『秦野』は浅井敏子(1937 - )の第2句集。序文:名取里美。
著者は「あかり俳句会」会員。
春一番やうやくお墓買ひました
金木犀ふつとあなたがゐるやうな
ひめむかしよもぎ機関車通りすぐ
袴着け青年の立つ花吹雪
彼岸花家族の増ゆるごと増えて
霜柱素足で踏むや地震の朝
初句会鎌倉野菜三十種
日覆の揺るる老舗のオムライス
雨あがり豌豆の花どこまでも
漬物屋甕を並べて金魚飼ふ
叱られて猫の出て行く十三夜
日だまりに脚を畳みし枯蟷螂
富士小春ひ孫ずつしり腕の中
やはらかき指を絡ませ昼寝の子
深悼 黒田杏子先生
花も見ず一途に語り逝かれしか
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『佳き人に』は碓井真希女(1959 - )の第1句集。序文:安藤喜久女。
著者は「俳星会」主宰。
富岡製糸場
武士の娘も糸挽きをなす返り花
身も球も硬きテニスの早春戦
ラケット振るほどの明るさ黄落期
イサム・ノグチ その人・その作品 十三句 より
天蛾(やままゆ)や地球そのもの彫刻す
イサム・ノグチ その人・その作品 十三句 より
混沌の世界に裸身宇宙人
透視図のごときタイルの先に月
ヴォーリズの螺旋の行方文字摺草
運慶の燃ゆる身の内滴れり
エストニアの城壁に聴く初音かな
ベルトコンベアーの支柱残れる秋の暮
モデュロール人の尺度や竹の春
青嵐巨石はだかるクサリ坂
脱酸素へ人はざわめき山眠る
寅の口ぽつかり開いた年賀状
大壁を鏝(こて)で削りて夏に入る
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『水の色』は河内静魚(1950 - )の第7句集。
著者は「毬」主宰。
若竹の色に速度のやうなもの
しづけさの寒さにかはるまで椅子に
消灯の後の子おもふ雪催
春の土踏んで病む子に会ひにゆく
春さびし水はコップのかたちして
あゆ子逝く
一落花風をつかまへ舞ひ上がる
青くあをく抱きしめにくる秋の空
緑蔭は大きな水の匂ひかな
星たちの迷子に見えるおぼろかな
サンダルの下の大地や夏休
一枚もなしありふれし落葉など
東京は広さとなりぬ十一月
年越すや地球は海を抱きながら
青空があんなに遠し紙風船
みじか夜や時計に音のありしころ
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『滝の宿』は石川暉子(1937 - )の第1句集。序文:松尾隆信、跋文:横山節子。
著者は「松の花」同人。
髪結ひて後ろ姿の初鏡
あるほどもなき移り香の衣文竹
天ぷらの衣薄目に秋立ちぬ
鐘つけば秋よ秋よと谺せり
白薔薇の散り行く如く兄逝けり
みどり子と枯葉を追へり遊園地
はまぐりの白ふつくらと汁の中
この空の青さは今年竹のもの
目の合ひし山羊に餌をやる雲の峰
玄関へ誰か来る音夕時雨
鉄の上鮑の踊る夏料理
天高しハーレーダビッドソン五台
ボート漕ぐ先へ先へと花筏
登山者のリュックを登るいぼむしり
夕星のひとつのみあり初御空
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。
『かまくらゆり』は堀込学(1966 - )の第2句集。
著者は「鬣」同人。
みのうちのやまなみとよむ斧始め
友なべて娶らずにをり冬至粥
神々は遠目とならむ寒の水
しぐるゝやでもをうつさぬ秋つしま
睡蓮のひらかば夏の自由なる
花氷をとこのなかのをんなの貌
山蟻にいつしか障子開けらるゝ
カーチス・ルメイに叙勲や冬の蟲
山の端に三日月降ろすきつねびと
人形の頭(づ)のなかに置く手紙かな
榾箱に一つ目のゐてけふはゐず
冥途へとあをき市電のひたはしる
囀りや野に一面の硝子屑
さみしいのであけがたは烟がでてくる
水道水つぎの世界のかたちはも
※本書は著者より寄贈を受けました。記して感謝します。