1985年
角川書店
昭和53年(1978年)~59年(84年)発表の句を収録した第4句集。
この間に師の富安風生が死去し、著者は主宰誌「若葉」を継承している。
地に足のついた風土詠の奥に、沈潜した詩情。
湖の闇波見えてゐて鴨見えず
春眠の覚めつつ母の家なりし
海女小屋の梅雨の暗さにものを吊り
夜焚の火いよよ明るく暮れてきし
深雪の燈灯れる駅を通過せり
芦の間の薄氷を日のかがやかす
昨日今日波音のなし白子干
春寒く焚き捨ての火のいつまでも
田螺和地酒は舌に響きけり
耕されひつくりかへりをる穭
花魁草咲き霧つぽき駐車場
ナイターに入りし蝙蝠飛びはじめ
日当りて来て寒鯉の鰭をふる
文庫本ばかりの書架も櫻桃忌
盆花にして真白なる桔梗かな
堰切つて動く群衆初詣
山葵田の隙といふ隙水流れ
おもむろに枝垂櫻の揺れはじむ
螢火と水に映れる螢火と
年頃の紺の水着の似合ひけり
大鱸なり鱗金鱗銀
目に止る速さに滝の落ちにけり
秋袷姪も耳順を過ぎにけり
鴨をみてをりて翁の忌なりけり
雪まみれなる白鳥の声をあぐ
抽ん出し高さに揃ひ花菖蒲
麦を扱く微塵の中に禾(のぎ)が飛び
蹤いてくるその足音も落葉踏む
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