている。》
半村良『夢見族の冒険』中央公論社・1992年
《別れた夫から“成城の魔女”と呼ばれた碧は、母やその叔父の大物政治家の助けもあって、夜の銀座でちいママに成長。店に通って来た流行作家との恋も楽しみながら、水商売に飽き足らなくなった彼女は祖父の形見の絵図の謎にいどんで、宝探しに……。夢を追い求め、奔放に生きる“夢見族”の娘を描く。》
半村良『闇の女王』実業之日本社・1978年
《異常な反逆と欲望のロマネスク
旧公爵、屈指の富楽天羽賀脩一郎は「この家に自由はない。天羽賀家の束縛から説け出すには夜に生きるしかない。それも夜の一番深い所だ。俺はその支配者になる」と宣言し、財産を処分し、消えた。彼のいう夜の底とは?》
《作者のことば
女王シリーズ第一弾
私には過去に、夢中になって読み漁った海外作家のシリーズ物が幾つかある。自分が書くようになってから、それをひとつずつ私なりに消化してシリーズ物に仕立てているのだが、今度はいよいよH・R・ハガードに挑戦する番である。この小説はその第一弾、従ってタイトルも当然「闇の女王」と、女王がついている。
ハガードの「洞窟の女王」や「女王の復活」など、例の女王シリーズがどう形を変えるか、御期待して読んで下さい。》
H・G・ウェルズ『宇宙戦争』創元推理文庫・1969年
《夜空に謎を秘めて怪しく輝く火星で、ある夜、白熱光を発するガス状の大爆発が観測された。これこそ六年後に世界を震撼させる大事件の前触れであった。イギリス諸州の人々は夜空を切り裂く流星群を目撃したが、それは単なる流星ではなかった。未知の物体は大音響とともに落下、地中に埋まった物体の中から現われたのは、想像を絶する宇宙の怪物……V字形にえぐられた口、巨大な二個の目、のっぺりとした顔、無気味な触手をもった火星人たちであった。いまや、恐るべき火星人の地球侵略がはじまったのだ。》
川端康成『高原』中公文庫・1982年
《名作「雪国」にいたる地下水脈の諸作――「高原」「百日堂先生」「日雀」「軽井沢だより」「神津牧場行」「信濃の話」「戸隠山にて」など、信州のさまざまな旅と人生をつづる小説・随筆十六篇。》
収録作品=父母/百日堂先生/高原/日雀/義眼/軽井沢だより/神津牧場行/面替行の日/平穏温泉だより/山中湖畔野鳥行/信濃の話/戸隠山にて/旅中/木曽馬籠/秋山居/秋風高原
小松和彦『京都魔界案内―出かけよう、「発見の旅」へ』知恵の森文庫・2002年
《日本を代表する「雅」の都・京都は、陰明師や呪術僧が活躍する、呪いや怨念の渦巻く霊的空間でもあった。晴明神社、神泉苑、貴船神社……、名うての「魔界」を巡り歩くうちに、「異なる者」たちが跳梁跋扈する刺激に充ちた時空が蘇ってくる──そんな「魔界」発見の旅へようこそ!読んでから行くか、行ってから読むか。 解説:京極夏彦》
カーリダーサ 『公女マーラヴィカーとアグニミトラ王』岩波文庫・1989年
《正妃の侍女マーラヴィカーに一目惚れしたアグニミトラ王は、腹心の道化に知恵を仰ぎながら彼女の愛を得ようと腐心するが、さて……。サンスクリット文学最大の詩人カーリダーサ(4世紀末頃)のこの戯曲は、喜劇風の軽快な展開で現代のわれわれを飽かず楽しませてくれる。ほかに神話に取材した恋愛劇1篇を収録。》
梶尾真治『有機戦士バイオム』ハヤカワ文庫・1989年
《すべての生命が死滅した惑星で抗争を続ける2つの機械群。自己増殖を行ない、進化を遂げ、創造主たる生命に似た思考回路を持つにいたった機械群だが、この機械群をまったく無効化する最終兵器が出現した。これに対抗するには有機生物によるしかないが……「有機戦士バイオム」。薬物使用による肉体の限界を越えさせる可能性に挑戦する、オリンピックならぬ「ドゥーピンピック2004」。夕食のちりなべの中にあやまってブードゥーの秘薬を入れてしまい、なべの中身がゾンビと化して襲いかかってくる「死霊のちりなべ」などを含むショートショート集。》
収録作品=役立ち日記/ある私立探偵の日常/放蕩志願/医乱お世話や!/わが家のSDI/鈴木博士のケース/ライター/悪魔の嗅覚/昼休みの因果律/歴史がビリヤード/伝説/自動調理システム/情報絶対臨界量/精霊機械/ホビイダム・ロマンス/ドゥーピンピック2004/有機戦士バイオム/…のようなもの/すぷらった・ばぁばあ/新登場!クローン製造機/いまはの際の…/ぱんつ/準備万端…/プライベートタイム・アイズ/新幹線の対決/彼女の家族/もっとも…/あなたが正しい!/あいつは変わってたなあ…/ハンスの選択/死霊のちりなべ/健忘症は忘れない!/真説・大魔神/愛のフェロモン/クリスマスプレゼント/ニューイヤーストーリー
尾崎一雄『虫のいろいろ』新潮文庫・1951年
《戦争末期から故郷に病臥する身となった著者は、眼前に迫りつつある死を凝視したり、身辺の自然をしみじみと観察することで、その人生観に一段と奥行と陰影を加えた。沈痛哀切な生への祈りを慎み深い文章でつづり、心境小説の一極致を示す表題作をはじめ、志賀直哉を脱皮し、凡人としての立場に“還俗”した著者の文学的成熟を示す珠玉編を収録した作品集です。》
収録作品=焼ヶ岳/亡友への手紙/落梅/虫のいろいろ/美しい墓地からの眺め/トマト畠で/小鳥の声/冬眠居閑談/毛虫について/踏切/石/虫も樹も
筒井康隆『宇宙衞生博覧會』新潮社・1979年
《ツツイヤスタカ宇宙でしか見られない難病奇病珍現象を一堂に集めた世にも奇怪な博覧会。クレール蟹の甲羅の味噌を食べたために、頬が甲羅に変形する『蟹甲癬』。シャラク星でドド豆を煮るのに失敗した時に起る恐怖の『顔面崩壊』。マザング人との地獄のコミュニケーション法『関節話法』。ほかに『こぶ天才』『問題外科』『ポルノ惑星のサルモネラ人間』など、狂気と毒気にみちた8編。》
収録作品=蟹甲癬/こぶ天才/急流/顔面崩壊/問題外科/関節話法/最悪の接触/ポルノ惑星のサルモネラ人間
高千穂遙『水の迷宮―クラッシャージョウ11』ハヤカワ文庫・2013年
《水中行動に特化した能力を持つ傭兵アプサラは、銀河連合の管理のもと、二つの勢力が内戦を展開している、水の惑星マルガラスでの軍事活動に従事していた。その内戦のさなか、マルガラスの先史文明調査チームの責任者ディーラーを護衛するため、ジョウとアルフィンは海底遺跡調査船に乗り組んでいた。しかし戦闘に巻きこまれた際に、アプサラと接触したことで、調査は二つの勢力の思惑をめぐって意外な方向へ転がり出す!》
高千穂遙『ガブリエルの猟犬―クラッシャージョウ13』ハヤカワ文庫・2016年
《装備を新たにしたジョウたちに過酷な依頼が入った。勢力争いの末に、自身を独自に進化させた無人兵器「猟犬」が、現在も争いを続けながら、近づくものをすべて破壊するという危険きわまりない感星に潜任して、失われた古代金貨を探索せよというものであった。これまでも軍隊によって猟犬の掃討が試みられたが、すべて失敗に終わっている。巨大犯罪組織に加え、竜の一族、虎の一族をも巻きこんだすさまじい戦いの行方は?》
見田宗介『現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来』岩波新書・1996年
《「ゆたかな社会」のダイナミズムと魅力の根拠とは何か。同時に、この社会の現在ある形が生み出す、環境と資源の限界、「世界の半分」の貧困といった課題をどう克服するか。現代社会の「光」と「闇」を、一貫した理論の展開で把握しながら、情報と消費の概念の透徹を通して、“自由な社会”の可能性を開く。社会学最新の基本書。》
アルフレッド・ベスター『分解された男』創元推理文庫・1965年(ヒューゴー賞)
《舞台は二十四世紀、全太陽系を支配する一大産業王国の樹立をねらうべン・ライクは、宿命のライバルを倒すために殺人という非常手段に訴えた。いっぽう、人類の進化は超感覚者と称する、人の心を自由に透視する特異能力の持主たちを生んでいた。ニューヨーク警察本部の刑事部長リンカン・パウエルはこの超惑覚者のリーダーであり、世紀の大犯罪を前にして陣頭指揮を開始。ここに超感覚者対ライクのひきいる巨大な産業ネットワークのあいだに虚々実々の攻防戦が展開する。ヒューゴー賞受賞の栄に輝く名作!》
そらしといろ『もうずっと静かな嵐だ』ふらんす堂・2020年
《最新詩集
青いノートにまとめられた、静かな情熱の籠もる、そらしといろならではの新詩集。
優しさの中にある不穏な熱量の詩編。
こんこんと
眠っていた
扉の青いノート
未使用で
よく乾いており
ボールペンのインクを
ゆるやかに
吸いこんで
目覚める
定住する言葉
(作品より)》
内田樹『ためらいの倫理学―戦争・性・物語』角川文庫・2003年
《アメリカという病、戦後責任、愛国心、有事法制をどう考えるか。性の問題、フェミニズムや「男らしさ」という呪縛をどのように克服するか。激動の時代、私たちは何に賭け金をおくことができるのだろうか――。
ためらい、逡巡するという叡智――原理主義や二元論と決別する「正しい」日本のおじさんの道を提案する。
今最も注目を集める現代思想のセントバーナード犬、内田樹の原点を大幅加筆でついに文庫化。
解説・高橋源一郎》
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