寄贈頂いた句集をブログに上げる余裕がないのですが、全部拝読はしています。
中村真一郎『江戸漢詩 古典を読む20』岩波書店・1985年
《漢詩文を愛読する著者が,自然,都市生活,家庭,愛欲,女流,海外などのテーマのもとに,江戸後期の作品から選びその世界を散策する.一句一句が詩人たちの肉声を聴くが如く響きはじめ,自由で豊かな精神が開けてゆく.》
柴田翔『われら戦友たち』文春文庫・1976年
《鶴木公吉は大学で美術史を研究する助手である。女子学生三木公子からダンス・パーティ券を売りつけられた彼は、196X年6月13日、その会場をのぞいてみた――推理的手法を駆使して時代に翻弄されながらも、真剣に“生”を模索する学生活動家群像の青春の軌跡。「されど われらが日々――」に続く意欲長篇 解説・竹内泰宏》
眉村卓『おしゃべり迷路』角川文庫・1981年
《さぁさぁ今から始まりまするのは、愉快・痛快・奇々怪々。変で不思議でケッタイな話。
イジキタナク食べる話
ウサンクサイとはどういう意味?
ロマンチックな徹夜のお話
ひとつの話が始まれば、あっちへ翔んだり、こっちへ跳ねたり、どこで終わるか予想もできない……。どう転んでも、貴重で乏しいあなたの読書時間を楽しませずにはおかない!
さあ、あなたもクマゴローこと眉村卓の、真面目で不真面目な、そして知的センス溢れるおしゃべりに耳を傾けてみましょう。》
ディクスン・カー『皇帝のかぎ煙草入れ』創元推理文庫・1978年
《向かいの家で、婚約者の父親が殺されるのを寝室の窓から目撃した女性。だが、彼女の部屋には前夫が忍びこんでいたので、容疑者にされた彼女は身の証を立てることができなかった。絶体絶命、物理的には完全な状況証拠がそろってしまっているのだ。「このトリックには、さすがのわたしも脱帽する」とアガサ・クリスチィを驚嘆せしめた不朽の本格編。》
柴田翔『新潮現代文学71 されど われらが日々――・鳥の影』新潮社・1979年
《青春と愛のゆくえを抒情的に糾明する柴田翔の知的世界の全貌。至純な「ロクタル管の話」等全七編。》
収録作品=されど われらが日々――/立ち盡す明日/ロクタル管の話/贈る言葉/鳥の影/彼方の声/食堂の話
檜垣立哉『ドゥルーズ入門』ちくま新書・2009年
《没後十年以上の時を経て、その思想の意義がさらに重みを増す哲学者ドゥルーズ。しかし、そのテクストは必ずしも読みやすいとはいいがたい。本書は、ドゥルーズの哲学史的な位置付けと、その思想的変遷を丁寧に追いながら、『差異と反復』『意味の論理学』の二大主著を中心にその豊かなイマージュと明晰な論理を読み解く。ドゥルーズを読むすべての人の羅針盤となる決定的入門書。》
五味川純平『孤独の賭け 第一部』角川文庫・1972年
《「あたしの体を200万円の担保と考えていただきたいの」――百子は、夜の盛り場で知った少壮のキャバレー経営者千種に云った。縫子として働く洋裁店“ポヌール”買い取りの不敵な野心が、彼女の胸にきざしていた。
すぐれた才気と体を武器に社会への復讐を図る一女性の、孤独な賭けと戦いを描き、色と欲につかれた、現代社会のすさまじい人間模様を浮彫りにする、力作長篇第一部。》
五味川純平『孤独の賭け 第二部』角川文庫・1972年
《百子と千種は、互いの肉体と才知と行動力に、深く惹かれた。
千種の援助で、叔父一家の住む土地と家屋を買い取り、かつての冷酷な仕打ちへの復讐を果した百子は、さらに、洋裁店、バー両「ボヌール」マダムの地位を約束された。
輝かしい未来の扉が、今、彼女の前に開かれようとしていた。……長篇第二部。》
五味川純平『孤独の賭け 第三部』角川文庫・1973年
《運命の神は、百子に徴笑み、千種に無情だった。
全国デザイナー作品コンテストで、ある華麗なスタンドプレイを演じた百子は、ファッション界の新星として脚光を浴びた。が、冷い雨の降る冬の夜、彼女の元を訪れた千種は、150万円の工面を百子に頼んだ。
彼女の体の中で、その時、ある何かが、音をたてて砕け落ちた。……
二つの、孤独な賭けの明暗を描く完結篇。》
藤澤清造『根津権現裏』新潮文庫・2011年
《根津権現近くの下宿に住まう雑誌記者の私は、恋人も出来ず、長患いの骨髄炎を治す金もない自らの不遇に、恨みを募らす毎日だ。そんな私に届いた同郷の友人岡田徳次郎急死の報。互いの困窮を知る岡田は、念願かない女中との交際を始めたばかりだったのだが──。貧困に自由を奪われる、大正期の上京青年の夢と失墜を描く、短くも凄絶な生涯を送った私小説家の代表作。解説・西村賢太。》
J・ポトツキ『世界幻想文学大系19 サラゴサ手稿』国書刊行会・1980年
《民俗学・歴史学の碩学であったポーランドの大貴族による、『千夜一夜物語』の如く多彩に、『デカメロン』の如く妖しく展開される回教徒の姉妹と一人の男のエロスとオカルトに満ちた長編枠物語。戦後ロジェ・カイヨワによって再発見された世紀の奇書!》
今日出海『吉田茂』中公文庫・1983年
《戦後混乱の時代に首相となって、新しい日本を作りあげたワンマン宰相吉田茂のすがすがしくまた愛すべき人間像のすべてを、心ゆるしたつき合いと作家の眼を通してあざやかに描く。》
収録作品=レモン月夜の宇宙船/ラプラスの鬼/ステファン・ラドクリフの薔薇/真っ赤な雨靴/東京未来計画/OH! WHEN THE MARTIAINS GO MARCHIN' IN/五号回線始末記/学術研究助成金
収録作品=スポーツカー/三菱の亡霊/謎の山岳コース/五郎のサスペンション/メルセデスがレースに復帰するとき/巨星おちる日/ニュルブルクリンクに陽は落ちて/ムーン・バギー/自動操縦車時代/ル・マン一九五五/死のレース/馬は目ざめる/オリムポスの神々
収録作品=高い音低い音/夢見る宇宙人/天使の星/解けない方程式/画像文明/銀河を呼ぶ声
収録作品=ハイウェイ惑星/安定惑星/空洞惑星/バイナリー惑星/イリュージョン惑星
収録作品=コンピューター惑星/システム化惑星/エラスティック惑星/ストラルドブラグ惑星/パラサイト惑星/愛情惑星
イルダ・イルスト『猥褻なD夫人』現代思潮新社・2017年
《ブラジル前衛女性作家の代表作を四方田犬彦氏が本邦初訳!
百匹の犬とともに、ブラジルの森深く隠棲する作家イルダ・イルスト。
バタイユに耽溺し、数々の文学賞を受賞し、論理哲学を極める知性。
狂気・ポエジー・霊性・死……ラテンアメリカの深淵なる神秘!
「わたしの犬の目で」を併載。
2003年には20巻の全集が刊行された。仏、伊、独、英語に翻訳され作品集が何冊も刊行されている。たが、日本語になったものは皆無である。》
保坂和志『ハレルヤ』新潮社・2018年
《キャウ! 一九九九年に作家夫婦の家にやってきた片目の猫、花ちゃんは、十八年八ケ月を生きて、旅立った。死は悲しみだけの出来事ではないと、花ちゃんは教えた(「ハレルヤ」)。死んだ友だちの葬儀で、彼と過ごした時間の歓びに満たされる川端賞受賞作「こことよそ」を併録。心が激しく動いたことが書かれた四つの短篇。》
収録作品=ハレルヤ/十三夜のコインランドリー/こことよそ/生きる歓び
ジョルジュ・シムノン『メグレと口の固い証人たち』河出文庫・1983年
《古いのれんを細々と守るビスケット屋ラショーム家の当主が、深夜、自室で胸を撃たれて死んだ。庭に梯子、窓に梯子を立てかけた跡、割れた窓ガラス。状況は外部からの侵入者の犯行を物語っていたが、家族は誰も朝まで気づかなかったと主張し、それ以上訊きだそうとすると、奇妙に口をつぐんでしまう。メグレはそこにただならぬものを感じた。家族が一致して何を守るうとしているのか?……》
収録作品=霊夢/離れて遠き/記憶喪失ならこわくない/ドアを開けば/空の記憶/よみがえる/戦争体験/決定的瞬間/あれ/可愛い女/既視感/灰だらけ/あやつり人形/三人は還った
石原藤夫『宇宙船オロモルフ号の冒険』ハヤカワ文庫・1984年
《1999年7月、天界の涯から邪悪な力が地球を襲う。おそるべき強力なエネルギーとエントロピーの拡がり、宇宙の正則性そのものを崩壊させる“破滅の死者″に対し、いま敢然と立ち向う一個の飛翔体があった。――宇宙船『オロモルフ号』、それは南極大陸を抉りとり、地球文明の粋を集めて建造された巨大宇宙船。乗員はロボット、アンドロイド、人間からなり、第一級のスペシャリスト3000人を擁する総員10万人。その一人、考古数学者のジロウ・コイズミは巨大組織内部の軋轢を克服しつつ、知力をつくして地球文明の正則性を脅かす敵に挑むのだった!》
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不調で何も読めない日が続き、眉村卓を何冊か無理矢理再読して復調。ケイブンシャ文庫の職場もののショートショート集はかなり久々の再読。
『こんにちは、花子さん』『頑張って、太郎さん』の2冊はどちらも前半がショートショート、後半がエッセイという構成。後に復刊された双葉文庫の『こんにちは、花子さん』は両方のショートショート部分だけを1冊にまとめたらしい。
装幀は『疲れた社員たち』が久里洋二、『職場、好きですか?』が沢野ひとし、『こんにちは、花子さん』『頑張って、太郎さん』が柴門ふみ、『乾いた家族』『ゆるやかな家族』が熊田正男。
国枝史郎『血煙天明陣』桃源社・1970年
《江戸天明期、権勢を誇る老中田沼意次の周辺には、常に血煙が立つ。田沼は、鬼才風来山人平賀源内の差配によって、西洋の粋をこらした怪奇華麗な建築物、逃水屋敷に昼夜をわかたぬ酒池肉林の女悦に耽っていたが、意次の専横を憎む貴公子松平冬次郎は、ままごと狂女お浦の田沼入りを機として、天明五人男と称する異様な盗賊団を操り、田沼に挑戦する。しかし明智の与力十二神貝十郎の策謀の前に悩まされた……。
筆の進むところ、修羅に狂い、煩悩に迷う人間像が、阿鼻叫喚の裡に血煙りに化す。――これは異常の大長篇である。》
山田正紀『長靴をはいた犬―神性探偵・佐伯神一郎』講談社ノベルス・1998年
《「犬男が『女を襲え』といったんだ」――婦女暴行殺人で起訴された男は、法廷で主張した。責任能力の有無が争点になるとの大方の予想を裏切り、弁護士が主張したのは、男の無罪だった。裏付けるがごとく、全く同じ手口の第二の犯罪が起きる。「長靴」と「奇妙な犬神伝説」。異質な二つの要素が事件の鍵なのか!?》
眉村卓『出たとこまかせON AIR』角川文庫・1979年
《さあさあ皆さん始まりだよ!
ぶっつけ本番、出たとこまかせ!
ワルのり、気まぐれ、苦しまぎれ!
突飛で変てこりんで愉快なお話!
――そばつゆ甘いかしょっぱいか?
――過去は何色? そして未来は?
――金言、格言をウラから見れば?
SF的発想と、ユニークな知識が満載されたこの一冊で、あなたは楽しみながらインテリジェンスを磨くことができる。さあこの「出たとこまかせON AIR」に、ピタリとチャンネルを合わせてみましょう。》
眉村卓『ショート・ショート ふつうの家族』角川文庫・1982年
《父、母、そして大学生の兄と、中学三年生で受験生の信夫――こんなごくありきたりの家族なのに、周囲で起きるのは変な出来事ばっかり……。
宇宙人からのお礼の話、成績が上がるか、さもなくば死ぬかという薬の話。窓の下が異次元だった話……いったいぜんたい世の中どうなってんの? 何か天変地異の前ぶれか、それとも夢でも見ているの? ひょっとしたら、もう明日という日はないのかも……。
眉村卓が、ふつうの家庭の周囲を舞台にショート・ショートで描く、ちょっぴり危険で魅力的な全67話。》
収録作品=雨の夜/教卓ジャック/すごい薬/電車を待てば/変な役所/酷使のあと/変な箱/おばけ/訓練/柔道/工事/お礼/警官/みぞれ/仕返し/車内/赤い車/母の姿/ぬいぐるみ/瞬間移動/かん詰め/テレビの調整/スケッチ/切符/居眠り/ポスター/空き地/釣りに行こう/見世物/鉛筆/洗濯物/転落/救出(1)/救出(2)/変なこと/日野青年/なめくじ/告白/おもての子供たち/祈り屋/続おもての子供たち/波/盆踊り/火事のあと/台風来/夢のけむり/椅子の山から/無礼な来訪者(1)/無礼な来訪者(2)/無礼な来訪者(3)/隔離(1)/隔離(2)/隔離(3)/隔離(4)/隔離(5)/隔離(6)/隔離(7)/隔離(8)/隔離(9)/隔離(10)/先行テレビ/錠/五里霧中(1)/五里霧中(2)/五里霧中(3)/五里霧中(4)/五里霧中(5)/雨の夜
眉村卓『午後の楽隊』集英社文庫・1984年
《別に、何の変哲もないネクタイである。しかし、それを締めると人生が突然にバラ色に輝き、幸運ばかりがめぐってくるという。はて、それを買ったものかどうか……。平凡なサラリーマンの夢を描く「特権ネクタイ」ほか、未来社会や宇宙人がにぎやかに登場する笑いと不安のSFショート・ショート傑作選。 解説・影山 勲》
収録作品=知りつくした町/透明妻/図々しい客/空港を出ると…/鍵束の中に…/時間銀行/特権ネクタイ/窓の外/湖岸/伝説的社員/深夜のトラック/からくりとスケッチ/マジメ派/風鈴/駐車場/酔ったらいこう!/家庭設備診断員/むこうの機械/TS用ロボット/評価者/だいじな体/よくあること/社員証/四対三/T市民/移動機/何が?/通告/研究発表/海と月/だれも知らない味/かわいい個人用農園/飛び入り社員/泊めて下さい/やりすぎですなァ/本当の食通/特別訓練中/森山さんのパーティ
筒井康隆『東海道戦争』中公文庫・1978年
《東京と大阪の戦争が始まった。自衛隊の戦闘機が飛び、地上部隊は重装備で進撃、市民兵もぞくぞく参加してテレビ中継車がつづく。斬新な発想で現代社会を鋭く風刺する表題作ほかの秀抜な処女作品集。》
収録作品=東海道戦争/いじめないで/しゃっくり/群猫/チューリップ・チューリップ/うるさがた/お紺昇天/やぶれかぶれのオロ氏/堕地獄仏法
神林長平『猶予の月(上)』ハヤカワ文庫・1996年
《第三眼を額に持つカミス人。かれらは人工衛星カミスに住み、事象制御装置により、惑星リンボス上で社会を営むリンボス生物を制御している。カミス中央機構の理論士イシスは、詩人である弟のアシリスに恋していた。けれども、カミスでは姉弟の恋は禁じられている。イシスは事象制御装置を使って、自分たちの恋を正当化できる世界のシミュレーションを開始したが……日本SFの先端を疾駆しつづける神林長平の意欲的大作。》
神林長平『猶予の月(下)』ハヤカワ文庫・1996年
《世界を“時間”“実現事象”“可能事象”の三次元として表現する事象理論の発明者にして犯罪者であるバールが、理論士イシスのリンボス世界(=地球)でのシミュレーションに干渉してきた。北極圏に近い寒村センティシス、ニューデリー、ロンドン、そして日本の各地で、イシスと恋人である弟のアシリス、バールたちは、名前と外見をさまざまに取り替え、自らの目的を達しようとするが……神林SFの最高峰、待望の文庫化。》
飛浩隆『グラン・ヴァカンス―廃園の天使1』ハヤカワ文庫・2006年
《仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画〈夏の区界〉。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在〈蜘蛛〉の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける――仮想と現実の闘争を描く〈廃園の天使〉シリーズ第1作。》
飛浩隆『ラギッド・ガール―廃園の天使2』ハヤカワ文庫・2010年
《人間の情報的似姿を官能素空間に送りこむという画期的な技術によって開設された仮想リゾート〈数値海岸〉。その技術的/精神的基盤には、直感像的全身感覚をもつ一人の醜い女の存在があった――〈数値海岸〉の開発秘話たる表題作、人間の訪問が途絶えた〈大途絶〉の真相を描く書き下ろし「魔述師」など全5篇を収録。『グラン・ヴァカンス』の数多の謎を明らかにし、現実と仮想の新たなる相克を準備する、待望のシリーズ第2章。》
収録作品=夏の硝視体/ラギッド・ガール/クローゼット/魔述師/蜘蛛の王
マラマッド『アシスタント』新潮文庫・1972年
《社会的成功を夢見る孤独な若者フランク・アルパインは、貧しい食料品屋に強盗に押し入るが、罪の意識に駆られてその店にまい戻り、店員として働くようになる。社会の底辺に一生を埋める馬鹿正直なユダヤ人の店主や、美しく向上心に燃えるその娘との接触によって新しい価値観に目覚める青年の精神の遍歴を通して、困窮と貧苦の中においても人間性を失わぬ真の尊厳性を描く。》
斎藤環『心理学化する社会―癒したいのは「トラウマ」か「脳」か』河出文庫・2009年
《トラウマ、癒し、ストレス、プロファイリング……あらゆる社会現象が心理学・精神医学の言葉で説明される「社会の心理学化」。精神科臨床のみならず、大衆文化から事件報道に至るまで、分野を超えて同時多発的に生じたこの潮流の深層に潜む時代精神を鮮やかに分析。来るべき批評と臨床の倫理を追求する。 解説=樫村愛子》
亀山郁夫『熱狂とユーフォリア―スターリン学のための序章』平凡社・2003年
《スターリン時代と21世紀の社会状況の類似を例示しながら、今こそ、文化と政治をめぐる不条理の学として「スターリン学」構築の必要性を宣言する。大佛次郎賞受賞後第一作。》
坂本幸男・岩本裕訳注『法華経(上)』岩波文庫・1962年
《『法華経』は信仰の対象として強く深くあがめられ唱えられてきたが、同時に美しい譬喩や巧みな説話の数々が文学・芸術の世界にも豊かなものをもたらした。本書では漢訳・読み下しにサンスクリット原典の訳を対向させて、これら様々な要望にこたえる。(全3冊)》
坂本幸男・岩本裕訳注『法華経(中)』岩波文庫・1976年
《この巻には漢訳の「化城喩品」から「従地涌出品」(サンスクリット原文の「前世の因縁」から「求法者たちの出現」)までが収められる。悪人デーヴァダッタやサーガラ竜王の娘の悟りを示して、有名な悪人成仏・女人成仏を述べる章もあり、一般の読者をも強くひきつける。》
坂本幸男・岩本裕訳注『法華経(下)』岩波文庫・1976年
《前章とともに最も重要な章とされる「如来寿量品」ではじまる。仏陀伽耶城の近くで成道した釈迦仏は、実は久遠の昔に成仏した本仏に外ならず、仏はすでに久遠の時より衆生教化をなし続けてきたのである。……そして、薬王、妙音、観音等、様々な菩薩が登場する。》
眉村卓『職場、好きですか?』ケイブンシャ文庫・1988年
《結婚しても仕事を続けて活躍する鷹井戸さんは、会社を一日も休まず、気配もみせずに子持ちになった!? (「スーパーレディー」)。異動の内示が降りた美也子は、転属先が書類倉庫の片隅と知って、くやし涙にくれたけど……(「きらわれもの」)など、誰もが思いあたるOL達の悲喜こもごもをユーモアタッチで描く新感覚ショートショート集。》
収録作品=F商事/立派な先輩/先客たち/必死の夏休み/無人の住居/きらわれもの/内海さん/仕返し/青木くん/もくろみ/へろへろべえ/髪型/尾形さん/休日の会合/Q工業/小さな店/上田くん/触媒/入れもの/姫路県/スーパーレディ/欠落秀才/変な文通/RP工作所/新室長/エイト商会
眉村卓『こんにちは、花子さん』ケイブンシャ文庫・1991年
《同期入社の明子と私は、社内で受付の二美人と呼ばれている。だが、正直に言うと明子と組んでいるのはつらい。やりくりとセンスと才気で、お金持ちのおっとりお嬢さんに対抗するのは疲れるのだ。ある日、奇妙な風体の来客が社長を呼べと言う。困惑する私をしりめに明子は……。新人類からお局さままでオフィスで暮らすOL達のショート・ショートストーリー。》
収録作品=秋田さん/第四部/不死身の男/素直な男/同僚/目の輝き/大鬼・小鬼/似た人たち/魔女のとき/Aくん/資料室/関心/Zテスト/乱闘/憎まれ役/満腹感/好青年/精気/椅子/ロボットの店/石光さん/嘘つき/似たもの同士/久保くん
時間流について/流れをつかむ/『かわ』について/とりとめもなく『川』/『河』からの連想/流れる/『お流れ』考/知る・知らない/流派と認識/急転直下/ダム/とうとう海
眉村卓『頑張って、太郎さん』ケイブンシャ文庫・1992年
《知名度の低いPQ文理大学出身の山崎という男が、全員一致で我社に採用された。有能な上に努力家で、我社に欠かせない戦力となった。だが、ある日、PQ文理大学は新設三年の大学でまだ卒業生が出ていないことが判明。山崎は学歴詐称をしたのだろうか……? (「出身校」より)。上司も部下も隠してる24時間ビジネスマンの本音を満載! オフィスショートストーリー第二弾。》
収録作品=精神強化合宿/近くの他人/試練/読書会/画像面接/人材/出身校/F会館/日曜の研修/偏見/石岡さん/独断的な男/新しい万歩計/意外な成り行き/立場/嫌がらせ/疑心暗鬼/食堂
期待のしかた/〈つもり〉のこわさ/頭から出たもの/〈さら〉と消滅/受動と能動/自己変革について/追いつめられて/上の人/多数派/人間のタイプ/原稿の当落/慣れと先入観
眉村卓『疲れた社員たち』ケイブンシャ文庫・1984年
《閑職に追いやられ、出世の望みを捨てたとき、突然テレパシー能力が芽生えた初老の平社員(「知名・五十歳」)。パラレルワールドの混乱で、過去に別の職業に就いていたもうひとりの自分と遭遇した資材課長(「思いがけない出会い」)。日常に倦んだサラリーマンたちが、ふと出遭った異常な世界の物語。幻想世界へいざなう8つのSFサラリーマン小説集。》
収録作品=ふさわしい職業/まぶしい朝陽/従八位ニ叙ス/知名・五十歳/授かりもの/思いがけない出会い/社屋の中/ペンルーム
眉村卓『乾いた家族』ケイブンシャ文庫・1993年
《吾平は定年間近のサラリーマン。専業主婦の千枝と息子・重助と暮している。昼休み、ランチを食べようとしたレストランで、注文したものとは違う料理がきた。拒絶をしめす吾平だが、なぜかウエイトレスは当惑している。そして……。三人家族に次々とおこる奇妙な出来事を、家庭生活の異空間体験ゾーンに描く書下ろしショート・ショート・ストーリー。》
収録作品=重助/吾平/千枝/痒み/多田さん/よく似た男/右端の電話ボックス/夫と息子/あげる/夜の落花/放置自転車/童謡療法/顔(一)/顔(二)/顔(三)/隣席/レインコート/断念/もらった傘/電車の中/辞めた人/七夕竹/秘密大明神/交差点で/若い幽霊/ビール/CM/還るとすれば/小川くん/素敵なカップル/シャーシャーシャー/大歩行/未来滞在者/Sの指南書/万年青年/妄想/お供/電球と蛍光灯/覚めても夢/夜の支線/動物園で/描きたい/斬られたこと/ほとけ心/反撃/見舞いの花/大伴/冬日和/待合室の本/Kの賀状
眉村卓『ゆるやかな家族』ケイブンシャ文庫・1993年
《吾平は定年間近のサラリーマン。専業主婦の千枝と息子・重助と暮らしている。会社で冷房が急にとまった。暑くなってきたと思ったら、目の前の女子社員の髪がキラキラと虹色にひかりだした。「わたし、困るわ」と言って席を立った彼女は……。ごく普通の三人家族が次々と遭遇する日常の中の異空間を乾いた視線で描く書下ろしショート・ショート・ストーリー。》
収録作品=秒音/早食い/食べる男/忘れていないか/レールの上/棒の重さ/目撃の後/見物(一)/見物(二)/見物(三)/もと犬/髪の色/踊り場の男/行き/帰り/自尊心/井場さん/五十倍(A)/五十倍(B)/自転車の青年/泥縄魂/想像/Hさん/Mの日記/キララの一/距離/キララの二/二泊三日/壁/親の会/立体視の本/キララの三/倉庫の中/人工の園/ミニばら/偽の記憶/車、回ってる/キララの四/寒い日
横溝正史『塙侯爵一家』角川文庫・1978年
《霧深いロンドンの街の片隅で秘密裡に進められたある計画。それは、莫大な資産家塙侯爵の息子で欧州留学中の安道を、思い通りに操れる偽者とすり替える畔沢大佐の陰謀だった。
日本へ戻った偽安道は見事にその役柄をこなし、ライバルの晴道を押えて侯爵の信頼を勝ち取った。だが、その頃から偽安道に変化が生じた。大佐の命令に従わず、勝手な行動をとり始めたのだ。そして、あの忌まわしい老侯爵殺害事件が起きた……。
息づまるサスペンスでたたみかける横溝正史の異色長編、ほか一篇を収録。》
収録作品=塙侯爵一家/孔雀夫人
柴田翔『鳥の影』新潮文庫・1974年
《平穏な日常生活にふとよぎる狂気の影……。大企業の課長代理、テレビ・ディレクター、大学教師など、失われた青春の癒しがたい傷を抱きつつ、現代の第一線で活動する知識人たちが、あることをきっかけとして突如、情念の押えがたい噴出に襲われる。狂気の世界へとつき進んでいく彼等のありさまを通して、捉えどころのない現代の生に、鮮明な光をあてようとする意欲的連作小説集。》
収録作品=鳥の影/彼方の声/食堂の話/鏡の中
佐野洋『人面の猿』集英社文庫・1978年
《猿が人間の子供を身籠ることは、生物学的にはありうることだろうか? ある地方都市のボスを殺人者として告発した高校生の遺作小説が発端となって起ったトルコ嬢の怪死。同じ頃におこるチンパンジーの不思議な妊娠騒動。脈絡のない二つの事件を奇想天外な推理でつなぐ佐野洋のSF趣向たっぶりの快作。 解説・石川喬司》
坂上弘『初めの愛』講談社・1984年(芸術選奨新人賞)
《男は危機的な状況にある。愛人と暮しながら、妻子のほうにも週に一度帰る、そんな状態が会社の取引先社員の失踪によって、明るみに出かねない。自分にも他人にも誠実であろうとする彼が、ふと立ち返るのは、おのれの愛の初源の場……。35歳、中間管理職の、真摯な宙ぶらりんの生。芸術選奨新人賞受賞の野心的長編。》
梶山季之『甘い樹液』徳間文庫・1988年
《アメリカの清涼飲料水会社の東京支社長須賀川碌助は、ライバル会社の不当な販売作戦を封じるため、財界の便利屋春野団蔵に救いを求めた。春野は名うての産業スパイ津村公に調査を依頼する。津村はライバル会社の副支配人権田正典の意外な過去を知る――。己れの罪に怯える人間の苦悩と非情を暴く表題作他、企業謀略の陰にうごめく男女の愛欲図をあますところなく描きつくす産業スパイ小説連作。》
赤川次郎『幽霊列車』文春文庫・1981年(オール読物推理小説新人賞)
《山間の温泉町へ向う列車から八人の乗客が蒸発してしまった。前代未聞の難事件に取り組んだ中年警部は、行く先々で推理マニアの女子大生に出っくわす。捜査の邪魔だとカッカしていたオニ警部殿はいつの間にかこの美女にカッカ。二人のコンビが出会った10の殺人、5つの事件――著者デビューの連作推理〈幽霊シリーズ〉第一弾》
収録作品=幽霊列車/裏切られた誘拐/凍りついた太陽/ところにより、雨/善人村の村祭
松本清張『霧の会議(上)』文春文庫・1990年
《霧のロンドン――。テムズ川にかかる橋に、イタリア最大の銀行頭取が吊るされた。真夜中の奇怪な出来事を目撃した日本人カップル――フィレンツェに留学中の助教授と、カトリック信者の美しき人妻。たちまち二人は、P2組織のマフィアに追われる身となった。スリリングな恋の逃避行。実在の怪事件を背景に描く大型推理長篇。》
松本清張『霧の会議(下)』文春文庫・1990年
《パリからコート・ダジュールへ。高平和子と木下信夫の恋の逃避行は続く。和子の夫・仁一郎も、和子を追ってニースへ。折からモンテカルロでは、各国の文化人を集めて、ハイテクノロジーの時代に抗する「精神武装世界会議」が開かれる。華やかな国際会議の裏に何が潜むのか? 銀行頭取怪死事件との接点は?》
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丹羽文雄『蓮如』全8巻(中公文庫)を古本屋で揃いで見つけ、高校の帰りに寄っていた神立ブックセンターにあったななどと思いながら買ってしまったら、史料の古文漢文がほぼルビ無しで頻繁に引用される文体で、思いのほか時間を食った。その後はまた体調を崩して何も読めずにいる。
ブルーノ・エルンスト『エッシャーの宇宙』も高校がらみで、図書室に買ってもらったものの再読。
装幀的に懐かしいのはサンリオ文庫のレッシング『シカスタ(上・下)』でシュルレアリスティックなカバー絵は山田維史。
上田信治『成分表』、北畑光男編『村上昭夫著作集(下)』、鈴木比佐雄『詩集 千年後のあなたへ』、加賀乙彦/鈴木比佐雄・宮川達二編『散文詩集 虚無から魂の洞察へ』は著者または版元から寄贈頂きました。
ブルーノ・エルンスト『エッシャーの宇宙』朝日新聞出版・1983年
《オランダの不思議な版画家M・C・エッシャーに魅了される人は彼の死後、ますます増加している。彼の代表作をほとんど収録し、生前の聞き取りや多くの下絵とともに、作品の謎を解き明かしたエッシャー研究の代表的文献。》
上田信治『成分表』素粒社・2022年
《有名漫画『あたしンち』の共作者にして俳人、漫画家のオットでもある著者による、初のエッセイ本。
漫画のネタを考え、俳句を書き・読みつづけてきた日々の暮らしから抽出された、この世界の「成分」。
いくつものディテールをみつめる、愉快な日常と思索の数々――
こんな書き手が、まだいたんだ。》
北畑光男編『村上昭夫著作集(下)未発表詩95篇・『動物哀歌』初版本・英訳詩37篇』コールサック社・2020年
《村上昭夫『動物哀歌』には後半の詩篇が割愛されていた!半世紀の眠りから覚めた新発見の95篇を収録。詩「サナトリウム」には宮沢賢治達との魂の対話が記される。(帯文より)》
鈴木比佐雄『詩集 千年後のあなたへ―福島・広島・長崎・沖縄・アジアの水辺から』コールサック社・2021年
《この詩集の中で最も古いものは一九九五年の詩「桃源郷と核兵器」だが、南太平洋でフランスが核実験したことに対して感じたことが記されている。そのあたりから私は原爆と原発について自らの最も重要なテーマとして考え始めた。その二十五年の歩みがこの詩集で一つの形になったようにも感じている。ただⅣ章には海を通して東北やアジアとの水辺のつながりを感じたこともあり、七篇ほど沖縄本島・石垣島に関する詩を収録した。(あとがきより)》
加賀乙彦/鈴木比佐雄・宮川達二編『散文詩集 虚無から魂の洞察へ―長編小説『宣告』『湿原』抄』コールサック社・2021年
《加賀乙彦氏は他家雄の内面を描く際にキリスト教の神父が避けていた「虚無」に向き合いその問いを深めていく。それはある意味でニーチェのニヒリズムの哲学への激烈な問いと重なっているかのようだ。しかし加賀氏は神の死ではなく神の再生を熱烈に「宣告」しようと願ったのだろう。国家は死刑囚に「宣告」をして死刑を継続しているが、他家雄を含めた死刑囚の悲劇的な経験から学ぶべきことは数多くあると告げる。鈴木比佐雄(解説より)》
隆慶一郎『かくれさと苦界行』新潮文庫・1990年
《徳川家康より与えられた「神君御免状」をめぐる裏柳生との争いに勝ち、松永誠一郎は色里・吉原の惣名主となった。だが、一度は敗れながら、なお執拗に御免状を狙う裏柳生の総帥・柳生義仙の邪剣が再び誠一郎に迫る。加えて吉原を潰すべく岡場所が各所に乱立し、さらに柳生の守護神・荒木又右衛門も江戸に現れた。ついに吉原と裏柳生全面対決の時が――。圧倒的迫力で描く時代長編。》
井伏鱒二『川釣り』岩波文庫・1990年
《人も知る釣りの名手井伏鱒二氏は、たんに技術にすぐれ獲物の量を誇るだけの名手ではない。釣竿を手に、伊豆の山、甲州の川へと分け入る氏が、自分の釣り場を思い出しながら書いた随筆や短篇小説を集めたこの一冊は、釣りの世界を語りつつ、人生の諸相をあたたかいユーモアにつつんで巧みに描きだす。(解説 飯田龍太)》
生島治郎『汗血流るる果てに』集英社文庫・1977年
《マフィアと香港暗黒街のボスを手玉にとる一匹狼の殺し屋ギルバート・スキャフィーノを、極秘理に調査していた国際犯罪捜査官の筧は、単身彼等の組織に潜入、イラン王室宝物館襲撃計画を摑んだ。荒涼たるシスタン地方の砂漠、香港、東京を結んでくり広げる男対男の血みどろの闘争の冒険ロマン。 解説・青木雨彦》
水野忠夫『ロシア文化ノート』南雲堂フェニックス・2001年
《文化のフィルターを透して、混迷する政治や経済の状況を読み取りたいと考え、書いてきたロシアに関するあれこれをまとめる。ロシアの文化の力を信じたいという思いを込めた一冊。》(「MARC」データベースより)
阿部謹也『ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界』ちくま文庫・1988年
《《ハーメルンの笛吹き男》伝説はどうして生まれたのか。13世紀ドイツの小さな町で起こったひとつの事件の謎を、当時のハーメルンの人々の生活を手がかりに解明、これまで歴史学が触れてこなかったヨーロッパ中世社会の差別の問題を明らかにし、ヨーロッパ中世の人々の心的構造の核にあるものに迫る。新しい社会史を確立するきっかけとなった記念碑的作品。》
並河萬里『パレスチナ―砂に沈む太陽』中公文庫・1991年
《ペルシア、シルクロード、ボロブドゥール、マヤ・アステカなど、世界の遺跡、文化財を三十八年間にわたって撮りつづけてきた著者が、パレスチナとその周囲のアラブ諸国を旅しながら、一日本人として、観察し、経験したままを率直に書き記す。
取材中、第三次中東戦争にまきこまれ負傷するなど、国際カメラマンとして世評高い氏の原点ともいえる中東の、古代から現代までの臨場感溢れる歴史紀行。》
生島治郎『白いパスポート』集英社文庫・1977年
《過激派の爆弾で、婚約者伊都子を失った三友商社のエリート社員日疋は、犯人ダループを追ってベイルートヘ飛ぶ。そこで血まみれの戦いの場を利用して、利潤追求のためヘロインの密売を行なう企業上部の実体を知った。大量の麻薬をめぐって、武装集団との息づまる争奪戦がヨーロッパを舞台に展開される。 解説・尾崎秀樹》
亀山郁夫『終末と革命のロシア・ルネサンス』岩波書店・1993年
《ベールイ,スクリャービン,マヤコフスキー……ロシア的精神の天空を焦がした言語とイメージの革命.「ロシアの再生」の夢をかけた,その超近代的祝祭が現代に黙示するものとは.》
ドリス・レッシング『シカスタ―アルゴ座のカノープス(上)』サンリオ文庫・1986年
《その星はかつて「多産」や「繁茂」を意味する「ロウハンダ」と名づけられ、様々な生物が調和して生息し、アルゴ座のカノープスのコロニー中いちばん豊かで繁栄していた。
それがどういうわけか、エネルギーのバランスが狂い、生物が互いに殺戮しあう野蛮な星となって、「痛めつけられ、損傷を受け、傷ついたもの」を意味する「シカスタ」と呼ばれるようになった。
カノープスからシカスタヘ多くの使者が送られ、この堕落した星の再生がはかられる。その使者のうち最も重要な使命を帯びていたのは、ジョホーア(ジョージ・シヤーバン)だった。
「アルゴ座のカノープス」連作の第一巻『シカスタ』は、このジョホーアの報告書を中心に、シカスタの繁栄から没落が描かれる。》
ドリス・レッシング『シカスタ―アルゴ座のカノープス(下)』サンリオ文庫・1986年
《『シカスタ』は「アルゴ座のカノープス」連作の第一巻として、1979年に発表された。現代の英国文壇を代表する女流作家レッシングが、SF的な枠組を借りて、宇宙的視座から地球を描いた本書は、発表と同時に激しい賛否両論の渦に巻き込まれ、特にSFサイドからは強い批判が寄せられた。
しかし、もちろん本書はSFあるいはファンタジーといったジャンルに属する小説ではなく、一つの寓話あるいは神話として読まれるべきものである。
本書を含む浩瀚な五部作は、全体として、旧約聖書的な壮大な叙事詩となっている。》
丹羽文雄『蓮如(一)覚信尼の巻』中公文庫・1985年(野間文芸賞)
《政変・争乱・飢餓に揺れる室町の世に、平安を求める庶民とともに生き、本願寺教団繁栄の礎を築いた中興の祖蓮如の生涯とその時代を描く丹羽文学の代表的歴史大作。蒙古襲来のころ誕生した新仏教親鸞の教義は、娘覚信尼、その孫の覚如にうけつがれていった。》
丹羽文雄『蓮如(二)覚如と存覚の巻』中公文庫・1985年(野間文芸賞)
《北条氏滅亡の血なまぐさい時代を背景に、宗祖親鸞の教義を軸として組織化を夢みる覚知・存覚父子の間に、次第に確執が深まり、ついに、存覚義絶にまでその傷口はひろがっていった。大谷廟はその嵐の中で細々と守られていた。》
丹羽文雄『蓮如(三)本願寺衰退の巻』中公文庫・1985年(野間文芸賞)
《南北両朝と足利将軍家の内紛は絶えなかった。宗祖親鸞の曽孫覚如は子の存覚を義絶していたが、妻の死後も心を許すことなく、組織化の夢を果たせず寂しく逝った。》
丹羽文雄『蓮如(四)蓮如誕生の巻』中公文庫・1985年(野間文芸賞)
《関東では親鸞の高弟らによる高田専修寺派が進出した。人影もとだえがちの小さな大谷廟所は、これら関東の門徒に支えられていた。ここに八世蓮如は誕生した。》
丹羽文雄『蓮如(五)蓮如妻帯の巻』中公文庫・1985年(野間文芸賞)
《父存如が没し、妻帯した蓮如は門徒の期待を背負って八代目住持となった。大飢饉が生じ、京の町には難民と餓死者が溢れた。こうした中で親鸞二百回忌が挙行された。》
丹羽文雄『蓮如(六)最初の一向一揆の巻』中公文庫・1985年(野間文芸賞)
《戦乱あいつぎ、京は焦土と化した。隆盛期をむかえた本願寺が叡山によって破却されると、蓮如は北陸吉崎に別院を建てた。やがて一向一揆の嵐が吹きすさぶことになる。》
丹羽文雄『蓮如(七)山科御坊の巻』中公文庫・1985年(野間文芸賞)
《北陸の農民門徒らによる一向一揆は、蓮如の説得、制止の努力もむなしく遂に起った。一揆鎮静を願い、やむなく吉崎を退去した蓮如は、山科の地に本願寺を再興した。》
丹羽文雄『蓮如(八)蓮如遷化の巻』中公文庫・1985年(野間文芸賞)
《本願寺住持職を五男実如に譲って大阪御坊に隠居した蓮如は、明応八年三月、親鸞思想の伝道者であり浄土真宗中興の祖としての八十五年の波瀾の生涯を山科に閉じた。》
投稿情報: 02:17 カテゴリー: このひと月くらいに読んだ本の書影 | 個別ページ | コメント (0)
「夢椿」(発行:洛南高校俳句創作部)第11号(2021年8月)から1人1句ずつ。
着ぐるみの眼の奥の暮秋かな 川田美紀
呼び鈴のあちらへ響く夕立雲 釜江康太
茄子洗ふ手に静脈の浮き出づる 山上莉央
制服に手アイロンして卒業す 伊藤栞奈
踏切の警告音や冬の暮 山本泰己
新聞社の書き方の差や蝉の殻 古田優太郎
以下、OB、OG。
話し終へるとひたひたのかき氷 黒岩徳将
小さくて白い車がよく灼かれ 細村星一郎
冷房にときどき捲らるゝ頁 大西 遼
以下は同じく洛南高校俳句創作部の「立志」(2021年10月)から1人1句。
翻車魚の浮き沈みたる碇星 綿実果樹
樹になれぬ空蝉は引き剥がされて 魚群探知機
朝顔や祖母に母の名で呼ばれ 山上莉央
ソステヌートペダル八月十五日 蛍丸
着ぶくれてSNSをミュートして ますかけ線
木の上のサッカーボール鰯雲 蛸
ばつたの眼ブラックダイヤの如けぶる 桂晃
以下、OB。
フラミンゴが避ける紅葉の潦 黒岩徳将
『ふたつの部屋』は松本余一(1939 - )の第2句集。序文:林誠司。
著者は「ひろそ火」「海光」会員。
牡丹雪吸ふつくばひのまた光る
オリオンの帯貫きて鶴帰る
海底より見上ぐる水面風光る
裏山に登れば多摩と甲斐の春
うららなり眠るも死ぬも眼鏡とる
パラグライダー夏空のせりあがり
老人に水着売り場の大鏡
湿原は大いなる画布水芭蕉
復活は誰にもあって万年青の実
ゲルニカの馬にたづねよ八月来
大仏の頭が見えて秋めけり
盆の月助手席にゐる妻の影
この川にまぎれてゆけば秋の海
銀河より水のこぼれてへちまかな
冬帽や落ちたら割れる陶器市
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
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