閑中俳句日記（別館） －関悦史－

「秋草」2012年3月号

「秋草」2012年3月号から。

今回から3ヶ月分、鑑賞欄「秋草逍遥」の担当が彌榮浩樹になった。
主宰山口昭男は「今月の爽波7句」「今月の裕明7句」を連載中。


すつぽりと筒の氷のぬけてをり　　　山口昭男

山茶花を踏みて箒を持つてくる

冬日浴ぶ校長室の眼鏡かな


行く先は同じポストや春の風　　　木田満喜子

淡白な啓蟄の血を抜かれけり　　　市川薹子


枯るる中きしと供花の紐払ふ　　　三輪小春

街道へ醤の匂ふ時雨かな　　　下津由喜恵

宿坊の固き布団や石蕗の花　　　久下　範

白菜のじゆわつと口を癒しけり　　　田口好男

太刀魚の曲がるトロ箱底冷す　　　高重京子




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新建築住宅特集11月号「レイヤード」ジャムズ

 

「あざみ通信」NO.8

「あざみ通信」NO.8から。

これは川柳の本をよく出している「あざみエージェント」のPR誌らしい。


わたくしの中を通って咲く椿　　　八木千代

大きな桃が横を流れてくれている

自らを傷つけて鳴る楽器たち


作者は大正13年（1924年）生まれ。
平成11年（1999年）句集『椿守』刊。




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Kate Bush - Rubberband Girl

 

「俳句」2012年3月号

「俳句」2012年3月号が、東日本大震災を受けた特集「自然を詠む、人間を詠む」というのを組んでいて、私もアンケートに答えているので送られてきた。


新鋭俳人20句競詠には、冨田拓也と野口る理が登場。


花八つ手思考は不意にひらかれぬ　　　冨田拓也

最近は都市叙景的な句が増えているようだが、これは河原枇杷男などにも擬せられた従来の作風の発展のようでありながらも、沈潜・求心よりは開放へ向かっており、観念性や啓示性を帯びながらも安らかな姿の句。


ゆふべは星けふは春雷みせるまど　　　野口る理

うつとりと海胆の転がる社会かな

こちらは能動的な奇妙な「まど」との交歓、海胆がやすやすと媒介してしまう「うつとりと」の満ち足りた官能と「社会」の関係性との出会いというふうに、楽な呼吸のなかにどこかヘンな世界が立ち上がっていて楽しい。


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小川軽舟さんが連載「ここが知りたい軽舟の俳句入門」で21世紀の俳人の句として私の《人類に空爆のある雑煮かな》も挙げてくださっていて、アメリカの9･11テロを受け止めた作と取られていたが、句集では特に前書きも付けなかったものの、この句は2009年の週刊俳句の新年詠に出したもので、直接にはリアルタイムで進行していたガザ侵攻の衝撃から生まれている。


あと拙句関連ではアンケートの「この一年で心に残った一句」に相子智恵さんが《テラベクレルの霾る我が家の瓦礫を食へ》を挙げてくれて、他に高山れおなさんが「今月の10句」で《Eichmann(あいひまん)ノ後(ノチ)ニシテ物(モノ)ヲオモ思ハザリ》に行き届いた解説を加えてくれている。ありがとうございます。


作品8句欄に、《ひんがしに米を送りて虔めり　柿本多映》という句がある。面識はないにもかかわらず、私も震災後、既に何度か柿本さんから米を送っていただいた。私だけではなく、人から聞いたところでは、何人もをそうして支援されているらしい。
そうした事情なしで句だけを見たら、また印象も違ったのかもしれないのだが、送っていただいた一人として、それも離れたまま誌面を通してこの句に出会うと、この「虔めり」が、遠くからの恩寵のような光を帯びて感じられる。


アンケート欄では鴇田智哉さんが「いま大切にしたい季語」に、いきなり「玉葱」を挙げているのが目を引いた。
震災の衝撃とはあまり関係がなさそうだし、これはどこから出てきたのだろう？

（なおこのアンケートは回答者の年齢順に並んでいて生年と所属誌が付されているのだが、居住している都道府県の情報もあると、どのくらいの距離感で震災を迎えたかの見当もつけやすくなったかと思う。）

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Art Of Noise - Moments In Love

 

【告知】第125回現代俳句協会青年部勉強会 シンポシオンⅤ 句集のゆくえ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来たる3月20日に池袋で現代俳句協会青年部のシンポジウムがあり、山田耕司さん、中本真人さんらとともに私もパネリストとして参加します（全員わりと最近句集を出したばかり）。

詳しくは現代俳句協会青年部ブログを参照してください。


第一部　いま句集とは何か
・個人句集の発生史　　　橋本　直
・いま句集とはなにか　　宮本佳世乃
・電子書籍について　　　中村安伸
第二部　句集のゆくえ
ディスカッション
ゲスト　関悦史氏　中本真人氏　山田耕司氏　（進行　宮本佳世乃）




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けいおん！YMO ｢Solid State Survivor｣

 

「円座」2012年2月号

「円座」2012年2月号から。


秋潮に乗りて補陀落舟は柩　　　武藤紀子


神の留守猫ぎやうさんに宮を守る　　　志麻陽子

外厠音して冬のからすうり　　　山中多美子


洋館の二階の襖障子かな　　　中村幸子

とろみ食とろみのお茶と冬銀河　　　安永達生

要介護・嚥下困難となってくると食事にとろみをつける必要が生じる。人によってはサラッとした普通の水でも噎せるようになる。

りんご入りポテトサラダや母のこと　　　森永尚子


主宰武藤紀子の師宇佐美魚目の「五句」は本人の意向により前回の12月号から休止となったとのこと。

句を載せた作者から稀にお礼のハガキをいただいてしまったりするのだが、お気遣いなく。




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Alice Sara Ott plays the Adagio from the Beethoven Piano Sonata no. 3 in C major, op. 2 no. 3

 

「手紙」第三通（2011年12月）

「手紙」第三通（2011年12月）から。

造りや渡し方に試行錯誤を重ねていて、今回のは宛名を書いた封筒に入った形で、12ページほどの小冊子をもらった。

中山奈々が加藤喜代子句集『聖木曜』、越智友亮が関根誠子句集『浮力』、福田若之が寺山修司への“手紙”をそれぞれ執筆。

 

 

作品は3人が7句ずつ。


しぐるるや子機偉さうに立つてゐる　　　中山奈々

街は聖夜にヘッドホンをしてひとり　　　越智友亮

闇鍋が燻製の臭いに染まる　　　福田若之




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The Style Council - Walls Come Tumbling Down!

 

「街」No.93（2012年2月）

「街」No.93（2012年2月）から。

巻頭に今井聖「友岡子郷論」掲載。


氷柱の裡一時限目はエジプト史　　　今井　聖

浜焚火市議の妾の噂など

上野まで自転車で来て海鼠買ふ


以下「先鋒三十（「街93号　解放区・自由区・未来区より　順不同」）」今井聖撰から。

乱切りのすれば鶏頭食へさうな　　　森　光葉

手に木の實置けり原初の風の中　　　小峰八重子

綿虫や石垣にある生臭さ　　　岡田とく子

ざりがにのバケツ掻く音十三夜　　　穂阪幹子

聖夜劇ロバもヨセフも女の子　　　石川暘子


この3号ほど「解放区・自由区作品評」を鴇田智哉さんが担当していたらしい（最近ツイッターにもほとんど出てこないがどうしているのだろう）。

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Phil Collins - Don't Lose My Number

 

【告知】井上井月ドキュメンタリー＆フィクション映画『ほかいびと』東京上映

 

相子智恵さんから映画の案内状が来た。

俳人井上井月のドキュメンタリー＆フィクション映画『ほかいびと』が、東京でも上映されることになったという。

もともとは長野県伊那市の井上井月顕彰会とヴィジュアルフォークロアなるところの制作で、長野でしか上映されていなかったのだが、3月24日(土)から4月6日(金)までポレポレ東中野でも見られることになった。

監督は北村皆雄、主演は舞踏家の田中泯。

相子さんは制作に関わっていたわけではないが井月と同郷で、信濃毎日新聞にルポ「井月をめぐる旅」を連載していたのがきっかけで監督と知り合い、映画の応援もすることとなったらしい（ご多忙だろうに、よくいろいろお書きになってますね）。面白そうです。




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『ほかいびと　伊那の井月』予告編

 

「円錐」第52号（2012年春）

「円錐」第52号（2012年春）から。

連載は「エリカはめざむ(10)」今泉康弘が「渡邊白泉の沼津時代」。
「戦後派俳人作品鑑賞(3)」では《暗闇の目玉濡らさず泳ぐなり　鈴木六林男》《遠足の列大丸の中通る　田川飛旅子》《冬の日や臥して見あぐる琴の丈　野沢節子》《汝が胸の谷間の汗や巴里祭　楠本憲吉》《紺絣春月重く出でしかな　飯田龍太》が取り上げられている。
ほかに仁平勝、山田耕司による糸大八句集『白桃』評等。



炎天の吹奏樂の喉ぼとけ　　　澤　好摩

武蔵野の川みな淺し曼珠沙華


家猫の孕みて戻る不機嫌よ　　　入船誠二


みぎわにてひとみな蝶の影のなか　　　今泉康弘

流木よみればまわりに夜と霧

天にあらず地にあらず乳房に鳥


研ぎ方のわからぬ虹となつてゐる　　　山田耕司

二階には泥鰌が足りてゐて静か

図書館に椅子たつぷりと年の朝


みづうみの花火をはりてみなをはる　　　栗林　浩

飛ぶ雲やすべての料理に人参いれる　　　橋本七尾子

折鶴の灯らむとする霜夜かな　　　横山康夫


「円錐集」年鑑推薦作家となった三丸祥子の新作15句から

月蝕のとんぶり瓶に集められ　　　三丸祥子

空砲の音に影ある枯野かな



時評が「関悦史の句集と震災詠」今泉康弘で、『六十億本の回転する曲がつた棒』を取り上げてくださっている。

中心になるのは角川俳句賞の「ふくしま」を踏まえての震災詠の話なのだが、今泉氏、百人一首をもとにした「百人斬首」の章が一番お気に召したらしい。旧字とカタカナが読みにくいこともあってこれは稀少な反応。「円錐」の時評ならではか。

関係ないが、先日山田耕司さんに聞いたところ、「円錐」はＥメールを使わない同人が多く、誌面も今でもワープロで作られているのだそうだ。道理で字面の印象が独特と思った。最近はインクリボンの入手が大変らしい。




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Thomas Dolby - She Blinded Me With Science

 


なおトーマス・ドルビーは今週末来日公演予定。記事中に出てくる坂本龍一との共演「Field Work」のPVでは、坂本龍一は第2次大戦終結を知らずに硫黄島に潜み続けていた軍曹という設定。

「未定」第93号（2011年12月）

第2次「未定」第93号（2011年12月）から。


腦病院の
死角
枯枝に
坊さんが
立つてゐる　　　　　　　　 高原耕治


萬物の
ふち恐ろしき
唐草文の
業火かな　　　　　　　　 高原耕治


ずる　ぬる
ぬる　ずる
むさぼり合へる
無垢の吸盤　　　　　　　　 高原耕治




長椅子(ながいす)
乳母車(うばぐるま)
通過(つうか)する
柩一基(ひつぎいっき) 　　　田辺恭臣


霊光一過
メランコリーの
プリズム　　　　　　　　　 村田由美子


満月光
首に影
音楽
はじまる 　　　　　　　　　山口可久實




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IANCU DUMITRESCU - GNOSIS for solo doublebass (1983)